1. キンタマはしぼむが出会いのつぼみは花開く ~序章:開幕~
何故このしがないキンタマが、可憐な女の子達しかいない学園に通う事になってしまったか。
事のあらましは数か月前に遡る。―――
僕こと夜兎 煌河助月守天道 (やと こうがのすけつきもりのてんどう)は
山奥でいつもの鍛錬を終え、火照った体を冷やすために滝行にいそしんでいた。
何故このご時世こんな場所で鍛錬しているのかというと、僕は代々名家に使える
護衛の家に生まれた。
平和になった現代社会で、護衛なんぞ必要ないから好きに生きれば良いとは言わ
れたものの健康の為、幼少期に適度にヤバイ鍛錬をさせられた僕は、それが習慣に
なり今でもこうしてtババババババ
ヤバイヤバイヤバイバイバイさむいさむいさむいしぬしぬしぬ。
なんで春が来る前からこんな事やってんだ、ぼかぁ冷やし中華か。
今日は割と鍛錬に熱が入り、『いつもよりあちぃからいけっべ~』と意気込んだ
のが良くなかった。
おかげでたまたまもしょんぼりちんでんまるだ。
生まれたままの姿で滝から上がり、目をかっぴらきタオルへと手を伸ばす、すっぽんぽんのまま。
原初の人間の暮らしを肌で感じるのもまた、プライスレス。
しかし、こんなとこ誰かに見られたら即通報ものだ。
江戸時代なら山に生ける伝説の妖怪になっていたことだろう。
得ていたかもしれない不名誉な名声に名残おしさを感じつつ
火を起こし、服を着て、軽い風で髪を乾かした僕は山を下り街に出る。
寒さに震えながら帰路についていた途中、泣きじゃくる幼子に遭遇した。
こんなとこに子供が1人でいるなんて珍しいな。
あたりを見回したが人通りは全くなく、他に頼れる人もいないみたいだ。
仕方ないな。
「どーしたの?おとーさんおかーさんは?」
「ぅぅ……ぁかんない……」
「そっかぁ……」
見たところ5歳くらいの女の子だろうか。
こりゃどうしたものかと思っていた僕はとりあえず近くのコンビニに行く事にした。
今日は比較的冷えるしな、何か暖かい物でも与えて落ち着いて貰おう。
ていうか寒いわ僕が、風でも引いたかぁ?まだタマタマちぢこまってるし。
やれやれこれじゃあ、キンタマどころかキュンタマだよ、玉袋からきゅんです。
なんてしょうもない事を考えつつコンビニに到着。
向かう途中に少し会話したんだけどこの子は「るーり」ちゃんと言うらしい。
「これとこれがいい!」
肉まんとピザまんをご所望の小さいお嬢様にお紅茶も添えてあげよう。
疲れていないか聞いたのだが、どーやら迷子になり不安になっただけなのか今では元気だ。
僕らはコンビニを出て交番へ向かう。
「おにーちゃんなまえなんてゆーの?」
「こうがのすけつきもりのてんどう だよ」
「おにーちゃんなまえなんてゆーの?」
「こうがのすけつきもりのてんどう だよ」
「そんななまえないよー!」
「ははは……」
「まじまんじだね!!!」
そういえばこっちの自己紹介がまだだったし、幼児に自己紹介もしたことないので普通に名前で名乗ってみたけどそらそーなるわ。
これから幼児への自己紹介用の名前を考えないとダメだな……。
てゆーかなんだまじまんじて。
うさぎの髪飾りの似合うるーりちゃんはすっかり元気を取り戻し、肉まんを頬張りつつ色々お話してくれた。
やっぱり子供は笑顔でいてくれるのが一番だね。
子供ながらの拙い話を察するにおそらく帰省した家族の子供だろう、皆でこっちに来てるらしい。
るーりちゃんに心を癒されつつ歩いていると。
お、交番が見えてきた。幼児を連れまわしてる妖怪がいると通報されなくて良かった……。
「すいませーん、おまわりさ」
「るーちゃん!!!」
「「おわぁ!」」
「もー!!! めちゃ心配したんだからぁ!!!」
「おねーちゃん!」
るーりちゃんと一緒にびっくりしてしまったが中にこんなきれーなお姉さんがいたのか。
一瞬ドキっとしてしまった。
交番は大抵外から中の様子が分かるようになっていると思うけど、端の方にいたのだろうか
気付かなかった。
それにしても派手なギャルだな、その女性の装いは妹を探していたためか服装こそギャルっぽくはないが背は高く、ブロンドの長い髪が綺麗で強気な顔立ちに良く似合っている。
普通に生きていたら僕が関わることはないだろうな。
……おっと、るーりちゃんを抱きしめながら再開に浸っている姉妹にあっけにとられていた。
ここで一句。
涙降る 雪をも溶かす 姉妹愛 キンタマ心の俳句。
これで一件落着だし退散するか、僕が交番を出ようとすると
「まって! ちゃんとお礼したいから! まって!」
「あ、あぁ」
それから奥の部屋から出てきたおまわりさんに事情を説明し交番を出た僕らは今、近くにある
公園のベンチに座っている。
そして、家族に連絡を終えた妹にあまり似ていないギャルが口を開いた。
「もぉ、ホント助かっちゃった! ウチら皆キャパっちゃって! アタシがチビたちの面倒見てたんだけどフロリダの間にいなくなちゃってさぁ、アンタマジでシゴデキだね!」
「おにーちゃんしごでき!!」
キャパ……フロリダ?シゴデキ??
「ここはフロリダじゃないですよ」
……わずかな沈黙が静寂を支配する、僕何か変な事言ったかな?
「ぷっ……ハハハハwwwウケるwwwまってwwww」
「うける!うける!」
何かツボに入ったのだろうか、フロリダの方すみません。
「はぁwwウケるw……アンタ名前なんてーの??」
「夜兎 煌河助月守天道 です」
「え?w」
「夜兎 煌河助月守天道 です」
「なにそれ?お酒の名前?わかんないけどw」
「い、いや 夜兎 煌河助月守天道ていう名前なんですよ……」
「きゃはははwwwそんな名前ないっしょwwwwマジ卍www」
「まじまんじー!」
僕の肩に寄りかかりながら一頻り爆笑するギャルとるーちゃん。
やっぱり姉妹だこれ、るーちゃんの言葉遣いはこのギャルの影響か。
そして「るーり」ちゃんはどうやら「瑠璃」という名前で「るーちゃん」と呼ばれてるみたいだ。
そしてさっきのギャル言葉だが
キャパい:キャパシティを超える
フロリダ:風呂に入るから離脱
シゴデキ:仕事が出来る
ということらしい。どーなってんだこの国の言語は。
ギャル言葉はよくわからないので、なるべく一般的な言葉でとお願いをしたら快く了承してくれた。
ていうか本格的に寒くなってきたな。
「でもホントこみこみでありがとね! るーちゃんにおやつとかも買ってもらっちゃってさ……
あ!お金、いくらだった??」
「いや、いいですよ、困ったらお互い様ですよ」
視界がくらみ頭がふらつく……。
「そだ! 今からウチきなよ、お礼もしたいしさ! アンタいい子だし、るーちゃんも気に入ってるし!」
「おにーちゃんくるの!?」
ギャルが肩を組んで家に誘ってくる。
胸がドキドキして意識が朦朧とする。
「いや、いいですよ 迷惑かかりますから……」
「なに? さっきから顔ちょい赤いけど、照れてんの?w可愛いじゃんーww」
ギャルが肩を組んだ手でヨシヨシしてくる
あぁ、きつい、もうダメだ……
―――――――
夕暮れの近づく公園、2人の少年少女と1人の女児が談笑していた。
からかわれ、とぼけたような少年の反応に一頻り笑う少女。
そして女児も、さっきまで迷子だった時の不安な気持ちが嘘のように笑顔でいた。
しかし談笑を始めてから半刻ほどの時が過ぎようとする頃。
「きゃ!誘ったのはアタシだけどいきなりすぎていうか!合図くらいほしいていうか!」
「ちょっとー、聞いてる?……どうしよ……」
さっきまで楽しく会話していたはずの少年が倒れてしまったのだ。
しかも倒れた少年の頭は計算されたかのように、少女の豊かな胸に吸い込まれていく。
如何わしい魔術でも使っているんじゃないだろうな、ケシカラン。
倒れた少年の頭を膝に乗せ、少女は様子を見る。
「もしもーし? 起きてー」
10分は経つだろうか、呼び掛け続けるも一向に反応がない少年の様子に
その少女は一抹の不安を覚え、自分の頭を過った言葉を女児が発する
「おにーちゃんしんじゃうの?」
「だいじょーぶ!お兄ちゃんはちょっと疲れちゃってるだけだから!」
自分の涙を飲み込み少女は泣きそうな女児に応える。
少女はさっきまで少年が照れて顔を赤くしていると思っていた。
そんな自分を殴りたくなった。
この男の子は自分の体調が悪い時にまで「るーちゃん」を助け
それを隠してお礼も受け取らず去ろうとしていたのに
それを自分が止めたせいで倒れてしまった。
罪悪感で胸の中がいっぱいになった。
携帯の充電も切れてしまい、このままじゃ助けも救急車も呼べない。
「ちょっとだけまっててね……」
手遅れになる前になんとかしなきゃ!
そう思い立った少女は、男の子の頭を撫でた後立ち上がり
るーちゃんを背負い交番へ駆け出した。――――――
るーちゃん (イメージイラスト)
本来はイヤリングやピアスはしていません
ギャルのお姉さん (イメージイラスト)
もっとラフな格好にするつもりでしたが、上手くいきませんでした
なのでとりあえずの私服のイメージです
夜兎 煌河助月守天道 (イメージイラスト)
物語の主人公です
備考:10分くらい何の反応もない主人公を心配して救急車を呼びに行く
携帯の充電が切れ、るーちゃんを一人にできないため一緒に交番に電話を借りに行く
ご愛読ありがとうございます!
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気持ち良いので