23. 芽生える恋心?
ご閲覧ありがとうございます!
AIイラストはあくまでイメージとしてお楽しみください
【追記、編集】2024.01.11 19:30頃
フリガナを追加しました GW
表記を編集しました:スズ→涼音
任務を終えた日の夜、菖蒲色の夜空に浮かぶ雲を融かすように振り注ぐ月明かりを眺めながら、僕は琥珀と共にバルコニーのウッドデッキに座り込み夜風に包まれていた。
「それで、これから任務に当たる事になったんだ」
「何やら辺鄙な場所にいると思ったがそんな事をしておったのか」
琥珀はワインを口に含み僕の方を見る。
どこか遠い目をした琥珀の表情に僕は言葉を詰まらせる。
「あまり危険な事をするでないぞ、小夜も悲しむからの」
「そうだね、それと見て貰いたいものがあってさ」
僕は妖力や呪力を封じ込める袋、通称カエル袋。
そのカエル袋から任務地で拾ったビー玉のような紅色の玉を取り出し琥珀に見せる。
「これが龍脈の流れを遮ってたせいで瘴気が発生してた思うんだ、僕じゃその玉が何か分からなくてさ」
「うーむ、瘴気の含まれた形跡はあるがそんな事さして珍しくないしのう……」
ちなみに龍脈とは大地に流れる龍穴へと続く気の流れだ。
龍穴とは簡単に言ってしまえばパワースポットみたいなもので、災害とは無縁の繁栄しやすく豊とされる土地だ。
決して龍のおケツではない……まさか語源は龍のおケツなのか??僕が知らないだけで。
僕が変な事を考えながら桃をつまみ口へ運ぶのを余所に琥珀は言葉を続ける。
「ただ意図的にこれが龍脈に置かれた可能性を考えると、厄介事が絡んでるかもしれん」
「それに最近何かと物騒じゃ、瘴気の発生や低級妖怪も増えておるからの」
「妾の目を盗めるほどのヤツが裏で手を引いてるやもしれん、妾も注意してみるが気を付けるんじゃ」
この島には結界が張られていて外の妖怪はそうそう入ってこれない。
しかし島内で発生する瘴気から妖怪が発生する事もある。
といっても大体は人に害する事のない妖怪だ。
それにこの結界には瘴気を弱める効果もある。
楽観的だけどあまり心配ない様な気もするが……。
「琥珀は島の様子が全部分かるんじゃないの?」
「分かると言っても意識を向けた場所だけじゃ、常に把握してるわけではない」
「そうなんだ……」
どうやら琥珀も万能の神ではないようだ。
でもなんか安心した、琥珀も1人の人間というか狐というか、何にせよ僕らとあまり変わらないのかもしれない。
強大な力を持ってはいるが、こうやって僕らと共にご飯を食べ笑って寝て、穏やかに過ごしている。
と、僕が安心していると琥珀は少し眉を吊り上げ、火照った顔で少し拗ねた様な表情をする。
これは、少し酔ってますね。
「むぅ、なんじゃその顔は……」
「なんか安心してさ、琥珀も僕らと同じなんだって」
琥珀は僕の言葉を聞くとにんまりし僕の膝の上へ頭を委ねる。
「なにはともあれ用心せい、少しでも危険と思ったらすぐ妾を呼べ」
「ありがとう、琥珀」
「にゅふふー」
酔っぱらってだらしない笑顔をする琥珀の耳や頭を撫でながら、月を眺めてると……。
「2人ともずるい……私も!」
「小夜、おいで」
寝ていた小夜が起きてきた。
僕は2人の大事な式神を撫でながら月を共に眺め、平和な日常が脅かされない事を願った。――――――
――――――
空が黒に染まりかけ日が沈む中、1人の幼児の女の子が道を彷徨い歩く。
彼女の心を映したかのように暗くなりかける空が、目の前の世界を飲み込んでいくと共にその少女の心は不安に駆られていく。
「ぅぅ……おとーさん、おかーさん……香蓮ちゃん……」
両親と共に家族の実家に帰省していた彼女は、物心がつき始め見るもの触るもの全てに興味を示して動き回るため、家族もなるべく目を離さないようにしていた。
しかし彼女は両親の目を盗み、自分が見た事ない世界へ自分の足で進みたいという衝動に駆られ両親と買い物をしている途中に抜け出してしまったのだ。
ゆっくりとした幼児の歩くスピードで歩を進めるが、彼女の足取りは月の光が明るくなり空が暗くなる度に重くなって行く。
自分が見た事のない世界がこんなにも不安で怖いものだと思わなかった。
こんなことなら両親の元を離れなきゃよかった。
そんな思いを胸に浮かべながら溢れそうな涙を堪え、暗がりの道の中で1人歩を進めていく。
すると、柔らかい鈴の音と共に優しい鳴き声が彼女の周囲に響き、彼女の耳へと届く。
「にゃ~ん」
彼女が鳴き声の方へ顔を向けると、暗がりで陰になっているが恐らく猫のような動物が彼女の電信柱一本分程の先へと佇んでいた。
自分の好きな動物を見つけ、少し心が軽くなった彼女はその猫の元へと歩く。
「にゃ~ん」
「ま、まって!」
動物も道も暗くて良く見えない中で彼女は歩を進め、その猫らしき動物の後を追う。
その猫の様な鳴き声を聞く度に、自分を元気付けてくれている気がして不安でダメになりそうだった彼女はもう少し頑張ろうと気力を振り絞る。
時折こちらを振り返り、ソワソワして心配するような素振りを見せる猫に彼女はお礼を言いつつ宵闇に包まれる道を進み……。
「ねこさんありがとー!」
「どうかお願い、私の子供を助けてあげて」
幼児の女の子はまばゆい光に視界を奪われると共に優しい女性の声が聞こえ、彼女は夢から目を覚ます。
「今のはあの時の……」
幼い頃の出来事を夢で見た彼女は、朝日と共に身を起こし一日の準備を始めるのであった。
――――――
春ももはや初夏と言えるような熱気が漂い、GWも近づいてきたある日の放課後。
午前のみの授業を終え、僕は生徒会室のゴミを纏めゴミ捨て場に来ていた。
生徒会と言っても活動が毎日あるわけではなく、今日は怪異に対応する任務のみだ。
任務には夕方辺りに向かうのでそれまで各々時間を潰したり、部活動に出ている。
それで僕は本を読む涼音とPCと睨めっこしている朱鳥先輩を部室に残し、気分転換も兼ねて外に出ている訳だ。
さて、時間までどうしよっかなー、と手をパンパンはたきつつ考えていると見知った生徒の背中を発見し、僕は小走りでその子の元へと駆け寄る。
何か運んでいるみたいだ。
「麗香、持つよ」
「あっ……」
僕は麗香が運んでいた土の入った袋を横から攫い隣に並ぶ。
それにしてもどうしてこんな事してるんだろうか。
僕が疑問に思っていると、珍しくTシャツとジャージを履いたラフな格好で髪を纏めた麗香が一瞬びっくりした顔をし、すぐ我に返り笑顔を向けてくれる。
「ありがと! 生徒会は?」
「皆集合するまで暇でさ、ゴミ出し行ってた。それより麗香は何してるの?」
「アタシさ、実は園芸部入ってんだよねw」
「へー……」
……え?園芸部!?
「え!? 園芸部!?」
普通にびっくりした。
別に嫌味や皮肉は一切ないが麗香はとても園芸部で活動しているようには見えない。
額に汗して土いじりしてる所など想像もつかない風貌をしているのだ。
驚嘆する僕の表情が反応通りで面白かったのか、麗香は笑いながら話を続ける。
「そそ、元々家が農家しててさーw土いじりとかけっこー好きなんだよねw」
「それに毎日あるわけでもないし、気が向いたら行くって子も多いから気楽なんだよねー」
麗香の実家は農家なのか……。
そういえば麗香の実家は僕の実家の近くなんだろうか。
初めて会った時を思い出し僕は考える。
が、今はそんな事より土を運ばないと、けっこー重いぞこれ、麗香はよく持ってたな。
「そーだったんだ……びっくりしたよ、悪い意味じゃなくてそういう風に見えなかったからさ」
「良く言われるw」
「そ、それよりこれどこへ運べば……?」
「あぁごめんねwこっちこっち」
僕は右斜め前を歩く麗香の背に付いていく。
たまに体育で見たりするけど麗香の髪を纏めた後ろ姿もスタイリッシュで良いな……。
「これから皆で何か育てて食べようって話になってさー、今その準備してんのw」
すらりとしつつもメリハリのある体型にTシャツとジャージのラフな格好も様になっている。
きっと何着ても似合うんだろうな……。
「そんでアタシがじゃんけん負けて土運ぶ事になってさー、今荷台も壊れてんだよねー」
ちょうどお尻と腰の狭間まで隠れるくらいの丈の短いシャツが、腰のラインにフィットしくびれを強調させている……。
健康的で品のある色気を感じさせるように魅力的だ……。
細いジャージもスタイルの綺麗なヒップを強調させて自然と目が奪われてしまう。
「ちょっとめんどーだったけどこーちゃんに会えたからラッキーだったかもw」
それにいつもは麗香の席の前にいるから分かりずらいけど……これは麗香の香りだ。
彼女がスキンシップしてくる時に良く鼻の奥を刺激してくる様な、爽やかさの中にほんのり甘い良い香りが漂っていて鼻腔をくすぐってくる……。
…………なんか今、僕変態っぽい??
「じゃ、その肥料そこ置いといて」
「お、おう」
僕の脳内が麗香に悩殺されてしまいそうになっていると、気付くと園芸部の倉庫の中に入っていた。
ハニートラップを受けた気分だ、いつの間に倉庫の中にいたんだ。
そしてどうやら運んでたものは肥料みたいだ、ていうか肥料て書いてあったわ袋に。
「助かっちゃったー、やっぱ男の子いると頼りになるねw」
「このくらいいつでも手伝うよ」
麗香には世話になってる、弁当だけじゃなくて学校の分からない事なんかもいつも一番に教えてくれるし頭が上がらない。
だから何かお礼ができないか考えているが、中々いい案が浮かばずにいたんだけどこういう手伝いも良いかもしれない。
「何か他に手伝う事ない? 日頃のお礼って訳じゃないけど力になるよ」
「あ、じゃあさ、今皆で土柔らかくしてるからこーちゃんも手伝ってよw」
「オッケー」
皆で育てた作物を食べる……なんか良いなそういうの。
皆で畑で育てた作物を収穫して食べるのは良い思い出になりそうだ。
僕が外に出ようとすると、動かずにいた麗香が僕の袖を掴み声を掛けてくる。
「あのさ、今の日頃のお礼って訳じゃないんでしょ?」
「え、まぁお礼というかお礼じゃないというか……」
日頃のお礼じゃないと口走ったのは言葉の綾というか、恩着せがましくならないように言っただけなんどけどな。
普段は軽いノリでしかお礼が言えていないし、今は自分の正直な感謝を伝える良い機会かもしれないな。
この前気持ちを吐露した時にも感謝は伝えたつもりだが僕の身の上話ばかりだったし、幸い今は2人きりだ。
麗香は僕の顔を見つめ言葉を待っている。
「いつもさ、麗香にすごく感謝してるんだ、弁当も作って貰ってるし学校生活の事とか」
「だから普段もお礼したいなって考えてて……日頃のお礼じゃないって言ったのは麗香に気を遣わせないようにと思ってさ」
「ほんと、いつもありがとう」
なんか少し重い空気になってしまっただろうか、部活動中の生徒たちの声が倉庫にまで微かに響き渡る中わずかに沈黙が続いた。
「そ、そっかぁ~!そんな風に思ってんだ~w」
すると麗香は気の抜けた嬉しそうな笑顔で僕に笑いかけてくれる。
「じゃあ今度さ、日頃のお礼として個人的な事とかでも手伝いとか頼んでいーい?」
「う、うん、力になれるなら喜んで行くよ」
「こーちゃんはイイ子だなーw」
さっきの空気が嘘みたいだ、僕を引き留めた時少し緊張していたような顔をしていたが気のせいだったかな。
麗香は嬉しそうに笑い僕の背中を叩きながらこう言った。
「あとさ、さっきありがとね! 荷物もってくれた時にきゅんてしちゃったwカッコよかったよ!」
麗香は可愛らしい笑顔でそう言い放ち倉庫を出て、僕はその背中を追った。
その後、麗香が園芸部員達に僕を紹介し、夕方も近づき皆で畑を耕し終えお茶を飲んで休憩していると、僕は探しにきた涼音に怒られながら生徒会室へと戻るのであった。――――――
――――――
部活を終え、学生寮のシャワールームの一室で、麗香は汗を流しながら今日の事を考えていた。
ジャンケンで負け肥料を運ぶ事になったものの、たまたま煌河と会い2人きりになる口実を作れたことを思い返し、麗香は機嫌を良くし鼻唄混じりに温めの湯を浴びる。
麗香は先程、園芸部の倉庫内で2人きりになり煌河が外に出ようとしたときに、この時間を終わらせたくないと一瞬そう思ってしまったのだ。
そして彼を引き留めたは良い物のぎこちない空気が流れたが、彼から心からの正直な気持ちを聞き、その後流れでこれからも2人きりになれる口実を作れた。
その事に上機嫌でシャワーを浴びる麗香だったが、ふと純粋な疑問が彼女の頭をよぎる。
(アタシ……なんで2人きりになりたかったんだろ……)
そうして彼女はたまたま現れた煌河を思い出し、荷物をもってもらった時の事を思い返す。
ジャンケンに負けたから仕方ないとはいえ1人で気分が沈んでる時に、後ろから現れ紳士のように荷物をもってくれた。
いつものほほんとしていてユーモアのあるひょうきんな男の子とは打って変わって、その瞬間だけは頼りになる男の子に見えて麗香は心の奥がときめいていた。
(いつもはできた弟みたいで可愛い男の子だけど、今日はちょっとカッコ良かったかも……)
それから時を遡り、美味しそうに自分の作った弁当を食べる顔や、自分の前で安心した寝顔を見せてくれた事、お菓子と一緒にお守りをくれた事や、体調が悪いのに自分の妹の面倒を見てくれていた事。
初めて会った時に妹を助けてくれていた事、様々な事を思い返す。
それと同時に頭から胸の奥、体の中心を心地よく締め付けられるような感覚になる。
(アタシ……こーちゃんの事好きなのかも……)――――――
――――――
備考:肥料は注文したのが校門付近に置かれていた。
荷台が壊れているので必要な分だけ取りに行っていた。
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