17. ザワつく学園と乙女心
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凛華姉さんと久しぶりに再会した翌日、僕は姉さんに連れ出されて温泉街の方へ遊びに来た。
姉さんと神社で再開した日、おじさんおばさんと泣きじゃくる姉さんをなだめ皆でクロッフルを分ける事でなんとか事なきを得たのも束の間。
僕が帰るときに琥珀と小夜と一緒に暮らし始めた事が姉さんに知られてしまい、姉さんも一緒に住みたいと駄々をこね始めたのだ。
おじさんがなんとか姉さんを諭し、今日一日僕を貸し切り&合鍵でいつでも僕の部屋へいけるという結論でとりあえず話は着地したわけだ。
昔ながらの街並みで彩られた温泉街を凛華姉さんと共に浴衣を装いのんびり歩きながら、穏やかな和の空気に癒される。
この島には近代的な場所が多いと思っていたけどこんな場所もあったんだな。
せっかくなら琥珀と小夜も連れてきてあげたかったな。
どこも近代化が進みこういう街並みは廃れつつあるけど、こうも懐かしさと落ち着きを感じるのは日本人のDNAに和の心が刻まれているからだろうか。
そしてある程度温泉に入り終えた僕らは食べ歩きをしながら次なる目的地へ向かっていた。
名物の1つである団子を購入し、凛華姉さんが嬉しそうに僕に食べさせる。
「ほら、あーん」
「もぐもぐ」
「フフ、美味いか?」
「美味しいよ、凛華姉さんのおかげで」
「相変わらず口が巧いな、こーちゃんは」
求められているであろう答えを口にした僕は、笑顔を向けてくれる凛華姉さんに罪悪感を募らせてしまう。
凛華姉さんはおそらく僕の事を好きなフリをしているのだ。
きっとお互いに久しぶりのこの時間を楽しいと思っているのは本心だろう。
しかし彼女の僕への好意は、きっと自分自身の心を欺くための嘘なのだ。
過去に彼女が不本意に引き起こしてしまった、一連の事件に首を突っ込んだ僕は生死の境を彷徨った。
それからその負い目を償うかのように僕にくっつくようになってしまったのだ。
そうしないと、彼女は自分の罪と向き合う方法が分からなかったのだろう。
僕はただ、彼女を守りたかっただけだったのに。
子供過ぎた僕の軽率な行動のせいで、彼女の心を縛り付けているのかと思うと僕はどうすればいいか分からず哀しい気持ちになり、答えが解らなくなる。
だからせめて一緒にいる時だけはなるべく彼女を笑顔にしようって、そう決めた。
「この団子ほどじゃないさ、僕も食べさせてあげるよ」
「いいんだ、私が食べさせる方が楽しいからな」
「照れてるの?」
「そんなわけないだろう、ほら着いたぞ」
僕は凛華姉さんに軽くチョップされ、本日最後の目的地の足湯へ到着する。
宵の闇が空を支配し、薄暗く冷たい空気と共に身体が冷やされていく中、僕らは足湯に浸かりのんびりする。
春の冷たい夜に冷やされていく身体が、足からほんのり温まっていく感覚が心地良い。
そう思っていると凛華姉さんが思い出話を始めた。
「こうしているとあの時を思い出すなぁ、あの時は夏ではあったが」
「あぁ、良く縁側で足を冷やしながらそーめんすすってたよねぇ……」
小さい頃は風の爽やかさを感じながら冷たい氷水に足をつけ、そーめんや冷やしうどんを稽古終わりに凛華姉さんと一緒に食べていた。
暑い夏だったはずだが、思い出すと涼しさを感じるのだから不思議な物だ。
「氷水に半分うどんを零したこーちゃんが『冷たくなった!』と言っていきなり全部零し始めたのには
今思い出しても笑ってしまう」
「つ、冷たくて美味しかったんだよ」
久しぶりに再会した凛華姉さんと、あの頃のように無邪気に笑い合えたら良いなと僕は思い、温泉街の日帰り旅行を終えた。――――
――――――
「う……美味い……」
休日が明け新しい一週間の始まりの朝、僕達は凛華姉さんの作った朝食をいただいていた。
朝に台所から物音がするなと目を覚ましたらなんと凛華姉さんが朝食を作ってくれていたのである。
一緒に学校に行くから迎えに行くとは言っていたが、こんな朝早く来て、朝食を用意してくれるなんて。
「そうだろう、こーちゃんのためにたっぷり愛情を込めたからな」
「ありがたいけどさ、ここまできて作るの大変でしょ、無理しなくていいよ」
「何を言っている、無理などしていないさ、愛する未来の夫のためだ♥」
凛華姉さんがそう言い味噌汁をすすると、バクバク朝食を食べていた式神2人は凛華姉さんにお椀を差し出す。
「何をいちゃついておる! おかわりじゃ!」
「私も……!」
「こらこら、自分の分は自分でよそいなさい」
「まぁいいではないか、まるで本当の家族の様で私は嬉しいぞ」
僕が注意すると上機嫌な姉さんはまぁまぁと言い2人のお椀に米をよそう。
よっぽど姉さんの作った朝食が美味しいのか2人ともいつもとは違う勢いで食べている。
いつもの冷食はちょっと味が弱いからな、ゴキゲンな朝食に2人とも舞い上がっているみたいだ。
丁度いい味付けの古風な和食だが本当に美味い。
前はここまで料理上手じゃなかったと思うけど、頑張ったんだなぁ。
「姉さん、料理上手になったんだねぇ」
「なに、花嫁修業の一環さ、もっと褒めても良いぞ」
僕ははちゃめちゃな料理を差し出された過去を思い出しながら内心で感涙に浸っていると、既に朝食を食べ終えた凛華姉さんは、美味しそうにご飯を食べてる僕を見つめ頭を差し出す。
「頑張って練習したんだね」
僕が姉さんを褒め頭を撫でると、姉さんは満足気な表情で口元が緩み切っている笑みを見せる。
なんだかんだ美人で可愛い人なんだよな、彼女の罪悪感が消え僕への心象が早く改まるといいんだけど……。
そう思い姉さんを撫でたら。
「凛華ちゃんずるい……!」
「これ、妾もよしよしするんじゃ」
2人の式神が抱き着いてくる、姉さんは小夜がお気に入りみたいで『私がヨシヨシしてあげよう』と小夜を抱きしめ撫でる。
小夜も嬉しそうだ、僕と姉さんが引っ越しで別れる前は姉さんにも懐いていたからな。あの時はカラスだったけど。
僕は琥珀のお耳をヨシヨシしながら食べ終えた食器をまとめ片付ける。
にぎやかな朝の一幕を終え、僕らは家を後にした。――――――
――――――
休日から明けた学園といえば、まためんどうな授業が始まると陰鬱な空気感が漂うものだがこの日はいつもと一味違い一部の生徒はとある話題で盛り上がっていた。
そんな中で、朝の日差しが注ぐ教室でザワつく一部の生徒の集まりから返ってくる陽菜へ千冬が尋ねる。
「なんだったのか分かったー?」
「生徒会長がさ、煌河と一緒にデートしてたんだってー」
陽菜の言葉を聞いた麗香は一瞬自分の心が揺れ動くのを感じたがそれが何なのか分からず、気のせいかと受け流す。
「それで??」
「さぁ? そんだけみたい」
確かにザワめくのも頷ける、この学園の生徒会長と副会長の2人はファンクラブができるほどの人気で、学外でも人気がある。
そして生徒会長のファンクラブの一員はこのクラスにもいる、だから一部の生徒のテンションが高いのかと麗香は腑に落ちた。
会話の言葉が途切れたところで、涼音のツンデレを拝めるチャンスを感じた千冬は涼音へと切り出す。
「ふーん、アレックス様じゃなくて良かったね~、涼音」
「私に振らないでよ、そんなんじゃないって」
「ぢゃぁ、アレックス様が煌河とデートしててもいいんだ~?」
レズビアンの特性を持ち合わせるであろう涼音に対し、幼少期から涼音が懇意にしている学園の王子様で副会長の名を出し、陽菜が煽るように涼音に尋ねると、アレックス様ファンクラブ名誉会員の涼音の態度は一変し、必死に否定する。
「い、良い分けないでしょ!! あんなキンタマのスケコマシと!!」
「出たwツンデレww」「ははははwwww」「一日一回、一ツンデレだねー」
友人の煽りに上手く乗せられた涼音は少し恥ずかしくなり、自分は動じていないと平静を装いながら、やれやれと
いった態度で視線を本に戻す。
「ハックショイボケコラバカスオラーイ!!!」
噂をすればなんとやら。
数十秒後、噂の当事者である煌河がクラスへとくしゃみをしながら入ってきた。
煌河の奇々怪々なくしゃみに教室の皆が笑うなか、クラスメイト達と挨拶を交わしながら煌河は自分の席へとつき周りの麗香達とも同じく挨拶を交わす。
すると凛華ファンクラブの一員の女生徒が煌河へと声を掛けてきた。
「こーちゃんおはよw 凛華先輩と付き合ってるってホント?」
「え? 付き合ってないけど……ていうかその呼び方って」
「そーなんだ、今度凛華先輩の話とか聞かせてね!」
「え? あぁ……」
煌河は何が何だか分からず受け答えをしその女生徒は去っていった。
「えw なにこーちゃんてw」
「そーそー! 生徒会長にこーちゃんて呼ばれてたんだって!」
麗香と陽菜が面白がり、煌河は昨日の事を誰かに見られてたのかと大方の察しはつきながらも、なんでその事を知ってるのか疑問符を浮かべる表情をしつつ一応陽菜へと尋ねる。
「なんで知ってるの??」
「クラスの子がデートしてるの見たんだって! 涼音の言う通りスケコマシですなー!」
「いや、デートていうか一緒にいただけだよ」
「それデートじゃんw」
「それもそうだな……」
言われてみればそうだな、年頃の男女が2人で楽しそうな場所に遊びに行くのはデートだろうな、と煌河は同意する。
何故か心の奥が少しザワついた麗香は、煌河と生徒会長の関係が気になり煌河へと尋ねた。
「それでさw 生徒会長とどんな関係なん?w」
「別に皆が想像してるようなのじゃないよ、ただの幼馴染の姉さんだよ」
「「「えぇ!?!?」」」
煌河の発言に陽菜達や聞き耳を立てていた凛華ファンクラブの女生徒達がMASUOの如く驚く中で、麗香は付き合っていないと言う煌河の答えを聞いた瞬間、ザワついていた自分の心が安堵するのを感じていた。
麗香がそれを純粋な乙女心だと理解するのは、まだ少し先なのであった。
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