15. 彼女の女にされた日
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山に吹く風が髪を洗い穏やかな空気が流れる休日の朝、僕は神社にある道場でおじさんに稽古をつけて貰っていた。
久方振りの体術の組手だがおじさんは開口一番『本気でおいで』と僕に呼びかけた。
小さい頃は当然だが全くかなわなかった。
しかし流石に今はそうはいかないだろう、おじさんも年取ってるし。
そんな心配は稀有に終わり、何本も勝負を挑むが僕は一本もおじさんから取る事が出来ず藻掻いていた。
僕は息を切らしながら、拳と蹴りで上段と下段へ攻撃を散らし集中させる。
案の定全て淡々と捌かれるがこれはオトリだ、振るった右拳をおじさんに躱され僕の右腕の袖がおじさんの視界を塞ぐ。
今だ。
中段の感謝の正拳突き! おじさんに届け!
「んのわぁ!?」
「ほいっと」
おじさんに身を翻されつつ正拳突きを躱され腕を掴まれた僕は、そのまま道場の床に組み伏される。
強すぎるよおじさん、もう琥珀ではなくおじさんが守護神でいいんじゃないだろうか。
おじさんが僕から離れ、仰向けになった僕に手を差し出す。
「いやあ強くなったねえ、あの頃と大違いだ」
「おじさん、強すぎですよ……」
僕は軽く笑いながらおじさんの手を取り立ちあがる。
あの頃と大違いなどと言われたが、こう赤子の手をひねるように何度もやられては褒められてるように感じない。
「相手の動きに対応するのも良いが、相手が何をしたいか読めるようになるといいかもしれないね」
「相手が何をしたいかですか……」
「組み手に限った話ではないけどね、割と君はそういうのが得意だろう」
なんとなく分かる事はある、小夜がお腹空かせてるなとか。
琥珀が頬に着いた米粒をとって欲しそうだなとか。
そういう日常的な事も組み手に活かせるって事だろうか。
おじさんからアドバイスを貰った僕はお礼を言い組み手を終えた。
そして僕は近くの縁側で小夜に稽古を付けてる琥珀の隣に座る。
小夜は目を瞑り、神社の広場で妖力を練る鍛錬をしている。
鴉天狗になった小夜はカラスの時より妖力が扱いやすくなったので、妖術の幅を広げているみたいだ。
僕はおじさんから貰ったお茶を1本渡しながら、琥珀へと尋ねる。
「小夜は順調かい?」
「割とのう、鴉天狗になった事で妖力を扱うのが楽しいみたいじゃ」
ちなみに僕ら人間に宿る力を呪力、妖怪や獣に宿る力を妖力、神や精霊に宿る力を神力という。
琥珀は元々は野良の狐から妖狐になった、その中で神として崇められているので妖力と神力の2つを持ち合わせている。
この見えない力の扱いに関して、琥珀の右に出る者はいないだろう。
小夜は鴉天狗という妖怪の類なので妖力を練る訓練をしているという訳だ。
春の少し冷たい風が陽の当たる僕の汗をさらい、穏やかな時が過ぎていく。
ほのぼのした空気が流れる中の鍛錬はやっぱり良いな。
忙しない日々を忘れて心が落ち着いていくのを感じる。
学園が始まる前はこんな感じで琥珀から僕も稽古を受けていたのだ。
そんな事を考え琥珀と共に小夜をぼーっと眺めていると、小夜が目を開けこちらに寄ってくる。
「こうが……!」
「頑張ってるね」
隣に座った小夜が口を開けるので、僕はペットボトルを傾け小夜にお茶を飲ませてあげる。
式神になってから数日経つが、どうもカラスの頃の癖が抜けずこうして僕から水分補給する事があるのだ。
ご飯は普通に箸を使って上手に食べているというのに。やれやれ、甘えんぼで可愛い子だ。
「気持ちは分かるがのう、こういう甘やかし方はよくないぞ」
「こうが、琥珀もやってほしいって……」
「おーそうかそうか、よちよち、あーんして」
「あ、あーん♥」
僕がペットボトルを傾けると、琥珀が照れながら口を開けるので飲ませてあげる。
嬉しそうに尻尾を振りおって可愛いやつめ。
「って何やらすんじゃい!そうでないわ!」
「「ははははは」」
琥珀のノリツッコミと僕らの笑いが穏やかな空気に響き渡り、僕らは鍛錬を終えた。
うーん平和だ。――――――
――――――
程よい緑が溢れ、近代的な街並みを人々の活気が賑わす休日。
僕らは神社を後にして小夜、琥珀と巷で人気のスイーツ店に並んでいた。
お世話になっている人達へのお礼として何かないか、この島の事をほとんど把握している琥珀に相談したところ、どうやらクロッフルというスイーツが流行っているらしい。
クロッフルとはワッフル型のクロワッサンで色んな味や種類があり、それに頭を悩ませるのも楽しいのだろうか流行っているみたいだ。
まぁ琥珀は自分が食べたいだけだろう。涎を垂らしながら教えてくれた。
「良い匂い……!」
「う~ん、待ちきれないのう」
そしてそのクロッフル、開店前から列を成し、売り切れて変えない事もままあるみたいだ。
そこでお礼として丁度いいという事で3人で買いに来たわけだ。
列に並んでいると入店が近づき店員さんからメニューを渡され、購入はどうやら1人3セットまでだとか。
「こちらメニューになります、どうぞ」
「うむ、ほれ小夜、この中から選ぶんじゃぞ、どれにするかのう……」
「いろんなの、ある……!」
メニューには様々な種類のクロッフルの写真が載っており、どれもインスタ映えしそうだ。知らんけど。
真剣にメニューと睨めっこしてる小夜をかわゆす、なんて思い小夜の頭を撫でながら3人でメニューを覗く。
僕と小夜と琥珀で、9セット買えるな。
2つ入りと4つ入りがあるが、特に世話になってる人には多めの4つ入りでも買ってくか。
小夜と琥珀は4つ入りがいいと譲らなかった、まあ気持ちはわかる。
だって美味しそうなんだもん。
お土産を渡したい人数的に僕の分はなくなるけど小夜と琥珀に少し分けて貰うか。
そういえば小夜と琥珀の服装だが2人とも着物を着ている。
この島には本土と比べ様々な文化や格好の人の比率が高いとはいえ、やはり2人の装いはそこそこに目立つ。
僕も作務衣を羽織り和服っぽい恰好をしているが、2人は美女と美少女だからか中々に人目を引いてしまう。
この後は2人の日常用の服でも買いに行くか。
そんな事を考えているとカウンターの前までやってきて注文の時間がやってきた。
「これはこれは麗しい貴婦人に愛らしい娘さんだね、ご家族の方かな?」
なんだこの爽やかで美人なご令嬢は、カウンターのお姉さんがいらっしゃいませの代わりに王子様も
びっくりなご挨拶をかましてきた。
背の高い金髪ショートのお姉さんは爽やかな笑顔でバンダナを巻き、それが可愛らしい雰囲気もありつつ美少年のように似合っている。
いわゆるボーイッシュ系の王子様風お姉さんだ。
「うむ! 中々見る目があるのう!」
「それでは、ご注文を伺いましょう」
さきのセリフで上機嫌になった琥珀はフフっと笑っているお姉さんに注文をしていく。
自分の分を注文した琥珀は続けて残りの計7セット注文してくれた。
さっき僕が言ったのを寸分違えず注文したな、なんて記憶力だ。
「小夜、これも勉強じゃ、自分で注文してみるんじゃ」
琥珀に促され小夜はお店のカウンターに生まれて初めて立ち、自分で注文をはじめる。
一生懸命な小夜たん、かわゆす!
「4つ入りのやつください、これとこれと……あとこれが2つ……」
「かしこまりましたお嬢様、そちらの待機スペースで少々おまちくださいね」
注文を終えた小夜が僕の方を向き、ほんのりドヤ顔で見つめてくる。
小夜たんマジ天使。思わず僕は小夜の頭を撫でる、考える前に手が動くとはこのことか。
それにしても美人でカッコイイ店員さんだ、この店が繁盛してるのはもしやこの店員さんの存在も起因してるのでは。
そんな事を考えていると店員さんと目が合う、するとニコッと店員さんは僕に笑いかけた。
アカン、このままじゃ彼女の女になってまう。
「店員さん、こうがよりカッコイイね……」
ぐふ、やめろ小夜たん、その術は俺に効く、やめてくれ。
とまあ冗談は置いといて実際カッコイイ、男である僕も普通に惚れそうだ。
あ、相手は女性だから当然か。
「お待たせしました、色男なお客様、こちらご注文の品です」
い、色男って僕の事か?
「でへw あ、ありがとうございますw」
ま、まずい、あまりの不意打ちに気色悪い笑いが出てしまった。
「フフ、君とまた会えるのが楽しみだ」
ズキュゥーーーン! この日、僕は生まれて初めて自分の中に女を感じてしまうのであった。――――――
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