94. 掴み取れない平穏
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大江山へと着いた酒呑童子一行は、しばらくしてから平安京へと赴いた。
そして政を取り仕切る平安京の城【大内裏】へカチコミをかけ交渉という名の力比べを仕掛けた。
布作面で顔を隠した謎に包まれたお偉い人に力を認められた一行は、鉱山でもある大江山を職場兼住処とし食料や衣類等、生活に必要な物を融通して貰えるようになった。
彼らの仕事は鉱石の採掘と、辺りに出る人に害を成す妖怪退治だ。
土蜘蛛の様な妖怪がたまに出るせいで、大江山の採掘を諦めていたが彼らの様な力のある妖怪が来た事でこれ幸いと仕事を割り当てられた。
「やぁ、調子はどうだい」
運ばれた物資を届けるついでに彼女らの元へ顔を出す。
彼女らは日々、よく食べよく働く。
都で大事な催し事や祭事がある場合は護衛も務めるくらいに街から認められていた。
「大将、よくきたね! 皆! 大将のお出ましだよ!」
「「「お勤めご苦労様です!」」」
「ささ、どうぞこちらへ」
「肩でもお揉みしやす!」
どうもここに来ると、彼らは必要以上に世話を焼こうとしてくる。
上の方へ掛け合いありのままを報告しているのを、便宜を図ってくれていると思っているようだ。
「昼食時に邪魔して悪いね、どうか気にしないでくれ」
「そうはいかないよ、ここで平穏に暮らせるのも、ひとえにアンタがお偉いさんに掛け合ってくれるおかげさ」
彼女はそう言い頭を下げる。
「恩に着るよ」
「僕は何もしていない、君たちが掴み取った結果だよ」
酒呑童子にそう言葉を告げ、呪力の籠った呪符を数十枚程渡す。
頑張ってる彼女達への僕からの餞別だ。
これがあれば彼女達へ呪力が供給され、それを用いて体調管理や採掘仕事、妖怪退治の大一番に力を発揮できる。
「助かるよ! ほらアンタもお礼言いな!」
「……まぁ、少しは使えんじゃねぇか?」
彼はきっと、自分の姉御が出世して離れていってしまいそうなのが悲しいのかもしれない。
ぶっきらぼうではあるけど、その気持ちは伝わってくる。
「このばか!」
「いでっ!」
酒呑童子が弟分の彼を軽くゲンコツしているがあれを喰らったら人の頭など吹っ飛ぶだろうな。
しかし彼女達にはなんてことのない風景だ。
そんな平和な仲睦まじい怪力の義兄弟を眺め、つい笑みがこぼれてしまう。
「はははは!」
「わ、笑うんじゃねぇ!」
「すまないね大将、どうかこれからもよろしく頼むよ!」
――――――
半分隠れた月光が鋭く闇を照らす夜、政や祭事への中枢にいる師へと大江山を住む妖怪達の報告書を書いていた。
もう少し頑張れば、彼女達はより良い暮らしが出来るだろうと、ささやかに明かりが灯る部屋で筆を走らせながら平穏な未来へ胸を膨らます。
しかしその日、事件は起こった。
「鬼だー! 鬼が攻めて来たぞー!」
!?
街から警鐘を鳴らす鐘の音と、住民の叫び声が響く。
酒呑童子たちが攻めてくるはずはない……彼女達とは別の鬼か?
急ぎ屋敷を離れ、街へ出る。
そこには、街を我が物顔で練り歩き建築物を破壊する鬼の姿があった。
「縛れ縛れ陰の檻、張り付け給へ暴れ鬼」
真言を唱え鬼を縛り封じていく。
何故だ……彼女の配下の鬼達が暴れている……。
呪力を広げ辺りを感知すると、近い所に覚えのある若くも雄々しい豪気を発見した。
「待て!!!」
豪気の主の姿を発見し、声を荒げる。
そこには橋の上に立つ鬼の少年の姿があり、侍に腕を斬り落とされる瞬間だった。
「グアアア!!!」
静止は間に合う事すらなく、彼は右腕を斬られる。
彼の境遇を酒呑童子を通して聞いていたからか、その悲痛の叫びに胸を締め付けられるような痛みを感じた。
「猛り狂う心、怒り狂う心、月光により切り裂かれん」
正常ではなかった茨木童子へ術を行使し、見た事のない微かな邪悪な黒い霧が、月明りによって切り裂かれ消えていく。
なんだ、これは……瘴気ではないのか?
しかしそれは後回しだ、彼の治療を優先する。
呪符を当て、呪力を介し流れ出る血を止めていく。
「綱殿! 何故!」
茨木童子を治療しながら、彼の腕を斬った侍を諌める声を上げた。
しかし、彼は冷たい声でそれに返す。
「術法師の坊か、何故そいつらの味方をする。 鬼だぞ」
くそ……彼らは平穏に暮らしたかっただけだったはずだ!
それなのに……。
「姉御を……助けてくれ……頼む……」
「今は喋るな!」
彼の身体を回復に専念させるよう、口を閉じるよう促す。
……やはり、彼女達に何かあったのか。
その日以来、京の都は酒呑童子の一派を危険視し彼女達を災害のような悪童として扱った。
彼女達と親しくしていた僕の評判は地へと落ち、自分の与り知らぬ悪い噂まで流れるようになった。
そして数日程、時が過ぎた頃。
師の屋敷へ匿われた茨木童子から話を聞くと、酒呑童子は謎の人物と接触しあの邪悪な気の影響を強く受けてしまったらしい。
茨木童子達もその酒呑童子から微かに影響を受け、酒呑童子の命令で鬼や妖怪は都で暴れていたという事だ。
幾度かの襲撃を都が迎え撃ち、彼女達は壊滅状態になってしまった。
残されたのは都で静養している茨木童子と、酒呑童子のみ……。
「やはり、我々側としては見過ごす事は出来ないわけだ」
「近々、酒呑童子の一派を討伐する任も下される」
「君は気が気でないだろう、でも仕方ない。 事件を起こしたんだ、彼女らは打ち首だろうね」
狐の様な顔が描かれた布作面で素顔を覆い隠した師は、落ち着いた語り口調で話を続ける。
「しかし、手はある」
「!?」
「彼女の死を偽装しよう」――――――
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