93. 希望の山
ご閲覧ありがとうございます!
AIイラストはあくまでイメージとしてお楽しみください
素顔を隠すため布で顔を覆った少年のような一人の鬼が少量の果実を抱え、地を蹴り迫りくる検非違使(昔の警官)から逃げ惑う。
鬼は検非違使の死角に入ったところで迷路のような路地に入り、身を隠す。
「おい、いたか?」
「外道丸め、相変わらず逃げ足が速い……」
切らした息が音をたてないようにゆっくりと呼吸を整え、彼は息を潜める。
「はぁはぁはぁ……撒いたか……?」
そして耳を澄ませ検非違使の様子を伺う。
「少量の果物くらいだ、今日はこれくらいにしてやるか」
「ちげぇねえ、これ以上の体力の消耗は賃金の割りに合わねぇからな」
「近々、討伐令も下される……」
検非違使はそう台詞を吐きながら遠ざかっていく。
鬼は胸を撫でおろし、果物へ齧りつく。
しかし、彼の体躯からしてその量では腹を少し満たす事しかできないのは明白だった。
検非違使からしつこく追い回されないように、ほんの少しの盗みを繰り返していた彼は空腹の限界に来ていた。
「やっぱ……全然足りねぇ……くそっ……!」
彼は罪を被せられて故郷を追放された自分の境遇に腹を立て、額に生えた雄々しい一柱の角を折ろうとする。
「やめな!」
しかしそれは、外套を纏い頭巾を被った通りすがりの女性に止められる。
彼は突然の出来事に、空腹と己の運命に沸き立った怒りが制御できず彼女へ語気を荒げ言葉を返す。
「誰だおめぇ? 邪魔すんじゃねぇ、こんなもん糞の役にもたたねぇんだよ!」
「腹が減って頭が働かなくなってんだね、これを食いな」
外套を纏った女性は頭巾を取り、懐から幾つかの握り飯の入った包みを取り出し鬼の少年へ差し出した。
彼女の姿を見た少年は呆然と口を開け、驚きのあまり目を丸くする。
頭巾を取ったその姿は、中くらいの角が二本ほど生えた鬼の女性の顔だった。
(こいつ、何やってんだ? 俺と同じ鬼なのに……貴重な食糧なはずだ……)
極限の状態にありながら、人生で数度しか受けた事のない優しさを受けた少年は自分の目の前で起こった事が信じられなかった。
瞬きを繰り返し、目の前の食糧を口にして良いのか分からず戸惑っていると彼の腹が音を鳴らす。
すると。
「ほら、とっとと食いな!」
目の前の女性は握り飯を少年の口へ押し込む。
少年の食したその握り飯は、今まで口にしたどんな果物、肉、米よりも美味いものだった。
涙を流しながら少年は握り飯をかぶりつく。
「アンタ外道丸ってんだろ? 討伐令も下されそうになってるみたいじゃないか」
「あぁ、だから俺から離れた方が良い……この恩は忘れねぇ……」
女性は逃げ惑う鬼の少年の噂を聞きつけ、ここへやってきた。
気風の良い姉御肌の振舞が板に付く鬼の女性は、少年の言葉へ、はいそうですかと従うはずもなく言葉を返す。
「そんな拾ってから捨てるような真似する訳にゃあいかないねぇ、アタシに任せな!」
後日、素顔を見せた外道丸の正体は女性の鬼とされた。
ここへ来るまで茨木童子と呼ばれていた彼女は、酒を飲みながら暴れまわり、迫りくる検非違使達の命を一つも奪う事なく、自分へと平伏せさせるように地へ伏せた。
その事件を境に彼女は【酒呑童子】と呼ばれ、大妖怪として次第に日本中へその名前が知れ渡る。
――――――
……ここは? どこだ?
見回せば野山が広がり暖かい日差しの元、鬼の二人を先頭に数人の妖怪の旅団が歩みを進めている。
その鬼は、一人は随分若いけど茨木童子の威吹鬼。
もう一人は……顔付はホントによく似ているけど、まころんじゃない。
きっと……僕が風吹鬼と名付けた酒呑童子の本来の姿だ……。
ブロンドとは一味違うような黄色い鮮やかな髪が、活発な彼女に良く似合っている。
合法カジノの地下で風吹鬼が暴走したことが引き金となり、僕の夢になっているのかもしれない。
彼らは以前、似たような事を経験した口ぶりだったからな……。
僕がこの夢を見た理由を考えていると、茨木童子が意気揚々と酒呑童子との馴れ初めを騙り終える。
「それで俺ぁ恩義に報いるため、姉御の舎弟になったんだ!」
「流石姉御っす!」「そこにシビれる! あこがれるゥ!」
なるほど、そんな事が合ったんだな。
元々の茨木童子が、外道丸を名乗り酒呑童子と呼ばれた。
そして元の外道丸は茨木童子の呼び名を語っていたんだ。
僕は目を涙ぐませ、彼らの境遇から歩んできた道を賞賛する。
そんな辛い目に合っても人を助けられるような人間になりたいね、素敵だ。
「検非違使から狙われそうだってのに強引に着いて来んだよ。困ったヤツだねぇコイツは!」
「ははははは!」
彼らの楽しそうな笑い声が周囲へ響く。
平和だ……とても悪童と呼ばれていた鬼達とは思えない。
と思っていると一人の鬼が口を開き、話始める。
「しかし、ホントなんすかねぇ あの噂……」
どうやら妖怪たちが向かっている地に、陰陽師がいて彼らは妖怪や鬼を使役し共に暮らしている。
悪い妖怪はもちろん退治されてしまうが、悪事を進んで働かなければ都の労働力として平和に暮らせるみたいだ。
そして彼らの生きた、陰陽師が活躍する都……。
「あぁ、きっとある。 平安京は」
僕は今、凄い歴史を垣間見てるんじゃないだろうか。
胸のワクワクが止まらない。
「なんでも凄腕の陰陽師がいるらしいねぇ、十二神将とかいうのを従えているとか。 腕が鳴るよ!」
「へへ、力比べが楽しみだぜ! なぁお前ら!」
威吹鬼……茨木童子が皆へ声を掛け、各々反応を返す。
「勘弁してくださいよー」
「そういうのは兄貴達に任せます!」
どうやら戦闘狂は茨木童子、酒呑童子だけみたいだ。
「拙者は、綺麗なお姉さんに使役されたいでござる……むふふ」
……なんか一人変なのがいるな、シンパシーを感じるでござるw
しかし……確か通説ではこの時代は陰陽師は男性しかいなかったはずだ……。
彼の希望は儚く散るかもしれないな。
そして歩みを進める彼らを眺めていると……巨大な妖怪が現れ先頭の鬼二人を捕食しようと飛び掛かる。
二人は華麗に身を翻しその巨体を躱した。
「土蜘蛛か、俺に任せろ!」
土蜘蛛、名前の通り巨体の蜘蛛の妖怪だ。
茨木童子が土蜘蛛の前に出て対面する。
「どこまで強くなったか、お手並み拝見といこうかねぇ」
ほんの数秒の間、お互いの沈黙が続く……。
「うら!」
茨木童子が前へ飛び、土蜘蛛を殴り飛ばそうと飛び掛かる。
なんて瞬発力だ、一瞬で距離を詰める。
しかし、蜘蛛だけに相手も瞬発力は高い。
地へと下した拳を躱された彼は、落ちていた石を手に取り投げる。
「くらえ!」
……あんなん喰らったら死ぬわ。
土蜘蛛は吐いた糸をぶつけ石の勢いを軽減させる。
随分と闘いなれている妖怪だな。
昔はこんなやつらばかりだったのか?
土蜘蛛へ石がヒットし鳴き声を上げる。
威力を減らしたとはいえ、少なからずダメージはあるみたいだ。
敵が糸を吐くその隙を付き、茨木童子は土蜘蛛の側面へ回り込むが。
「だー! 糸に捕まったぁ!」
地へ巡らされていた蜘蛛の糸にものの見事に足を捕られて捕まってしまう。
そしてスパイダーメン見たく飛んでくる遠距離狙撃の糸を彼は拳で弾くが、豪気が不完全だ。
弾ききれずに絡まってしまう。
「ぐっ……くそぉ!」
酒呑童子が見かねて前に出る。
「まだまだねぇ! そらぁ!」
彼女が拳を振りぬくと土蜘蛛は衝撃波で気絶、追撃の拳で灰塵と化した。
こわ……。
「やつがいるって事は、近いねぇ」
妖怪と一戦を交えて、糸から茨木童子を解放し彼女達は再び歩き出す。
壮大な山が目の前に出現した。
彼女達は伝承通り、一先ずここを拠点とするようだ。
「着いたね! 大江山に!」――――――
ご愛読ありがとうございます!
面白かったら乳首をダブルクリックするようにブックマーク、評価をお願いします
気持ち良いので




