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13 終わりの日

 ラウル王子が選んだドレスは全て、淡く優しい色合いの落ち着いたものだった。レティシアではなく、ノアに似合うものを選んでくれたことが分かる意匠のもので、素直に嬉しく思うと顔が綻ぶ。

 そんなノアの表情を見たラウル王子は、はっと息を呑む。しかし、次の瞬間には嬉しそうに頷いたのだった。


「では着替えよう。あちらに、そのための部屋がある」


 指し示された方向には扉が見える。小部屋のようだ。


 ラウル王子に促されたノアは、その扉をくぐる。小部屋の中には、豪奢な鏡台が備わっている。また、ラウル王子の指示だろうか、四十代くらいの女性が一人、鏡台のそばに控えていた。


「お待ちしておりました」


 優雅に腰を折る女性に対し、ラウル王子はドレスを手渡しながら、


「任せた」


と告げ、部屋を出た。

 小部屋に見知らぬ女性と二人、取り残されたノアだったが、すぐに我に返り、女性に向けて深く礼をする。


「あの……どうぞ、よろしくお願いいたします」


 すると物腰優雅なその女性は、ノアに対して丁寧に頭を下げると、


「こちらこそ、お手伝いさせていただきますので、どうぞ、よろしくお願いいたします」


と柔らかく微笑んだ。


 女性は社交的な質なのだろう、ノアを退屈させないよう上手に会話を引き出しながら一着を選ばせ、その後はノアの着替えを手伝い、化粧も施してくれた。


「終わりました」


 女性は、その出来栄えに満足したようで、一つ大きく頷くと、


「とてもお似合いですよ。是非、王子に披露なさいませ」


と誘う。ノアは改めて自分の姿を鏡で確かめた。


(すごく……優しい雰囲気)


 鏡に映る自分の姿は、服装と上手な薄化粧のおかげだろうか、レティシアに似ている、と感じることはなかった。それはつまり「自分らしい」姿だということだろう。とても好ましく思えた。

 しかしラウル王子の反応はどうだろう。少し心配だったが、女性の自信満々な様子に後押しされ、ノアはおずおずと部屋から出た。


「あの……お待たせいたしました」


 部屋から出てきたノアを見たラウル王子は、一瞬目を瞠る。そして満足げに大きく頷くと、


「思ったとおりだ。すごく良く似合っている」


と嬉しそうに評した。

 柔らかな笑みを向けられ、ノアの鼓動が軽く弾む。

 その時ノアは初めて、王子がこんなに優しく微笑むことができる人だと知ったのだった。





 そんなふうに、ゆっくりとした時間が流れる日々を過ごしていたノアだったが。


 ーー幸せな時間は長く続かない。


 そんな分かりきっていたはずのことを、一瞬だけ忘れ去ってしまっていた。けれど、運命はいつでも、ノアに試練を与えるのだった。


 トントンと扉を叩く音がした。

 ノアの部屋を訪れる者など、王城にはいないはずだ。一体誰だろう。不審に思いつつ、覗き窓から外を窺う。

 そして……息を呑む。

 そこにいたのは、見知った顔の者だった。


 ノアは一度、目を閉じる。とうとう、この日が来たのだと思った。必ず訪れる、この時が。

 ノアは目を開き、意を決して戸を開く。


 その者……ローウェル家の遣いの者は、感情のない冷たい声で、こう告げた。


「身代わりは、今日で終わりとなりました」


 そうして、偽りの時は終わりを告げたのだった。

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