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12 穏やかな時

 ラウル王子の温かな体温が、体を包み込んでくれる。

 その温もりに、少しずつノアの心も落ち着いてきた。すると、今度は王子がずっと自分を抱きしめ続けているという今の状況に困惑した。


(もう大丈夫って伝えなきゃ……)


 そう思い、ノアは口を開いた。


「あの、王子……。私はもう大丈夫です」


 すると王子は、はっと我に返ったのか、ノアから体を離した。少しばつが悪そうに視線を泳がせている。一方で解放されたノアは、温もりが離れていったことに一抹の寂しさを覚えている自分に驚きつつ、その感情は表に出さずに、そっと微笑む。


「それで、その……少々みっともない格好でお目を汚すこと、心苦しく思います。身なりを整えたく思いますので、御前を失礼したく存じます」


 こんな乱れた服装で王子の前にいつまでも立っているのは、失礼極まりないことだ。また、誰かに見られて妙に勘ぐられても、王子に迷惑だろう。ノアは一歩下がり、頭を下げて、その場を離れる許可を取ろうと乞う。


 しかしラウル王子は眉を寄せ、首を横に振った。


「王城でこのようなことが起こったのは、我々の不手際だ。償わせてほしい」

「いえ、でもこれは……」


 レティシアの日頃の行いのせいではないだろうか。王子に非があるとは思えない。困惑し口篭っていると、


「失礼する」


と、そう言って、ラウル王子はノアの腰と膝裏に手を回し、体を軽々と抱え上げた。


「え、あの……」


 抱き上げられ、あまりに唐突な王子の行動に戸惑いの声をあげるノアだったが、


「少しだけ、我慢してくれ」


と切実な瞳で訴えられ、大人しく王子の腕の中に収まることにしたのだった。





 連れて行かれた先は、衣装部屋のような場所だった。見たことのない数のドレスが並んでおり、壮観だ。

 ラウル王子は、衣装の数、そして煌びやかさに気圧されているノアを化粧台の椅子に腰掛けさせると、そのまま衣装部屋の奥に入っていく。

 しかし、すぐに戻ってくると、その手には数着のドレスがあった。どれもレティシアから預かった服よりも仕立てが良さそうで、色合いも落ち着いている。

 王子は何故か、少し緊張した面持ちで、


「君に似合いそうなものを見繕ってみた」


と言い、更に「気に入ってくれるといいのだが」と続けながら、ノアの近くに置いてあるハンガーラックに次々と衣服をかける。そして、


「そのドレスの代わりくらいにはなるだろう」


と、その全てをノアに渡そうとするラウル王子に、ノアは恐縮する。


「こんな良いドレス……受け取れません」


 そもそも破れたのは一着で、しかも恐らく、このドレスより安価だ。さらに、ラウル王子は、ノアが襲われたのは自分のせいだと責任を感じているようだが、この事態を招いた根本的理由は、人の心を弄んだレティシアにある。

 しかし王子は首を横に振る。


「恐縮する必要はない。これは妹が、もう着ないもので、それに君の家柄から言えば、このくらいのドレスを着るのは当然なことだ」


 王子の妹、ということは王女ということであり、これは王家の服ということだ。ますます恐れ多いと考えるノアだったが、


「本当であれば、このようなお古ではなく、ちゃんと仕立てたものを渡したかったが……急なことだったので許してほしい」


と、そんな心から申し訳ないといった様子の王子の姿に、ノアは悟る。これ以上、固辞することこそ逆に失礼であるのだと。

 受け取ろう、そう決心して改めてドレスを見ると、先ほどまでとは全く異なる感想が浮かび上がった。


「そんな……とても素敵なドレスで、その……嬉しいです」


と。

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