第97話 真剣な人、なんとなくな人… 思ってる事は、人それぞれみたいです…
今日も今日とて王妃様御一行は街を楽しく散策に出掛けた。
ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんの3人は、御一行を三角形に囲んで歩く。
更に周りを平民に紛れた20人の護衛が囲む。
行き先は不明。
と言うか、御一行の考え次第らしい。
ロザミアに来て最初の散策で、行く先々に先触れを出した事に御一行の不評を買ったからな。
なので、それからは行き先を事前に決めず、御一行の気分次第で決めるんだとか。
ただし、バラバラでの行動は護衛の関係もあって否決された。
ま、当然だよな。
勿論、私とアリアさんは治療院で傷病人の治療だ。
御一行が来られた当初は王族を直に見れるって事で、ハンター連中が仕事をキャンセルしてまで見物に殺到した所為でヒマだったが…
さすがに滞在期間も残り10日を切った今では、通常(?)に戻っている。
「喜ぶべきか、悲しむべきか…」
「ん? エリカさん、どうかしたんですか?」
朝の部の診療が終わり、私はアリアさんと一緒に昼食を食べている。
これを言うのは失礼だろうが、王妃様御一行の相手に疲れていたのが影響したのかも知れない。
つい魔法医としての本音が出てしまった。
喜ぶべきは、患者が来て儲かる事。
悲しむべきは、怪我人や病人が絶えない事。
「それは… 確かに… どう言えば良いのか分かりませんよね…」
「ま、深刻に考えても仕方無い事なんですけどね… 誰だって病気になりますし、ハンターで無くても怪我する時は怪我しますし… むしろ、そんな時に私達みたいな魔法医が居なかったらと思うと…」
そう言う私を見て、アリアさんは少し困った様な笑顔で言う。
「なんとなくですけど… エリカさんの気持ち、解る気がします。誰だって怪我したくないし、病気になりたくありません… けど、怪我する時は怪我しますし、病気にもなります。それは仕方無い事ですもんね。そして、それを治す為に私達が居る… 私達にも生活があるから無料で治すワケにはいかない… ですよね?」
アリアさん…
なんとなくでも、理解してくれてるじゃん。
ま、私達に出来るのは怪我や病気を治す事だから、それに全力で取り組むだけだな♪
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
乗り合い馬車の中、無言で揺られる二組の家族。
平民の格好をしたバーグマン公爵とシュルンマック侯爵、そして彼等の家族である。
共に必要最低限の物資と金を持ち出し、一路イルモア王国を目指している。
一同の表情は暗い。
ハングリル王国の貴族という立場を捨て、平民としてイルモア王国でやり直す。
暗くならないなど無理な話だった。
「……で? 何処に向かっているんだ? 何か伝手でもあるのか?」
沈黙を破ってバーグマン公爵がシュルンマック侯爵に聞く。
イルモア王国はブルトニア王国の友好国であり、ハングリル王国との国交は無かった。
伝手などある筈が無い。
あるとすれば王都ヴィランに捕えられているハングリル王国の貴族達だが、彼等に連絡を取るなど不可能。
そう思って聞くと、思いもよらない答えが返ってきた。
「ミラーナ王女だ。彼女に会おうと思っている。彼女なら何とかしてくれるのではと思ってな」
息を呑むバーグマン公爵。
「彼女の噂は聞いているだろう? 巷では『傍若無人』だの『破天荒』だのと言われているらしい。だが、その噂とは裏腹に『人懐っこく、話し好き』とか『自身の願望は必ず実現させる策謀家』とも言われているらしいぞ? 頼ってみる価値はあると思うんだがな」
勿論、バーグマン公爵もミラーナの噂は聞いた事がある。
それとは別の噂も聞いているが…
「別の噂とは何だ? 俺は言った通りの事しか聞いていないが…」
「それは『何も考えず、本能だけで動く暴れん坊』と『戦場を神速で駆け抜ける悪魔』だ…… 神速の悪魔と言うのも妙な言い回しだが… まぁ、極一部の者しか知らない噂だがな。そんな人物が、王族とは言え領地を貰って経営など出来まい。荒唐無稽な与太話だよ」
シュルンマック侯爵の頬を一筋の汗が流れた。
特に後者は戦場で聞いたミラーナの話に符合する。
ならば、前者も全てでは無いものの、符合する部分があるのではないか?
そんな人物を頼るのは間違っているのかも知れない。
だが、間も無くイルモア王国に入る。
後戻りは出来ない。
シュルンマック侯爵は、一縷の望みをミラーナに託す事を決意した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ただいま帰りましたわ♪ エリカちゃん、明日… 最終日の予定を決めたいので、少し宜しいかしら?」
「は… はいっ!」
ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんの3人に夕食の用意を頼み、私は王妃様と共に2階のリビングで話し合う事になった。
変なモン作んなよ?
「私の考えた予定では、最後にもう一度テーマパークを楽しみ、少し早めに切り上げて夕刻… 16時頃にロザミアを出立する事にしようと思っておりますが、エリカちゃんの考えを聞かせて貰えますかしら?」
王妃様…
それ、予定とは言いませんよ?
言えんけど…
「そうですね… 朝は普段通り、7時に起床。食事をして8時に治療院を出発。テーマパークには8時半頃に着くとして、開園するまでの時間で軽くお茶ですかね。9時の開園から遊んで12時に昼食。今までは食べ終わってすぐに遊んでましたが、夕方にロザミアを出発して王都に帰る事を考えると、食後は少なくとも30分は食休みをして胃の負担を減らす事を提案します。これは私個人としての提案ではなく、魔法医としての提案です。馬車の中で体調を崩したくなければ守って下さい。そして夕方まで自由に過ごし、16時にロザミアを出立… こんなトコですかね♪」
ここまで細かく──と言う程でもないが──決められるとは思ってなかったんだろうな。
王妃様は目をパチクリさせながら頷き…
「そ… そうですわね♪ その様に明日の最終日は行動する事にいたしましょう。ではエリカちゃん、私達もダイニングへ行きましょう♡」
飽くまでも平静を装う王妃様。
しかし、私は見逃さなかった。
王妃様の頬を伝う一筋の汗を。
「おっ? タイミングが良いな♪ 丁度用意が終わったトコだよ♪」
さすがに王妃様御一行がロザミアで食べる最後の夕食って事で、3人が作った料理は気合いが入ってる様だ。
前世で言えば、中華料理のフルコースって感じかな?
勿論、料理自体は中華料理とは全く違うけど。
それでも気合いを感じさせる凝った料理の数々を、全員が満足するまで堪能したのだった。
当然、ミラーナさんの作った料理は幻覚のオマケ付きだったけど…
どんな幻覚だったかは聞かないで下さい…
特にフェルナンド様とローランド様に関しては…




