第95話 私達は平和を満喫していますが、ハングリル王国は大変らしいです。知らんけど…
王妃様御一行がロザミアに来て、早くも10日が経った。
今日──10月5日──が本来の到着予定日だった筈なんだが…
更に、やっと滞在予定が届いた。
それによると、滞在期間は10日間。
つまり、10月5日~15日まで。
…まぁ、既に10日滞在してるけどね。
それにプラス10日…
イヤな予感がするんだけど…
「なるほど… では、ロザミアに来るのに予定を10日縮めましたから、帰りも同じ様に10日縮めれば宜しいですわね♪ そうすれば、後20日は滞在出来ますわね♡」
やっぱりかぁああああああっ!!!!
イヤな予感が当たったわっ!!!!
何か知らんが、早くもミラーナさんの『幻覚が見える料理』にも慣れやがったし!
いや、それは関係無いけど…
とにかく、この10日間で私は疲労困憊なんだよ…
何がって、風呂に決まってんだろ!
前回の王宮滞在時に脅しておいたからミラーナさん達は普通に入るんだけど、キャサリン様とロザンヌ様は相変わらず私を洗いたがるんだよ…
王妃様はローランド様を洗うから不参加なのは助かるけど…
2人で私を独占出来るのが嬉しいのか、王宮滞在時より嬉々として…
こんな状況が、まだ20日も続くのかよぉ…
逆に、20日だけの我慢とも言えるけど…
「それにしてもミラーナの作る料理… 何故、最初の一口だけ幻覚が見えるのかしら? 慣れてしまえば何て事はありませんし、味に関しては文句の付け様がありませんのに… 不思議ですわね?」
王妃様がミラーナさんの作ったスープを飲んで感想を述べる。
うん、それは私も同意見だ。
「でも、面白いですわ♪ 毎回違った幻覚が見れるんですもの♪」
へっ?
私は宇宙空間を遊泳している幻覚しか見た事がないんですけど?
「そうなんですか? 私は毎回、同じ幻覚しか見えないんですけど… ちなみに王妃陛下はどんな幻覚を?」
どんな幻覚なのか気になる…
何故か凄え気になる。
「そうですわね… 今回は、お花畑が見えましたわね♪ 前回… 昨日の夕食では大空を飛んでましたし、昨日の朝食では海の中を魚達と遊泳してましたね♪」
なんだよそれ…
やけに楽しそうじゃんか。
私は宇宙空間を遊泳してる幻覚しか見えないのに…
もしかして、他の人も…
「私は海に沈む美しい夕日を見ましたわ♪」
キャサリン様…
なんか羨ましいぞ!
「私は景色ではありませんけど、とても美しい虹色の模様が… 幻想的でしたわ♪」
そんなパターンもあるんかい。
「僕は… ちょっと恥ずかしいけど、嬉しい幻覚を…」
顔を赤らめるフェルナンド様。
なんかイヤな予感がするんですけど…
「フェルナンド、何が見えましたの?」
「是非、聞かせて欲しいですわ♪」
2人の姉に言われ、更に赤くなるフェルナンド様。
「フェルナンド、言っちまった方が楽かも知れないぞ? 言わずにアレコレ変な事を想像されるより良いだろ?」
ミラーナさんの一言に、意を決したフェルナンド様が言う。
「…エリカお姉ちゃんが僕を抱き締めて頭を撫でてくれてる幻覚が見えたんです… 何故か僕もエリカお姉ちゃんも裸なんだけど…」
ガゴンッ!
痛い…
思わず、思いっ切りテーブルに頭を打ち付けたよ…
な… なんちゅう幻覚を見やがるんだ、このガキゃあ…
まだ7歳だろ、テメェ!
7歳なら7歳らしく、もう少し可愛らしい幻覚を見やがれ!
言えんけど!
てか、そ~ゆ~願望があるのかコラ!?
ざけんなよ!?
「エ… エリカさん、大丈夫ですか!? 凄い音がしましたよ!?」
アリアさんが駆け寄って、テーブルに突っ伏した私を起こす。
「僕、エリカお姉ちゃんのオッパイ飲んでた~♪」
バゴンッ!
アリアさんに起こされたのも束の間、またも私はテーブルに頭を…
「エ… エリカさん…」
オロオロするアリアさん。
ま、仕方無いよねぇ…
それはともかく、まだ3歳のローランド様は何も考えてないんだろう。
とんでもない事をサラッと言ってのける。
その様子にアリアさん以外の全員が…
笑うなよ!
頼むから笑うな!
……………………………
スイマセン、笑わないで下さい…
「フェ… フェルナンドに… ロー… ランドまでも… なんという… おも… とんでもない幻覚を…」
オイ、王妃様…
アンタ今、面白いって言いかけたろ!
こっちは面白くも何ともないわ!
言えんけど!
王妃様達は笑い、アリアさんはオロオロし、私はテーブルに突っ伏し、ミラーナさん達は…
涙を流しながら笑いを堪えてやがる。
がっでむ!
─────────────────
私達は今、テーマパークに来ている。
より大勢の方が楽しいだろうって事で、王妃様達は治療院の休診日まで待っててくれたらしい。
こ~ゆ~トコは優しいんだよ、この人達…
なのに突然、妙な事を言ったりしたり…
このギャップは何とかならんかな…?
それはともかく、久し振りのテーマパークを満喫する一同。
ローランド様はブランコに夢中で、王妃様も一緒に楽しんでいる。
キャサリン様、ロザンヌ様、フェルナンド様は、巨大滑り台を楽しんでいる。
ミラーナさんはストラ○ク・アウトで…
「うりゃあっ!」
がごんっ!
「終了~! 合計3枚! 残念でした~!」
意外とノーコンでやんの…
ミリアさん、モーリィさんは、巨大迷路に再挑戦し…
「あぁあ~~っ! レイアウトが変わってるぅ~~っ!」
「出口は!? 出口は何処っ!? ここは何処~っ!?」
10日毎にレイアウトが変更される巨大迷路で、また迷いまくってやんの…
やっぱり方向音痴なんだろうか?
これでよくニュールンブリンクの大森林で迷わないモンだな…
それとも、自然の木々に囲まれてるのと、人口の壁に囲まれてるのでは違うんだろうか?
まぁ、いざとなれば外周の壁に在る脱出口から出れば良いし、放っとこう。
そして私とアリアさんは…
「エリカさん、このジャンボ・フランク美味しいですね~♡」
「フライドチキンも美味しいですよ♪ このポテトも♡」
平和に買い食いを楽しんでいるのだった。
いや、アトラクションは前回楽しんだし、新しいアトラクションが増えたワケでもないしね。
私達は魔法医として、万一に備えてるだけなんだけどね…
その頃、そんな平和を満喫している私達と違い、遠く離れたハングリル王国では…
前の戦争の賠償問題で、国内は大きく揺れ動いていたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここはハングリル王国の王宮内にある会議室。
会議には王族と公爵達に加え、唯一戦場から離脱したシュルンマック侯爵のみが参加している。
「これだけの賠償金を支払うとなると、国の屋台骨が揺らぎかねませんな…」
「いや、平時ならば何ら問題は無い。だが、侯爵以下の貴族が殆ど囚われの身となっている現状を鑑みれば…」
シュルンマック侯爵は沈黙している。
とりあえず、言いたい事を言わせておこう。
自分が発言するのは意見を求められた時か、何も打開策が見出だせないとの結論に達した時で良いとの考えだった。
そして、シュルンマック侯爵の考える結論は、何れも国王が退位する事になるのだった。




