第94話 小さな親切、大きなお世話ってヤツですか?
王妃様御一行ロザミア滞在3日目。
皆、昨夜はグッスリ寝たからか、朝から元気いっぱいの様子で朝食をパクついている。
ミラーナさんを除いて…
昨日、最後に失敗したのを気にしてんのかなぁ…?
「今日は食い過ぎねぇからな…」
ボソッと言うミラーナさん。
気にしてんのはそっちかい…
まぁ、良いけど…
「今日はしっかりエスコートしてあげて下さいね。皆さんが絡まれでもしたら大変な事になりますから」
ミラーナさんは、少し考え込み…
「…護衛の連中が居るし、ミリアさんとモーリィさんも一緒だから大丈夫だと思うけどな。でもまぁ、気を付けるよ」
如何にも王族って服装なら問題無いと思ったのだが、意外にも平民用の服を気に入った様で、今日も着る事になったのだ。
護衛の人達も平服で、所持するのは暗器──隠し武器──のみ。
で、遠巻きにガードするらしい。
あまりガチガチにガードされると、本来のロザミアの様子を楽しめないってのが王妃様の言い分。
その案をキャサリン様達まで賛成すれば、誰もダメとは言えない。
「とりあえず、朝メシを食ったらギルドへ行こう。マークさんに頼んで先触れを出して貰う。その方が、より安全に街を散策出来るだろ」
王妃様はミラーナさんの提案に少々不満気な様子。
ありのままのロザミアを見たいのに、先触れを出しては皆が畏まる可能性が高いだろうから。
しかし、子供達の安全を考えれば、ここは妥協しなければならない。
仕方無い、という雰囲気でミラーナさんの提案を受け入れていた。
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「こ… この方が王妃陛下…」
突然の王妃様ギルド訪問に、マークは勿論、ギルド職員、たまたまギルドに居たハンター達は固まっていた。
「悪い、マークさん。今日は母上達にロザミアを案内するんだ。このメモに予定が書き込んであるから、先触れを頼めないかな? 何も知らせずに行ったら騒ぎになるかも知れないからさ」
言いつつミラーナは1枚のメモを渡す。
と言っても、単に立ち寄る場所を書いただけの物。
順番なんかは書いておらず、とても〝予定〟とは言えないのだが…
「こ… これだけですか? 街の散策… 食堂街で食事… 商店街の見物…」
メモを見たマークは目を丸くしてミラーナに聞く。
「まぁ… テーマパークも楽しんだし… 残念ながら、ロザミアにはテーマパーク以外に観光する場所も無いからさ… 言っちゃ悪いとは思ってんだけど…」
「気にしないで下さいよ。そもそもロザミアは〝ハンターの街〟なんですから、観光する場所が無いのも当然ですからねぇ」
しばしの沈黙の後、思わず2人は吹き出した。
「「あははははははっ♬」」
そんなミラーナとマークを呆然と見詰める王妃様御一行。
「ミラーナ姉様、何がそんなに可笑しいのかしら?」
「さぁ… キャサリン姉様にも解らないんですから、私にもサッパリです…」
首を傾げるキャサリンとロザンヌ。
「ウフフッ♪ 貴女達が解らないのも頷けますわね。なにしろ、私にも解らないんですから♪」
相変わらずマイペースなマリアンヌ──王妃──である。
「…とりあえず、仰る通りに先触れは出しましょう。それにしても、ミラーナさんはともかくとして、王妃陛下達の服装は…?」
やはり王族が平民用の服を着ているのは奇異に見えるのだろう。
ミラーナは肩を竦めて答える。
「あぁ… 昨日テーマパークに行ってさ… エリカちゃんの提案で、動き易い服装をって事で着たんだけど… なんか気に入っちゃったみたいなんだよ… 髪の纏め方まで平民風にしちまってさ… まぁ、アタシとしても街をドレス姿で彷徨つかれるよりは良いと思うんだけどね…」
「それはまぁ… 如何にも王族ですって服装で街を散策されるよりは、幾分マシでしょうがねぇ… やはりと言うか、さすがと言うか… 平民風の服を着ていても、高貴な雰囲気は隠せませんね」
マークの言う通り、5人全員がシャキッとした姿勢で微動だにせず立っており、周りのハンター達の様にダラけた雰囲気は微塵も感じさせない。
マークは数人のギルド職員に指示し、街全体に〝王妃陛下御一行ロザミア来訪〟を知らせる。
マークは姿勢を正して王妃に向き直り…
「ただいま先触れを出しました。彼等が戻り次第、出立して頂けます。テーマパークはお楽しみ頂けたとの事ですが、街の様子を楽しんで頂けるかは…」
街の大きさこそ中規模だが、特に珍しい物があるワケでもなく、王都に比べると退屈なのではないかと懸念するマーク。
「マークさん、気にすんなよ。母上達なら大丈夫だよ。そもそも王都では王宮の敷地内ばかりで、殆ど街中にも出ないんだ。たまに外出しても、公爵や侯爵の領地訪問程度。しかも、宿泊する貴族の屋敷からも殆ど出掛けられないんだ。だから、出掛けられるって事自体が楽しいんだよ」
王族の、王族であるが故の不自由さをマークは思い知った気がした。
同時に、ミラーナの王族とは思えない性格も、王族に生まれたが故の反動なのかと思ったのだった。
そして、先触れに出したギルド職員が戻り、王妃達は意気揚々と街中へ出掛けて行った。
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「…ヒマですね」
「ハイ… ヒマですね…」
王妃様達がロザミアの散策に出掛けてから1人の患者も来ず、私とアリアさんは治療室でお茶を啜っている。
「これって… やっぱり王妃陛下達が街の散策に行った影響なんでしょうか?」
「まず間違い無いでしょうね。ミラーナさん、先触れを出すって言ってましたから、それを聞いた人達は…」
既に街の外に居るハンター達以外は王妃様御一行の出迎え…
と言うか、見物だろうな。
ドレス姿を期待した人達には悪いが、逆に平民用の服を着た王族を見るという、普通では有り得ない経験を出来るとも言える。
ま、ドレス姿は王都に帰還する時に見れる筈だから、平民服を着た王族を見れるのは重畳なのではなかろうか?
他の街では絶対に見れないだろうからな。
「なるほど… 確かにエリカさんの言う通りでしょうね。王族が平民服を着てる姿を見るなんて、普通に考えれば絶対に有り得ない事ですから…」
「まぁ、遊び心で着る事はあるかも知れませんけどね。でも、その場合は人目に触れない場所での事でしょうから、王宮に勤める一部の人のみが目にする程度でしょう。であるならば、ロザミアの住人は凄く恵まれてる… と言うか、奇跡的に運が良いって事ですかね?」
私の説明に深く頷くアリアさん。
「なら、私も奇跡的に運が良いって事なんですね? それも、エリカさんの弟子になる為にロザミアに来たから… エリカさんと一緒に働けたからなんですね? はぁ~… やっぱりエリカさんは凄いです…」
なんでわざわざ私に結び付けて恍惚とするんだ、アンタは…
まぁ、迷惑じゃないから良いけど…
街の散策を終え、治療院に戻って来た王妃様御一行は不満気だった。
行く先々で大勢の人が自分達を好奇の目で見ており、リラックスして散策する事が出来なかったらしい。
見るからにハンターと判る者も萎縮した雰囲気で、素のロザミアを楽しめなかったんだとか…
知らんがな…
しかし、王妃様達に普段通りのロザミアを楽しんで貰えないのは困るかなぁ…
でも、普段通りのロザミアだと、別の意味で困るかも知れないし…
ハンターの街、ロザミア…
粗暴な街、ロザミア…
荒くれ者が跋扈する街、ロザミア…
だけど、人情味溢れる街、ロザミア…
駄菓子菓子… じゃなくて、だがしかし…
王族・貴族からすれば、忌避すべき雰囲気が漂う危険──実際には危険は少ないが…──な街、ロザミア…
ミラーナさんが成人した際、ロザミア領主になる事を希望したら大騒ぎになったらしいし…
そんな事を考えていると、王妃様達はミラーナさんの周りを囲み…
すぱぱぱぱぁああああああんっ!!!!
「あ痛っ!」
王妃様、キャサリン様、ロザンヌ様、フェルナンド様の4人がミラーナさんにハリセン・チョップ!
予想だにしていなかった一撃──四撃?──にブッ倒れるミラーナさん。
私は勿論、ミリアさん、モーリィさん、アリアさんに加え、ローランド様も目を丸くした。
いつの間に用意したんだよ!?
…って、驚くトコはそこじゃありませんか、そうですか。
「ミラーナ… 私達の身を案じて先触れを出したのは解ります。ですが、お陰で本来のロザミアを楽しめませんでしたわ♪」
「ミラーナ姉様… お気遣いは嬉しく思います。ですが、全く楽しめませんでしたわ♪」
「私もですわ… まるで私達が見世物みたいで… 面白くありませんでしたね♪」
「ミラーナ姉上が僕達を心配して下さったのは解ります。ですが、あの状況… 僕達が何の為に平民服を着たのか解りませんよね?」
4人から笑顔で威圧されるミラーナさん。
「いや… やっぱロザミアって荒くれ者が多いからさ… 万が一を考えると… その… 先触れを出して安全を確保しないと… 解ってくれると思うんだけどなぁ~なんて…」
必死に言い訳するミラーナさん。
だがしかし…
「「「「言い訳無用っ! ついでに問答無用っ!!!!」」」」
すぱぱぱぱぁああああああんっ!!!!
4方向からの同時攻撃は、さすがのミラーナさんも防御不可能。
ついでを言えば、王妃様のアイコンタクトで私、ミリアさん、モーリィさん、アリアさんは、ミラーナさんが防御出来ない様に両手両足をガッチリ抑えていた。
更に罰(?)として、全員でミラーナさんを風呂で洗いまくったのだった。
ふっふっふっ♪
少しは私の苦悩を味わうが良い!
私は無理矢理ミラーナさんを正面から洗ってやったぜ!
…なんか、私を洗うのが楽しいって気持ちが解った気がする…
いやいや、今回限りにしておこう!
変な気になったらヤバいかも知れない。
でも、たまには良いかな…?
…いや、目覚めてないからね!!!!




