第91話 王妃様御一行ロザミア来訪歓迎寿司パーティー開催です!
なんだかんだで治療院に滞在する事になった王妃様御一行。
護衛の兵士達は街の宿屋に宿泊せず、ギルドの臨時宿泊部屋──私がロザミアに来た当初に治療所として借りた部屋──に滞在する。
ギルドと治療院は直線距離にして50m程。
何かあってもすぐに駆け付ける事が可能だからだそうだ。
宿屋に宿泊するのは馬車の御者と、半ば強引(?)に同行させた魔法医。
護衛としての能力が無いから、治療院から距離のある宿屋での宿泊なのだ。
ギルドの臨時宿泊部屋は全部で10部屋。
1階と2階に5部屋ずつ在る。
私はその内の1部屋──1階の端──を使わせて貰っていたのだが、2人は泊まれる仕様になっているので20人がギルドに滞在する事になる。
護衛の兵士は、この20人で全員なのだそうだ。
私がミラーナさんに言って、護衛の数は最小限にして貰う様に要請していたのを守ってくれた様だ。
それは良い。
しかし、王妃様御一行が治療院に宿泊するのは想定外。
いや、可能性は考えたよ?
だけど、まさか本当に治療院に宿泊するとは…
ミラーナさんは呆れた表情。
ミリアさんとモーリィさんは緊張して固まってる。
アリアさんは何がなんだか解らない様子。
初めて会うんだし、仕方無いよねぇ…
とりあえず紹介するか。
「アリアさんは初めて会うから紹介しますね。まずは王妃マリアンヌ・フェルゼン陛下です」
「アリアちゃんっていうのね? 初めまして♪ 私がイルモア王国の王妃、マリアンヌ・フェルゼンですわ♪ しばらく治療院に滞在するので宜しくね♪」
アリアさんにニッコリと笑いかける王妃様。
「ハ… ハイ! こちらこそ宜しくお願いします!」
やっぱり緊張してるな。
まぁ、仕方無いけど…
「そしてこちらは第2王女のキャサリン殿下です。ミラーナさんとは2歳違いで、もうすぐ16歳になります」
「キャサリンです、宜しくお願いしますね♪」
続いては…
「こちらはロザンヌ殿下。第3王女で14歳になります」
「ロザンヌですわ♪ 私も宜しくお願いしますね♪」
そして…
「こちらはフェルナンド殿下。第1王子で次期国王、7歳です。ちなみに私が初めて王都に行った時、成人したら妃になって欲しいと求婚され、私が不老不死だから無理だと答えると、側室になって欲しいと懇願されました♪」
「ちょっ…! エリカお姉ちゃん! それはっ…!」
バラされて恥ずかしいのか、慌てるフェルナンド様。
王妃様や王女様達は必死に笑いを堪えている。
勿論、初めて話を聞いたミラーナさんも。
「ちょっ… 母上に姉上達も、笑わないで下さい! 酷いよ、エリカお姉ちゃん!」
私に抗議するフェルナンド様に、ミラーナさんは…
「フェルナンド、別に良いだろ? お陰でアリアちゃんの緊張も解れた… ブフッ… みたいだし… プッ… でも、まさか… プフッ お前がエリカちゃんに求婚って… ククッ… 気が早過ぎんだろ…」
「で… でも、あの時はエリカお姉ちゃんが不老不死だって知らなかったし、僕より少しだけ年上なんだと思ってたし、ちょっとした年齢差なら問題無いと思ってたし、平民でも貴族の養女になったら… だから… その…」
慌てるフェルナンド様をミラーナさんは両手を突き出して制する。
「まぁ、知らなかったんなら無理もないけどな。でも、今じゃ理解してんだろ? それならそれで良いじゃないか。誰にでも間違い… とは少し違うと思うけど、これも一種の勉強だ。人は間違いを犯す。それは仕方無い。問題は、それを教訓とするかどうかだ。お前は間違い無く教訓にしてる。人生に於ける勉強をしたと思っておけ」
「その様な考え方もある、という事ですね?」
「そうだ。そして、同じ間違いを犯さなけりゃ良い。今後も間違いを犯すかも知れないが、それも勉強だ。人は間違いを繰り返しながら成長するんだ」
ミラーナさん自身は成長してないみたいだけど…
「エリカちゃん、今…」
「最後はローランド殿下、第2王子でもうすぐ3歳になられます」
「…のは姉らしかったと思うんだけどなぁ~…」
私はミラーナさんの抗議をスルーしてローランド様を紹介し、スルーされるのは予想外だったミラーナさんは誤魔化す様に話を続けた。
その様子に、状況を理解していないローランド様以外の全員がクスクス笑う。
「笑うなよぉ~… エリカちゃんも、いつもなら『何も考えてません』とか『気の所為です』とか言うのに~…」
「いや、最後まで紹介しないとですからね。で、こちらはアリアさん。見ての通りエルフです。見た目は13~14歳ですが150歳を超えてまして、治療院で私と一緒に魔法医として働いている私の弟子でもあります」
アリアさんがエルフなのは長く尖った耳で理解していただろうが、150歳を超えていると聞いて目を丸くする王妃様御一行。
「ア… アリアと申します! お目に掛かり光栄です! 今後とも、宜しくお願いします!」
う~ん、まだ緊張してるみたいだなぁ…
じゃ、ここはアリアさんの緊張を解すのと、王妃様御一行の歓迎会っ事で…
「さて… わざわざロザミアまでお越し頂き、更にはホプキンス治療院に滞在なさるとの事なので… 今日の夕食は私が腕に縒りを掛けて寿司でも握りますか♪」
「「「さんせ~い!!!!」」」
「「「………………????」」」
寿司を知ってるロザミア在住組と、知らない側の王妃様御一行との温度差が面白いかも♪
「じゃ、私は食材の買い出しに行きますね。ミリアさんとモーリィさんも一緒にお願いします。ミラーナさんとアリアさんは、王妃陛下達とお茶でも飲んで待ってて下さい♪」
「OK♪ 旨いのを頼むよ♪」
階段を降りる私達の耳に聞こえる疑問の声。
寿司とは何か?
食材は何なのか?
ミラーナさんは質問責めに遇ってる様だが、適当に誤魔化してるみたいだった。
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私達が出掛けてから小一時間。
9人分には少し多めの米と魚の切り身を購入して帰宅。
今までの経験上、初めて寿司を食べる人って、その美味しさに感動して思った以上に食べる傾向があるからな。
下手すると足りなくなる可能性もあるので、大人は酒で誤魔化すべくワインやシャンパンも用意した。
寿司の味を知ってる人達──ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさん、アリアさん──は、早くも視線が〝獲物を狙う獣の目〟になっている。
おいおい… そんなにかよ…
「今から準備しますからね♪ あ、ミリアさんとモーリィさんは刺身を、ミラーナさんはスープを頼みます♪」
「「「らぢゃ~♪」」」
喜び勇んでキッチンに駆け込む3人。
王妃様達は唖然としている。
「ミラーナが料理を…?」
意外なんだろうな。
破天荒で傍若無人でも、一応は王女様なんだから。
未だに信じられんけど…
「エリカちゃ… いや、なんでもない…」
またスルーされるのを気にしてるのか、言いかけた言葉を最後まで言わずに作業を続けるミラーナさん。
刺身を用意する2人の肩が震えている──笑いを堪えている──のには気付いたかな?
「ねぇ、ロザンヌ… ミラーナ姉様が料理って…」
「えぇ、初めて見ましたわ…」
だろうなぁ…
王宮じゃ、王女様が料理なんてしないだろうし…
「でも、ミラーナ姉上ってハンターなんですよね? なら、自分で食事を作る事もあるのではありませんか? 勿論、王宮では料理人が居ますから作る必要はありませんが…」
おっ?
成長が著しいな、フェルナンド様♪
さすが、次期国王だけの事はあるかな?
「ところでアリアお姉ちゃん、エリカお姉ちゃんの言うスシとは何ですか? 初めて聞く料理なんですが…」
人懐っこく、物怖じしないフェルナンド様。
早くもアリアさんの事をお姉ちゃん呼びですか?
私の時とは違い、恋心は芽生えなかった様で♪
…後で揶揄ってやろうかな?
アリアさんは寿司の説明に四苦八苦している様子。
そりゃ、まだ1回しか食べた事がないんだから仕方無いよな。
そうこうしている内に準備は調った。
王妃様達にも用意した大皿から食べて貰うが、無くなり次第ネタを注文して貰い、私が握る。
ミラーナさんのスープは別として、私の渾身の握りを味わって貰おうか!
こうして〝王妃様御一行ロザミア来訪歓迎寿司パーティー〟は開催の幕を開けたのだった。
勿論、悪ノリした私は板前さんのコスプレです♪




