第89話 王族御一行ロザミア来訪対策会議
ここはロザミア観光ホテルの会議室。
近々来訪するであろう王妃様と4人の王子・王女達の受け入れ体制についての会議が行われる。
参加者はロザミア領主のミラーナさん、ギルドマスターのマークさん、ホテルの支配人と料理長、ホテル警備の責任者。
更には街の商店街や食堂街の代表。
そして何故か私も呼ばれている…
「さて、全員集まった事だし、そろそろ会議を始めるか。誰が議長だ?」
ちょっと待てコラ。
「あのねぇ… どう考えてもミラーナさんが議長でしょ? この街の領主だし、王都での様子を知ってるのはミラーナさんしか居ないんですから…」
「あ… やっぱ、そうなるのか… 面倒だな…」
面倒って…
やる気、無いのかよ…
「とりあえず話を要約すると、アタシが社交パーティーでロザミアにテーマパークと観光ホテルを建設した事を話したんだよ。そしたら貴族連中が興味を持ってな… 多分だが、連中の持つ領地の領民がロザミアへ観光に来る可能性が高いって事だ」
会議室がざわめく。
そこかしこから…
「ロザミアに大勢の観光客が来るのか!」
「街が活性化するぞ!」
「粗暴なイメージが変わるかも知れん!」
等と言った声が挙がる。
「待ってくれ! 問題はそこじゃないんだ!」
ミラーナさんは皆を制し、話を続ける。
「観光客が来るのは問題無いだろう。そもそも、その為の施設なんだから。だが、興味を持ったのは貴族連中だけじゃない。よりによってキャサリン… つまり、アタシの妹も興味を持ったんだ」
ミラーナさんの妹と聞き、驚愕する一同。
つまりは王族が興味を持った。
王族が観光目的でロザミアに来るかも知れない。
「ど… どうする!?」
「ホテルの警備体制は大丈夫なのか!?」
「王族がホテルに宿泊されてる間、一般の観光客を街の宿屋で受け入れ可能なのか!?」
等々…
さっきとは違う意味で会議室は大騒ぎだ。
「落ち着いてくれ! まだ何も決まってないから! ロザミアでの受け入れ体制を決めてから連絡するって言っておいたから!」
ミラーナさんの一言に安心したのか、騒ぎは収まった。
しかし、考えなくてはいけない事には変わりないのだが。
「では… いつまでに王都へ連絡を…? そして、ご来訪はいつ頃になりそうですか?」
「ロザミアで結論を出さなきゃいけないのは今月中だな… 早馬を使って、9月の始めには返事を届けて…」
それから日程を決める為の会議を行い、護衛を準備する。
途中の街や宿場町には先触れを出し、厳戒態勢を敷いておく。
王族を宿屋に宿泊させるワケにはいかないので、街や宿場町に在る領主邸や領主館に宿泊する事になる。
当然、粗相があってはいけないので、ルートに在る街や宿場町の領主達も同行する事になる。
領主達の護衛も必要だ。
それらを計算すると、ロザミア来訪は秋頃──10月初め~11月半ば──になるだろうと言うのがミラーナさんの見立てであった。
「季節的には良いかも知れませんね。暑くもなく、寒くもなくですから。楽しんで貰えると思います」
ロザミアの人は楽しめないだろうけどな…
言えんけど…
「母上や弟達、妹達は楽しめるだろうけどなぁ… こっちは大変だよ…」
溜め息を吐くミラーナさん。
「まぁ、早くて10月初めとして、まだ1ヶ月半もあります。何とか受け入れ体制は調えられるでしょう。気になるのは護衛の人数ですが─」
「逆を言えば、1ヶ月半しか無いって事ですけどね…」
場を和ませようとしたであろうマークさんの言葉を私は一蹴する。
「いや… エリカちゃん、それを言っちゃあ…」
「私は事実を言ったまでですよ? ミラーナさんの話の通りだとして、王妃陛下御一行が来訪するまで最短で1ヶ月半、最長で2ヶ月半しか無いんです。どんな時でも最悪の事態… この場合は最短での来訪って事ですが、それを見据えて受け入れ体制を調えるべきでしょう」
慌てても仕方無い。
問題点を洗い出し、問題を一つずつ解決していく。
時間は掛かるだろうが、今の私達に出来る事から始めるしか方法は無い。
私としては、ロザミアらしさを無くす様な無理をする必要はないと思ってる。
多少は荒くれ者のハンターを抑える必要はあるだろうが…
ありのままを見て貰うのも大切なのではないだろうか?
「それは… 確かに… 変に気取ってロザミアらしさを無くすより、エリカちゃんの言う様にありのままを見て貰う方が良いでしょうねぇ。勿論、ナッシュみたいなヤツが無礼な事をしない様に、ハンター連中を抑える必要はあるでしょうが… 少し気負い過ぎていた様ですな」
私の説明に納得するマークさん。
皆、考え過ぎなんじゃないかな?
でも、相手は雲の上の存在だからな。
気持ちは解る。
私も初めて会った時は凄く緊張したからなぁ…
でも、一旦打ち解けたらドン引きするぐらい人懐っこいんだけど…
まぁ、私に対してだけかも知れんが…
マークさんが言う様に、多少はハンターが無礼…
と言うか、不敬な事をしない様に抑える必要はあるが、ロザミアらしさまで無くす必要はない。
無頼漢が跋扈する粗暴な街だが、同時に人情味溢れる街でもあるのだ。
だからこそ、私はロザミアが好きなのだ。
そんなロザミアが…
王族が来訪するからと言ってらしさを無くす様な事をするなど、私にとって許し難い蛮行と言える。
私の我儘かも知れないが、ロザミアは無頼漢が跋扈するからロザミアなのだ。
粗暴な街だからこそ、ロザミアなのだ。
そして、人情味溢れる街だからこそ、ロザミアなのだ。
誰が来ようと、そんなロザミアらしさを失って欲しくない。
「…って… なんで皆さん泣いてるんですか?」
「いや… エリカちゃんのロザミアに対する愛情に… まだロザミアに来て3年にも満たないってのに… そこまで…」
ダバダバ涙を流しながら答えるマークさん。
いや、私としては素直に自分の意見を述べただけなんですが…
「これは… エリカちゃんの意を汲んだ受け入れ体制を調えなければ! ロザミアらしい商店街で王妃陛下御一行を迎えましょう!」
「食堂街も負けてはいられません! ロザミアらしい食堂街にしなくては!」
…いや、ロザミアらしい商店街や食堂街って何なんだよ…
「ロザミア観光ホテルもです! 王妃陛下御一行に満足して頂くのは勿論の事、ロザミアらしくお出迎えしましょう!」
ロザミアらしい出迎えって、どんな出迎えするつもりなんだよ…
凄え不安なんだけど…
「我々警備班も、決して気を抜く事無く、ロザミアらしい警備を致しましょう!」
ロザミアらしい警備って、どんな警備なんだよ!
全く予想不可能なだけに不安しか無いぞ!?
「皆、やる気が出たみたいだな! エリカちゃんの言う通り、気負う必要なんかないんだ! ロザミアらしく、傍若無人に出迎えて─」
「傍若無人に出迎えるんじゃないっ!!!!」
ずどぱぁああああああんっ!!!!
べちゃぁあああああっ!!!!
私の〝ミラーナ仕様ハリセン〟のフルスイングで、会議室の壁までブッ飛ぶミラーナさん。
なんか、身体の半分くらい壁にめり込んでる気がするけど…
まぁ良いか。
「普通で良いんです、普通で! あんまりロザミアらしさを意識し過ぎると、反ってロザミアらしさを損なう事になるかも知れません! 変に気負い過ぎないで下さい!」
私の注意──と言うか、警告──に、壁にめり込んでるミラーナさん以外の会議参加者は、全員が青褪めた表情で頷くのだった。
なんで皆、私にビビるんだよ…




