第8話 エリカの仕事事情とギルドマスターの家庭の事情
ギルドマスターのハンター達への恫喝…
いや、説得って事にしておこう。
ギルドマスターのハンター達への説得の後、毎日200人を超えていた患者の数は100人程度に減り、多少は余裕を持って治療出来る様になった。
それにしても、やはりハンターが多いだけに怪我人が多い。
病気で治療所に来るのは大部分が商人や一般の人達。
勿論、商人の中にも怪我人は居る。
仕事中に怪我をする場合もあれば、商品を他の街へ運ぶ途中で盗賊に襲われるなんてのも。
護衛としてギルドに登録している傭兵を雇ったり、傭兵が居ない場合はハンターを傭兵代わりに雇ったりしているんだけど、やはり完璧とは行かない様で…
他には主婦や子供なんかも怪我や病気の治療にやって来る。
どうやらハンター達から評判を聞いて来たらしい。
それらを合わせても毎日100人程度の治療なので、やはりギルドマスターの恫喝…
じゃなくて説得が効いたんだろうね。
あれが無かったら毎日200人のハンターを治療するのに加え、商人や主婦や子供の治療まで行う事になっただろう。
そうなると毎日300人は治療する事になっていたかも知れない。
1日8時間で300人なんて、1人の治療に1分半だぞ!
患者を呼んだり治療費を受け取ったりする時間を考えたら、実質的に診察→治療の時間は1分有るか無いかになる。
そんな短時間で満足な治療を施すなんて、いくらなんでも無理だ!
ちょっとした切り傷とかならまだしも、しっかり診断して正しい治療を施さないと命に関わる病気や怪我もあるんだからな!
それを考えると、ギルドマスターの恫喝…
いやいや、説得には感謝しかないな♪
「お大事に~♪」
その日の最後の患者を見送り、大きく伸びをする。
治療終了時間の20時までは15分程ある。
今日は意外と早く終わったな。
でも油断は禁物。
飛び込みの急患があるかも知れないので20時までは動かずに待つ。
部屋の外の受け付け表にも書いてある。
『受け付け終了は19時半、診療終了は20時です。ただし、急を要する重傷・重病の患者はこの限りではありません。』
ってね。
なので20時までは気を抜けない。
そして…
20時になった。
うん、何も無いのが一番だね♪
部屋から出て、受け付け表の乗った台を部屋の中に片付ける。
部屋の鍵を掛け、ギルドの食堂に向かうとギルドマスターが居た。
「よう、エリカちゃん。今日も1日お疲れさん」
既に一杯引っ掛けてる様で、ほんのり顔が赤い。
「ギルドマスターもお疲れ様です」
私は挨拶をしてから食事を注文する。
ギルドマスターの向かいの席に座り、食事が運ばれて来るまで話す事にした。
「珍しいですね、いつもなら帰ってる時間じゃないですか?」
「あぁ、今日はウチに誰も居ないからな」
「誰も?」
ギルドマスターは自身の家庭の事を話してくれた。
ギルドマスターは妻帯者で息子が2人。
3人目が生まれるって事で、奥さんは里帰り出産なんだって。
更に40代半ばだと思ってたギルドマスターは、実は30代半ばだと判明。
口髭のせいで老けて見えてただけみたいだ。
自分も出産に立ち会いたかったけど、ギルドマスターとしての責任からギルドを離れられないんだって。
ギルドマスターって、ギルドの最高責任者だから大変なんだなぁ。
その後も2人で食事をしつつ、私はギルドマスターの奥さんや息子の自慢や愚痴を延々3時間以上も聞かされ、治療所の仕事より疲れてグッタリしたままシャワーを浴びて眠りについたのだった。




