第87話 破天荒なミラーナさんも、たまには悩む様ですw
私がハリセンで失神させられ、引き摺られて食堂を出た後の支払いは…
モーリィさんが私の巾着から全額支払ったそうだ。
何でもハンター同士の間では、稼いでいる側が支払うんだとか。
なので、私の奢りって事で、リンダさん達全員が納得したらしい。
知らんわ、そんな事!
芸人の世界かよ!
そんな事、今まで1度も言わんかったやないかいっ!
「だってエリカちゃん、ハンターじゃないからねぇ。それに、必ず奢らなきゃならないってルールが在るワケでもないし」
がっでむ!!!!
「まぁ、ランクの低いハンターは、食べるのに苦労してる人も多いのよねぇ。勿論、Fランクとかの駆け出しのハンターだけどね?」
そりゃそうだろう。
最低限の実力と知識しか持ち合わせてないなら、受けられる依頼の種類も少ないから稼ぎも少ないけど…
「だからって、私に無断で全員分支払わなくても…」
「まあまあ。リンダちゃん達、5人で宿屋の大部屋を借りて住んでるの。宿代と食費を引いた稼ぎって、良くて1日銀貨数枚らしいのよね。だから、喜んでたわよ?」
ブツブツ言う私を宥めるミリアさん。
いや、怒ってないよ?
ただ、無断で私の巾着を開けたのがね?
小金貨数枚と銀貨20枚程度しか入れてなかったけど…
「別に良いじゃん。毎日金貨1枚稼いでんだから、たかが小金貨1枚程度の支払いなんて問題無いっしょ?」
おいおい…
「そ~ゆ~問題じゃなくて、人のお金を勝手に使ったら窃盗罪になりますよ? 私だから良かったけど、他の人だったら確実に訴えられますからね?」
余裕が消え、一気に青褪めるモーリィさん。
「マジで?」
「マジで」
ミリアさんはモーリィさんの肩をポンポンと叩き…
「相手がエリカちゃんで良かったわね…」
モーリィさんは涙をダバダバ流しながら私の両手を握り締め…
「エリカちゃん! 訴えないでね!」
家族同然の同居人を訴えねぇよ。
てか、泣くなら後先考えずに行動するクセを治さんかい。
モーリィさん、だんだんミラーナさんみたいになってきたな…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「へくしっ!」
「ミラーナ姉様、お風邪ですか?」
ミラーナのクシャミにキャサリンが聞く。
「いや… 誰かがアタシの噂でもしてんだろ。それより、なんで領地を貰わなかったんだ? まぁ、領地経営なんて面倒だと思うけどさ」
領地経営してるとは言い難いミラーナが聞く。
本人は全く気にしていないのだが…
「私には領地経営なんて無理ですわ… 貰った領地の人々が混乱するだけだと思いましたので、辞退致しましたの」
「ふ~ん…? それにしても退屈だなぁ…」
2人は社交パーティーの会場に居るのだが、領地を持たないキャサリンはともかく、ロザミア領主のミラーナはキャサリンの側から動こうとしない。
「あら、貴族達や領主達と交易の話などされれば宜しいのに…」
実際、貴族達や領主達は互いに親睦を深めるべく、会話に忙しんでいる。
ボ~ッと酒ばかり飲んでるのはミラーナぐらいしか居ない。
「交易の話ったってなぁ… ロザミアは〝ハンターの街〟だから、これと言った特産品も無いしなぁ…」
「あら…? 最近になって〝てえまぱあく〟とやらを造られたんじゃ…? それに、新たに観光ホテルも造られたと聞きましたよ?」
それを聞いて、ミラーナは一気に青褪める。
「わ…」
「わ?」
「忘れてたぁああああああっ!!!!」
この場にエリカが居たら、間違い無くハリセン・チョップを食らわせていただろう。
ダッシュで領主達の元へ向かったミラーナが1人の領主を捕まえ、テーマパークや観光ホテルの話を始める。
すると興味を持った貴族・領主達がミラーナの周りに集まり、パーティーが終わるまで延々と質問し続けたのだった。
─────────────────
「つ… 疲れた…」
ミラーナはキャサリンの肩を借り、自分の部屋に戻るなりベッドに倒れ込む。
「肝心の話を忘れるなんて、ミラーナ姉様らしいと言えばらしいですけど… エリカちゃんが居なくて良かったですわね? 居ればきっと、あのハリセン? とやらで一発ぐらいは…」
「可能性は高いよな… そう考えると、キャサリンのお陰で助かったのかな…? それにしても連中、そんなに娯楽に飢えてんのか?」
実際、飢えているのだった。
中世ヨーロッパ程度の文化しか持たない世界で領地を持つ貴族は領地経営に腐心し、娯楽を楽しむ余裕は殆ど無い。
領民に不満が出ない様な税制を敷きつつ、自身も貴族としての威厳を保った生活をしなければならない。
伯爵以上の上級貴族ならまだしも、子爵や男爵では領主邸の維持管理費・使用人の給金を払い、年2回の社交シーズンでの王都までの旅費等を考えると、娯楽にまで気を回せないのが実情。
せいぜい、社交シーズンで王都に居る間に観劇を楽しむ程度である。
もっとも、劇場自体イルモア王国には王都と伯爵領以上の中規模以上の街にしか存在しないのだから、子爵領以下の小規模な街しか持てない貴族には観劇の習慣さえ無いのだった。
そんな中、ミラーナの領地であるロザミアにテーマパークなる物が造られ、平民のフリをすれば格安で娯楽を楽しめる事が判明。
娯楽に飢えた貴族達が飛び付くのも、無理はないと言える。
また、ある種の計算も在った。
貴族である自身が平民と一緒にテーマパークを楽しめば、領民に寄り添う領主様というイメージで領民から慕われるかも知れない。
セコいと言うなかれ。
領民に好かれる領主は善政を敷く必要があり、税を下げる以外の方法は散財に繋がり、税を下げれば自身の生活が逼迫するので忌避したいのが実情なのだった。
「なんなんだよ、それ… まぁ、アタシはハンターとしての稼ぎもあるし、エリカちゃんと同居してるから生活費の心配も無いからなぁ… 連中とは立場が違うか…」
「エリカちゃんと一緒に住んでるだけでも羨ましいですわ♡ それに、てえまぱあくも楽しそうですし♪ 私、ロザミアに行ってみたいですわ♡」
ミラーナは思う。
キャサリンがロザミアに来るなら、当然ロザンヌも来るだろう。
フェルナンドも来るに違いないし、そうなると母上に連れられてローランドも来るに違いない。
さすがに公務で忙しい国王は来れないだろうが…
護衛の兵士が供をするのは間違いないし、王族の護衛が少ないワケもない。
お忍びで少人数の来訪って事は無いと思いたいが…
「まぁ、それは父上にでも相談するんだな。キャサリンも解ってると思うけど、アタシは別として王族が簡単に外遊するのは難しいからな。ロザミアでの受け入れ体制も調えなきゃいけないしさ。来てくれるのは嬉しいけど、少し待ってくれ」
「解りましたわ♡ じゃ、早速お父様に相談致しますわね♡」
言ってキャサリンは嬉々としてミラーナの部屋を去っていく。
頭を抱えるミラーナ。
「マジかよ… こりゃ、ロザミアが大騒ぎになるかも知れないし… エリカちゃん達にも迷惑が掛かるかもな…」
数日後、ミラーナは大きな悩みを抱えてロザミアへの帰路に着くのだった。




