第86話 油断大敵、後方注意!?
私はリンダさん達パーティーのメンバーと何となく意気投合し、夕食を共にする事にした。
いや、だからって不老不死仲間にしようとは考えてないからね。
なんか気が合うなって思ったんだよ。
彼女達のパーティーは、リーダーに20歳のリンダさん。
剣士で前衛担当。
サブリーダーのマリーさんは19歳で、金銭管理を兼任している。
槍の使い手で、同じく前衛担当。
金銭管理を補佐するのが17歳のパトリシア──通称パティ──さん。
魔導師で後衛担当。
ここまでの3人がCランク。
後衛の纏め役は18歳のプリシラさん。
弓の使い手で、30m以内なら確実に的を射抜けるんだとか。
それだけの腕で何故Dランクなのかと言えば、結局は武器の殺傷能力と動く相手に対する命中率の低さが足枷となったらしい。
単純に向かってくる相手に対しては命中率も高いし、貫通力も高くなるから殺傷能力も上がる。
しかし、横に動く相手に対しては、当てるだけでも至難の業らしい。
結果、なかなかCランク試験に受からないんだそうだ。
残る1人は15歳のカリーナさん。
同じく弓の使い手で後衛担当。
必中距離はプリシラさんの半分以下の10mそこそこだとか。
それでも大した腕だと思うけどね。
なので彼女もDランク。
以上の5名がリンダさん率いるパーティー。
ミラーナさんが社交シーズンで王都に帰った為、ギルドで暇そうに時間潰ししているミリアさんとモーリィさんに声を掛けたのが、パーティー唯一の魔導師であるパティさんだった。
「何となくだけどぉ~、ミラーナさんと組んでる2人と一緒に行動する事で得るモノがあるんじゃないかなぁ~って思ったのぉ~♪ そしたらDランクの2人もぉ~、Cランクへの壁を突破するヒントか何かを感じるかなぁ~って思ったのよねぇ~♪」
「あ~… その考えはアリですね。自分より上に居る人… それも追い付くのが難しい人を見るだけでも勉強になりますからね」
私は同意し、頷く。
「それにしても上過ぎるんじゃない? ミラーナさんは完全にSランクだし、ミリアさんとモーリィさんもAランクを超えてるって噂だよ? Cランクで留まってる理由までは知らないけどさ」
プリシラさんが疑問を口にする。
いや、Bランクになると国家の義務が生じるのが面倒だからってのが理由なんですけど…
言ったら幻滅するかも知れないから言わんけど。
「でも、ミリアさんやモーリィさんは剣士ですから剣を使う人には参考になるかも知れませんけど… 槍や弓、ましてや魔導師には何の参考にもなりませんよ? どうしてパーティーに誘ったんですか?」
私の疑問は当然だったのか、誘ったパティさん以外の全員が頷く。
「エリカちゃんの言う通りだよねぇ? パティ、どうして2人を誘ったんだい?」
プリシラさんが聞く。
「相乗効果を狙ったんですよねぇ~♪ リンダさんは剣士だからぁ~、2人に刺激されて実力向上するかなぁ~って思ってぇ~。そしたら同じ前衛のマリーさんも刺激されるでしょうしぃ~。そうなると弓の2人も『負けてられない!』ってなると思ったんですよぉ~♪」
やたらと間延びした話し方のパティさん。
しかし、ミリアさん以上におっとりした雰囲気の女性だからか、イラつく事も無い。
案外、このパーティーのムードメーカー的な存在なのかも。
「あぁ~… パティの言う通り、そんな気になってたな。まぁ『負けてられない』って言うより『2人に遅れたくない』って感じだったけど…」
言いつつリンダさんは、グラスの酒を飲み干す。
空になったグラスに酒を注ぐのは、最年少のカリーナさん。
「カリーナ… そんなに気を使うなよ。私は手酌で飲むから…」
「でも私は… まだまだ未熟で… 戦闘で役に立てない分、気を使うしか…」
自分がCランクに上がれないのを気にしてるんだな…
同じくDランクのプリシラさんも項垂れている。
「まったく… お前やプリシラがDランクなのは仕方無いし、誰も気にしてないよ。そんな事を気にするんなら、私に気を使うよりCランクへの昇級試験に気を使えよ。その方が、お前達には重要なんだろ?」
リンダさん…
なんだかミラーナさんみたいな言い方だな。
リーダーは似た様な感じになるのかな?
ミラーナさんはロザミアの領主だから、街のリーダーみたいなモンだし。
まるでリーダーっぽくないけど…
「私も刺激になったかな? 槍は突くよりブン回す方が広範囲をカバーするのに効果的だから、剣をブン回す2人の戦い方は参考になってるかも♪」
参考になるのかな?
剣と槍じゃ、攻撃範囲が違い過ぎるんじゃ…
マリーさんの槍って、3m近い長さだぞ?
「そこはコンビネーションだね。私が槍でブン殴り、リーダーが剣で斬るんだよ。後衛の3人は、その前の前哨攻撃って感じだね」
なるほどね。
弓や魔法で前哨攻撃、怯んだ相手をマリーさんが突っ込み槍で殴り、リンダさんが剣で止めを刺すワケか。
でも、それだと…
「その攻撃方法が有効なのは、相手が単体の場合って事なんだよね。複数になるとねぇ…」
腕を組んで溜め息を吐くリンダさん。
「だから私とリーダーが複数の敵と戦ってる間、後衛の3人は他の敵を足止めしなきゃいけないんだよ。ミリアさんとモーリィさんは、2人だけで何体もの敵を倒せるのにさ…」
あの2人も凄いだろうけど、ミラーナさんは1人で何体ものオーガを倒すぞ?
そんな人達を参考にする方が間違ってると言いたい。
言えんけど…
いや、言ってあげた方が良いのかも…
下手に参考にしたり頼り過ぎたりすると、元のメンバーだけで魔物や魔獣と対峙した時、無理して大怪我するかも知れない。
「あの2人やミラーナさんを参考にしたりするのは危険かも知れませんよ? 参考にするなら、1つ上のランクのハンターを参考にする方が良いと思います。あの3人の動きに合わせられる人は、まず居ないと言っても過言では無いでしょうし」
私の隣に座るDランクの2人は真剣な表情で聞いている。
向かい側に座るCランクの3人も真剣な表情だが、何か言いたそうにしている。
まぁ、CランクとDランクでは格が違うからな。
その違いは試験の有無。
Fランク~Dランクまでは実績をギルド職員が判断して昇格するのだが、Cランクからは単独でも魔物や魔獣の討伐依頼を受けられる関係上、昇格する為の試験が課されるからだ。
その試験の内容までは知らないが、結構キツいらしい。
Fランクハンターになるにも、ミラーナさんが領主になった時に設定した条件が在るそうだが…
それは最低限の実力と知識で合格なので、そんなに難しい事ではないらしい。
だが、Cランク以上となると話はガラッと変わる。
単独での魔物や魔獣の討伐依頼を受けられる様になるのは勿論、戦争への参加も許可されるのだから生半可な条件ではないだろう。
「まぁ、CランクとDランクでは違いが大きいですからね。私の言葉に反論があるかも知れませんが、あの3人はCランクのハンターからすれば異常な能力と言わざるを得ませんからねぇ。参考にもならないと思いますし、ましてや真似なんてしようモンなら…」
すぱぱぁああああああんっ!!!!
ガンッ!
「あ痛ぁっ!」
突然、後頭部に衝撃を食らい、私は勢い余ってテーブルに額を打ち付ける。
身に覚えのある…
いや、覚えがあり過ぎる衝撃だが、まだ7月半ば。
ミラーナさんが戻って来てる筈は…
何とか身を起こして振り返ると、そこにはこめかみに青筋を浮かべたミリアさんとモーリィさん。
い… いつの間に!?
「エ~リ~カ~ちゃ~ん? 誰が異常な能力だってぇ~?」
モーリィさん…
笑顔だけど、目が全く笑っていませんよ?
「私… エリカちゃんから、そんな目で見られてたのね… 悲しいわぁ…」
ミリアさん…
悲しいと言うワリに、目が凄え怖いんですけど…
「あの~… 2人が持ってるソレって…」
「「ハリセン」」
2人の声がハモる。
うん、ハリセンですよね。
誰が見てもハリセンですね。
ただ、紙の厚みが3ミリ程もあるのは何故ですか?
普通のハリセンに比べて、かなりパワーアップしてると思いますよ?
「これ? ミラーナさんが、絶対に作っておいた方が良いって言ってくれたのよ?」
「ミラーナさんの予想、当たったよねぇ~♪ エリカちゃんの事だから、絶対に私達の悪口… とは違うけど、そう聞こえる様な感じの事を言うかもって言ってたから」
それで、わざわざハリセンを作ったんですか?
何の為に? って、変な事を言った私に食らわせる為でしたか。
「いや、あの~… これはですね…」
「「問答無用っ!!!!」」
すぱぱぁああああああんっ!!!!
私は2人から2発目のWハリセン・チョップを顔面に食らって失神。
治療院まで2人に引き摺られて帰ったと、後日リンダさん達から聞かされたのだった。
今回の話ですが、たまには真面目な話にする予定でした。
前回から登場したリンダ達パーティーメンバーの紹介とか、メンバーそれぞれの関係の説明を予定してましたが…
あれっ?




