第82話 ミラーナさん、アンタの妹達は何なんですか!?
王都を出発する前の夜、私達4人は私の部屋で寝る前の会話をしている。
もっとも、私はグッタリとベッドに横たわっているのだが…
何故かと言うと『次にエリカちゃんと一緒に入れるのは何ヶ月先になるか分からないから』と、またオモチャにされたのだ。
それもタップリと時間を掛けて…
ちなみにミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんの3人は『自分達はいつでも一緒に入れるから、最後の日は譲る』と、遠慮していた。
譲ったり遠慮したりするより止めんかいっ!
「なんで止めてくれなかったんですか…」
私は力無く抗議する。
「だって、相手は王家の人よ? 平民の私に止められるワケが…」
「だよねぇ… それに、あんなに嬉しそうな王妃陛下や王女殿下達を見たら、止めるって行為自体に罪悪感が…」
2人の言いたい事は解る。
確かに、平民が王家の人の行動にストップを掛けるのは不敬になる恐れもあり、気軽に出来る事ではない。
更に追い討ちを掛けたのは、王妃様、キャサリン様、ロザンヌ様3人の眩しいまでの嬉しそうな笑顔。
立場の違いと笑顔のW攻撃(?)を食らったら、3人を止められる者は誰も居ないかも知れない。
いや、1人だけが可能なのだ。
国王陛下? フェルナンド様?
いやいや、どちらも無理。
フェルナンド様は何度か一緒に入っているので共犯にされ、巻き込まれる可能性が高い。
国王陛下は一応『エリカ殿が嫌がっているのだから…』と、止めようとしてくれたのだが…
王妃様の『あら、陛下。【嫌よ嫌よも好きの内】とも言いますし、そもそも女同士の【裸の付き合い】ですのよ? 男がとやかく言うのは野暮というモノではありませんこと?』と言われ、苦笑しつつ諦めていた。
なので、3人を止める事が可能なのはミラーナさんだけなのだが…
「そりゃ、アタシなら止められた可能性はあるだろうけど… 止められるだけの正当な理由が無いんだよ。例えば『アタシが一緒に入るから』って止めても、誰かから『ロザミアに帰れば、いつでも一緒に入れる』って言われたら何も言い返せないしなぁ…」
確かに…
正当な理由が無い以上、ミラーナさんでも3人が私を風呂で洗いまくるのを止める事は不可能なのか…
私は私の身体を洗う人の事を全自動全身洗浄マシンだと思う事にした。
したのだが、やはりマシンではなく人の手。
マシンなら、毎回同じ動きだから慣れるのも難しくない。
しかし、人は違う。
感情が入るから、動きは毎回違う。
思いもしない動きがあるので、神経が磨り減るんだよ…
慣れようと思ったけど無理…
他人に身体を洗われるのが当たり前の生活をしてる人ならまだしも、そんな生活とは無縁だったんだから…
「まぁ、明日はロザミアに向けて出発ですし… そうそう私が王都に来る事も無いでしょうから、これで疲れるお風呂ともオサラバですけどね…」
「まぁ… ね…」
「そうなるかしら…」
「うん… だね…」
コイツ等、ロザミアに帰ったら風呂を再現するつもりだな?
なら…
「先に言っておきますけど… ロザミアに帰ってから私を3人で洗ったら、治療院から強制退去させますからね。勿論、アリアさんに対して同様の事をした場合もです」
私の言葉に固まる3人。
やっぱり考えてやがったな?
治療院は土地も建物も私個人の所有物で、更に私は3人の家主なのだ。
横暴と言わないで欲しい。
家主に迷惑を掛ける店子や、他の店子に迷惑を掛ける店子が追い出されるのは仕方無い事なのだ。
「解・り・ま・し・た・ね?」
「「「はぁ~い…」」」
念を押す私に、3人は力無く同意するのだった。
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出発の日の朝、私達は国王一家と一緒に朝食を食べながら会話をしている。
「これを食べ終えたら、エリカちゃん達はロザミアに帰ってしまうのね」
心底残念そうな王妃様。
「また一緒にお風呂に入れるのは何ヶ月後かしらねぇ…」
「またお風呂が寂しくなりますわね…」
いい加減、風呂から離れてくれ。
「ミラーナ姉様は良いですわね。ロザミアに帰ったら、またエリカちゃんと─」
「一緒には入らね~よ」
キャサリン様の一言を真っ向から否定するミラーナさん。
昨夜の脅し(?)が効いてるのかな?
「お前等の手紙を見て興味が湧いたから、何度か一緒に入ったけどな。こっちでも付き合いで入ったけど、これ以上はちょっとな…」
何度かぢゃなくて、結構一緒に入ったけどな。
お陰で、あの頃は毎日グッタリしてたけど…
「いやまぁ… 一緒に入る事はあるだろうけど、エリカちゃんを洗うのは終わりだな」
まぁ、治療院の浴室は私達全員が入っても余裕の広さだからな。
広々とした浴室でノンビリしたかったから、銭湯みたいに広く作ってるのだ。
「一緒に入れるのに、勿体無いですわよ?」
キャサリン様の問いに、ミラーナさんは平然と答える。
「勿体無いのは時間だよ。エリカちゃんを洗って自分を洗う。それだと、風呂を出てから寝るまでの時間が短くなっちまうだろ? その時間で何か出来るかもって考えると、自分だけ洗って風呂を出た方が時間を有効に使える。時間は有限なんだ。キャサリンみたいな時間の使い方の方が勿体無いよ。それに、自分で身体を洗えない小さな子供を洗うならまだしも、エリカちゃんは見た目は子供でも中身は大人なんだ。お前等みたいにオモチャにするなんて、失礼ってモンだろ」
珍しく説得力がある様な話をするミラーナさん。
普段から今みたいに真面目だったらなぁ…
「まぁ、満足な娯楽も無い王宮で生活してるお前等には同情するけどな。エリカちゃんを洗うってのも、お前等には楽しい娯楽だったんだろうし」
それは何となく解る。
それが嫌だからミラーナさんはハンターになったんだろうし。
「ミラーナの言い分も、もっともですわねぇ… なら、キャサリンとロザンヌは、今夜からお互いを洗いっこすれば宜しいんじゃなくて? エリカちゃんを洗うより楽しめないかも知れないけど、エリカちゃんの気持ちも解って一石二鳥ですわね♪」
キャサリン様とロザンヌ様は、お互いを見つめて頷いた。
「そうですわね。ロザンヌ、それで満足しましょうか?」
「えぇ。キャサリン姉様の身体、私が心を込めて洗って差し上げますわ♡」
「私も、ロザンヌの身体を心を込めて洗いますわ♡」
理解してくれた様で良かった良かった。
これでまた王宮に来る事があっても、安心して滞在できるな♪
そして2人は私に向かって宣言する。
「「次にエリカちゃんを洗うまでは、それで我慢しますっ!」」
理解してねぇええええええええっ!!!!
ミラーナさんの説得、効果無しかぁああああああいっ!!!!
そして私は、また王都に来る事があっても絶対に王宮には滞在しない事を決意し、ロザミアへの帰路についたのだった。




