第80話 イルモア王国最強は… って、なんでやねん!
「それにしても、随分とミラーナも丸くなったものですわね♪」
私達は今、お茶会の真っ最中。
ミリアさんとモーリィさんも、ようやく慣れてきた様で楽しんでいる。
そんな中、王妃様が意味不明──少なくとも私には──な言葉を発したのだ。
丸くなった?
以前はギスギスしてたって事かな?
「えっ? そ… そうかな? 別に太った感じはないんだけど…」
言いつつ自身の身体を触りながら眺めるミラーナさん。
おいおい…
「そ~ゆ~意味じゃ、ありません!」
ぺしんっ!
と、私はハリセンで軽く後頭部を叩く。
「へっ? じゃ、ど~ゆ~意味だよ?」
解らんのかい。
「王妃様の言う丸くなったってのは、見た目の事じゃなくて性格の事でしょ? 以前のミラーナさんがどんな性格だったのかは知りませんが、例えば刺々しさが無くなったとか、そんな意味だと思いますよ?」
私がマインバーグ伯爵から聞いた限りでは、破天荒で傍若無人だったって事だから、かなり周りに緊張感を強いる性格だったのではないかと思われる。
それを考えれば、今のミラーナさんは親しみを感じる性格だと言える。
私個人の感想だけど。
「エリカちゃんの言う通りですよ? 以前のミラーナは、他人を寄せ付けない雰囲気でしたからね♪ ロザミアの領主になった頃から、そんな雰囲気が徐々にですけど薄れて… エリカちゃんと出会った頃かしら? なんだか人が変わったみたいに穏やかになって… 私達、驚いていたんですよ?」
「そ… そうかな? まぁ、エリカちゃんと暮らす様になって… なんだか毎日が楽しいんだよ… 王宮で暮らしてた頃は… 何て言うか、自由も無かったし堅苦しかったからね。ロザミアでは誰もが1人のハンターとして接してくれるし、エリカちゃんに至っては平気でアタシをハリセンで殴るし… さすがに皆、敬語でしか話してくれないけど… とにかく素で居られるのが嬉しかったんだよね…」
私の件はともかく、誰もが自身を王女様扱いしないのが嬉しかったらしい。
王族としてではなく、1人のハンターとして普通に接して貰える。
堅苦しいのが大嫌いなミラーナさんにとって、自身が王族である事を忘れて楽しく毎日を過ごせたのが良かったんだろう。
私と出会い、一緒に暮らす様になった事で、更に性格が丸くなったって事かな?
ハリセンで殴られるなんて、王宮に居た頃からは考えられない事だろうし。
「私が初めてミラーナさんに会った時は、王女様だって自己紹介されたんですよね。勿論、王都を一歩出たら一介のハンターに過ぎないとも言われましたけど。その後ミラーナさんと何度も話してる内に、だんだん王女様だと思えなくなっていったんですよ。なにしろ人間とは思えない様な事を平然とやってのける…」
すぱぁああああああんっ!!!!
ゴンッ!
「あ痛ぁっ!」
「人間とは思えないってのは言い過ぎだと思うけど?」
「いや、だって何体ものオーガの群れを1人で倒してたでしょ? とても人間業とは思えませんよ… 普通、1体倒すのに熟練ハンターが3人必要なのに…」
私はハリセンで叩かれた後頭部とテーブルにぶつけた額を擦りながら抗議する。
「いや… それはまぁ… そうなんだけど…」
オーガの件を聞き、目を丸くする国王一家。
「ミラーナ姉様…」
「何て言えば…」
キャサリン様、ロザンヌ様、何も言わない方が…
「ミラーナ姉上って…」
「殿下、それ以上は…」
「そうです、言わない方が…」
フェルナンド様が何か言おうとするのを止めるミリアさんとモーリィさん。
それが正解だと思うよ。
「いやぁねぇ、ミラーナったら♪ まるでバ○モノじゃない♪」
「ちょっ… 母上!?」
…言っちゃったよ…
さすがは王妃様、ミラーナさんに対して何の遠慮も無いな…
「フム… ならばブルトニアの援軍には、ミラーナ1人だけを送り込んでも良かったかな?」
国王陛下…
アンタもかい…
「ち… 父上まで…! いったい皆、アタシの事を何だと…」
「「「「「バケ○ノ」」」」」
国王一家全員の声がハモる。
おいおい…
ぷしゅぅうううううっ
そんな音が聞こえるかの様に、テーブルに突っ伏すミラーナさん。
…なんか頭から煙が出てる様な気がするのは私だけだろうか?
家族全員──理解していないローランド様を除く──からバケモ○呼ばわりされたミラーナさんは、しばらく立ち直れないでいた。
────────────────
「なんなんだよぉ~… なんで皆が皆、アタシを○ケモノ扱いするんだよぉ~…」
お茶会の後、何故か私の部屋で愚痴をこぼすミラーナさん。
「簡単に言えば、それだけミラーナさんの身体能力が人間離れしてるって事ですね。自分で言ってたじゃないですか。本気で蹴ったらオーガの腕や脚の骨を粉砕するって。誰にも出来ませんよ、そんな事」
私に言われて考え込むミラーナさん。
そんなモン、考えんでも解るだろうが…
「う~ん… アタシには普通の事でも、他の連中には普通じゃないって事か… そんな事、今まで考えた事も無かったなぁ…」
考えろ、頼むから…
アンタを基準にした世の中なんて、普通の人は生活するだけで命懸けだぞ…
「まったく… どんな鍛え方したのか知りませんけど、普通の人がミラーナさんの領域に達するなんて簡単な事じゃありませんからね。ミリアさんとモーリィさんも、ミラーナさんとパーティー組んでるから解るでしょ?」
当然の様に私の部屋で寛ぐ2人に同意を求める。
て言うか、何故アンタ等まで私の部屋に居るんだよ…
王宮で与えられた部屋はだだっ広いから、4人が一堂に会しても全く狭さは感じないから良いけど…
「まぁ… ミラーナさんのスピードには、私も着いて行くのが精一杯なのよねぇ… 全力で動いたって、ミラーナさんが本気で動いたらどうしても遅れちゃうし…」
「スピードだけじゃなくて、パワーだって足下にも及ばないんだよねぇ… 私、パワーには自信あったんだよ? 『パワー・ファイター』って言われてたんだから… ミリアは『スピード・ファイター』って言われてたし… そんな私達が息を切らして倒す相手をさ、ミラーナさんは1人で軽く倒しちゃうんだもん…」
「格が違い過ぎるのよねぇ… 私達だって昇格試験を受ければ、Aランクなんて余裕で受かる自信はあるわよ? Sランクにだって昇格する自信あるんだから」
「そうそう。ただ国家を守る義務が生じるのが面倒だから、Cランクに留まってただけで… 私達って最強かもとか、世界で五指に入るよねとか言ってたんだけど…」
ミラーナさんのスピードとパワーを目の当たりにして、自信を喪失したってトコか…
「なんだよぉ… 2人もアタシをバ○モノみたいに思ってたって事かぁ?」
そりゃそうだろ。
きっと2人は血の滲む様な努力をしたに違いない。
マークさん──忘れてるかも知れないがギルドマスター──にも鍛えられたみたいだしな。
まぁ、ミラーナさんも努力したんだろうけど…
そんな2人の実力すら、ミラーナさんは凌駕しているのだ。
バケ○ノと思うのも無理はないな。
「う~ん… バケモ○と言うより、超人って感じなんですよねぇ…」
「だよねぇ。私達じゃ手の届かない高みに居るって言うか… ミリアが言う様に、まさに超人って感じ? 憧れる存在って感じ?」
ガバッと身を起こすミラーナさん。
まさかと思うけど…
「超人!? そうか! アタシは○ケモノじゃなくて超人なんだな! 普通の連中からはバ○モノに見えるけど、実は超人なんだな!!!!」
なんなんだ、この幼稚園児並の単純な思考は!?
あれか!?
これが俗に言う〝中2病〟ってヤツか!?
違うかも知れんが、前世を含めて26年生きてきて初めて見たぞ!
「よし! これからは超人ミラーナとして世に名を知らしめるべく暴れまわって…」
「暴れるんじゃないっ!!!!」
ずぱぁああああああんっ!!!!
私はミラーナさんの後頭部に〝ミラーナ仕様ハリセン〟を全力で打ち込んだ。
当然、ミラーナさんは昏倒する。
私はミリアさんとモーリィさんを睨み付け…
「あんまりミラーナさんを持ち上げないで下さい! 調子に乗ったら何をしでかすか分からない人なんですから!」
「ごめんなさい…」
「気を付けます…」
この様子を国王一家はコッソリ見ており、一気に貴族達に噂が広まった。
曰く、『イルモア王国最強は、あのミラーナ王女すら叩きのめすエリカ・ホプキンス魔法医である』と…
なんじゃ、そりゃぁあああああああああああああああっ!!!!




