第79話 浴室→表彰式→パーティー→医務室 …って、なんでやねん!
何故だろう…
今日は戦争で功績のあった者が表彰される日だ。
なのに何故、朝から私は浴室で6人──王妃様・ミラーナさん・キャサリン様・ロザンヌ様・ミリアさん・モーリィさん──に囲まれて全身を洗われてるんだろう…
「エリカちゃんの晴れ舞台ですからね♡ しっかり磨いておかないと♡」
ニコニコ笑顔で私を背後から洗う王妃様。
「…一応、アタシにとっても晴れ舞台なんだけどなぁ…」
ブツブツ文句を言いつつも、何故か私を洗うのを止めないミラーナさん。
「エリカちゃん、大勢の前で表彰されるのって初めてでしょ? 綺麗にしないといけませんわ♡」
言いつつ私の両脚をガシガシ洗うキャサリン様。
「しっかり洗って、もっと可愛らしくしないとですわ♡」
私の正面に陣取り、胸やら腹やら………を洗うロザンヌ様。
頼むから止めてくれ…
「私達も表彰されるのよね?」
「だから王都に… 王宮に滞在させて貰ってるワケなんだけど…」
「なのに、なんで私達がエリカちゃんを洗ってるのかな? …楽しいけど…」
なんだかんだ言いつつも、私を洗う手を止めないミリアさんとモーリィさん。
…楽しいんかい…
先日の説得(?)が効いているのか、フェルナンド様は遠慮してくれた。
お陰で恥ずかしさは軽減されてるけど…
どっちにしたって私が寄って集って全身を洗われるのに変わり無いわいっ!!!!
もう抵抗するだけ無駄だと悟った私は、楽しそうに私を洗う6人を全自動全身洗浄マシンだと思う事にしたのだった。
多分、私の表情は遮光器土偶みたいになってただろうな…
静かな表彰式の会場。
私が初めて王宮に招かれた時に入った『謁見の間』だ。
見覚えのある大勢の貴族達。
当然だ。
前回の御披露目──私の──パーティーや、戦争時の作戦会議の場でも顔を会わせているんだから。
厳かな雰囲気の中、次々に戦争に貢献した貴族達が表彰される。
ある者は褒美の品を受け取り、ある者は陞爵──上の爵位に上がる事──を言い渡される。
ミリアさんとモーリィさんは、国王陛下からの労いの言葉と共に一振の剣を授与された。
私は一番最後に表彰される事になっていた。
特別な理由があっての事ではなく、直接的に敵と戦っての功績ではないからなんだとか。
なので、私が表彰されるのは特別功労賞。
既に死んでしまっていた者は仕方無いとして、多くの兵士の命を救った事に対する功績を賞するとの事。
私が国王陛下から功績を讃えられると、貴族全員が立ち上がってのスタンディング・オベーション。
何故…?
すっげえ恥ずかしいんですけど…
止めいっ!
これ、絶対に私の顔は真っ赤になってる筈だ。
表彰式の後、会場にテーブルが運び込まれてパーティーに突入したのだった。
「いやぁ~。エリカ殿の活躍で、我が軍の死傷者は0ですぞ!」
「私の軍もです! いや、助かりました!」
立食形式──とは言え、食べ物よりも酒やジュース等がメイン──なので、貴族達が気軽に話し掛けて来る。
なので、私も気軽に対応する。
「それは良かったです♪ でも、ブルトニア軍には多少の死者が出てしまった様ですが…」
さすがに死者を蘇らせるのは無理──不可能ではないが、魂が無いので生ける屍になってしまう──なので、先に戦っていたブルトニア軍には幾ばくかの犠牲者が出ている。
だが、それは仕方無い事として諦めるしかない。
それでも犠牲者を最小限に抑えた上、ハングリル王国の侵略を阻止した事で、ブルトニア国王は満足しているらしい。
「それは仕方ありますまい。エリカ殿やミラーナ様の援軍が到着するまでは、彼等だけで戦わなくてはならなかったのですからな」
「その後の活躍は聞いておりますぞ。何百人と居た負傷兵達を、全員完治させたそうですな。さすがはエリカ殿だと、皆が感心しておりました」
こんなに褒められると、全身がこそばゆくなるな…
私としては、魔法医として当然の事をしただけなのに…
「エリカちゃん、すっかり貴族連中とも打ち解けてるみたいじゃないか。キャサリン達から聞いた話だと、前回は貴族連中の挨拶攻めに緊張しまくってたそうだけど♪」
表彰式→パーティーの流れから、ミラーナさんもドレス姿だ。
ブランデーのボトルを片手に持ってるのが、せっかくのドレス姿を台無しにしてるんだけど…
「そりゃ、初めての経験でしたからね。緊張するなって言う方が無理でしょ?」
「ま、そりゃそうだな♡」
楽しそうな笑顔になるミラーナさん。
「これはミラーナ様。ミラーナ様の御活躍も素晴らしかったですな♪」
「さすがでしたな。それに、ミラーナ様と御一緒だった2人… ミリア殿とモーリィ殿でしたかな? 彼女達の活躍も見事でしたな」
ミラーナさんは、グイッとブランデーをラッパ飲みし…
…って、おいおい…
「だろ? 2人はCランクハンターなんだけど、昇格試験を受けてないだけで実力は軽くAランク超えなんだ。貴殿等、エリカちゃんだけじゃなくて、彼女達とも誼を通じておいた方が良いんじゃないか?」
言いつつ、2人だけで飲んでるミリアさんとモーリィさんをチラッと見る。
貴族達は慌てて2人の元に向かう。
こりゃ、挨拶攻めで緊張するだろうな。
「それにしてもエリカちゃん、飲んでるのってワインだろ? 連中、何も言わなかったのかい?」
「それなら大丈夫ですよ。前回のパーティーで、私がミラーナさんより歳上だって言っちゃいましたから♪」
前回、フェルナンド様から求婚(?)された時、年齢と不老不死の事をバラしてるから、貴族達は私が成人している事を知っている。
もっとも、ワインのアルコール度数はエールより高いので、適度にチビチビ飲んでるだけだけど。
「確かに、年齢を知ってりゃ何も言わないか。でも、不老不死については何も聞かれなかったのかい? アタシは上手く誤魔化しといたけど…」
(その話、詳しく… ちなみにミリアさんとモーリィさんには…?)
私は周りに聞かれない様、声を落とす。
設定に差異があると、私が魔法で施した事がバレないとも限らないからな…
出来れば全員、同じ設定が望ましい。
(2人には、王都に来る馬車の中でコッソリと… アタシ達には問題無いけど、他の連中には無理な設定にしてある)
私の意図を察し、ミラーナさんも声を落とす。
ニュールンブリンクの大森林。
その中央には多少大きな沼が在る。
その畔で休憩中、濃霧が発生した。
辺りを警戒していると、沼の方から気配が近付いて来る。
振り向くと、そこには淡い光を放つ女性の姿が。
一つだけ願いを叶えてくれると言うので、永遠にハンターを続けたいから不老不死にして欲しいと願った。
すると自身の身体が温かい光に包まれ、これで不老不死になったと告げられた。
後日、同じ願いを持つ2人を連れて行き、数日待つと光る女性が現れたので、同じ様に不老不死にして貰った。
確かに、ミラーナさん達以外には無理な設定だな。
魔物や魔獣が跋扈し、危険極まりないニュールンブリンクの大森林中央部。
沼が在るのは本当なんだろうが、行けば必ず願いを叶えてくれる女性が現れるワケでもない。
そんな恐ろしい場所で女性が現れるまで滞在するなんて、誰も考えないだろう。
ミラーナさん達だからこそ可能な設定だ。
てか、私も同じ設定になるのか?
とても8~10歳の子供が行ける場所じゃないと思うんだけど…
(両親と一緒に行った事にすれば良いんじゃないか? どっちも死んじまって居ないんだろ? 不老不死になれば、1人でも生きて大森林を脱出するのも難しくないだろうし)
(まぁ、確かにそうでしょうけど… その場合、両親を生き返らせて欲しいって願いませんか? 死んだ両親を無視して自身を不老不死にして欲しいなんて、かなり薄情だと思いますけど…)
(それが不可能な状況なら? 例えば両親は魔物か魔獣に食われちゃったとか…)
なるほど…
それなら自身の事しか考えなくても不思議じゃないか。
(解りました。私はその設定にしておきます。それにしても、よく考えましたね… 普段、何も考えてないみたいなのに…)
「ど~ゆ~意味だよ!」
すぱぁああああああんっ!!!!
「あ痛っ!」
私の脳天にハリセンの一撃!
何処に持ってた!?
音に驚いて振り向いた貴族達の目に写るのは、床に倒れ伏す私の姿。
私の意識は徐々に薄れ、ミラーナさんの小脇に抱えられて医務室に運ばれた… らしい…
余計な事、言わなきゃ良かったよ…




