第7話 どうしてこうなった!?
泊めさせて貰った部屋は、ギルドの中で一番端っこの部屋である。
ここなら治療所として使っても、他の部屋に出入りする人の邪魔にならないだろう。
夕方からの開業を目指して部屋の中のベッドや机の位置を変える。
ミリアさんに頼んで患者さん用の椅子も用意して貰った。
更に部屋の前には記帳に丁度良い高さの台に紙とペン、インクを置いておく。
「治療が必要な人は、この紙に名前を書いておいて下さいね。16時から治療所を開業します。名前を書かれた順に治療していきますから。ただし、急を要する人は順番を入れ替えますのでご了承下さい。なお、治療時間は20時までの予定とし、受け付け終了は19時半です」
執務室での手続きを終えて、この街の魔法医に成れたワケだが…
以前ミリアさんから聞いた様に、この街に魔法医は居ない。
魔法医は殆どが王都に集まってるらしい。
王都以外では大規模な街ばかりに集中している。
実力のある魔法医は、王族や貴族のお抱え魔法医として高給を貰ってるんだとか。
それ以外の魔法医は、ちょっとした切り傷や擦り傷等の軽傷・軽症は放置し、骨折等の重傷・重症患者を法外な治療費で治して暴利を貪ってるんだそうだ。
ハッキリ言ってムカついた。
お前ら、何の為に魔法医になったんだよ!
怪我人や病人を治す為だろうが!
そりゃ魔法医だって生活があるから金は必要だよ!?
医者──魔法医──も一種の商売だよ!
だけど金儲けを第一にするのは間違いだろう!
第一に考えないといけないのは患者の事だろっ!
私の考えを商売で言えば薄利多売。
安い治療費で多くの人の病気や怪我をガンガン治す!
だから、どんな病気でも怪我でも、治療費は銀貨1枚に設定した。
そして開業の16時。
どうしてこうなった!?
とにかく忙しい!
次から次へと患者が来る。
この街『ロザミア』は、別名『ハンターの街』と言われる程にハンターが多い。
街の住人の半数以上がハンターという街だ。
ハンターが多いという事は、必然的に怪我人も多い。
それにしても多過ぎる!
16時から20時までの4時間で治療したのは120人ちょっと。
2分弱で1人の計算だ。
さすがに疲れてグッタリしてるところにギルドマスターとミリアさんがやって来た。
「ご苦労さんだったな、エリカちゃん」
「お疲れ様、エリカちゃん」
いくらハンターの街って言っても、こんなに怪我人が多いのは不思議だ。
全員が全員、危険な依頼をこなしてるワケでも無いだろうに…
「まぁ、古傷を治して欲しい連中も多いだろうし、初日はこんなモンだろうさ」
「今まで満足な治療を受けられなかったハンターも多いから仕方無いわよ」
なるほど、確かにそれはあるかも。
それなら今日の半日で大勢の怪我を治したから、明日からは患者も減るかな?
なら、明日に備えて今夜は早く寝るか。
ギルドの食堂で夕食を取り、シャワーを浴びてベッドに潜り込む。
明日から開業は9時~13時が朝の部、16時~20時が夜の部だ。
各4時間で計8時間労働。
患者の数が多ければ多少は延長するが、それは想定内。
ちなみに休日は毎月5の付く日に設定した。
つまり、毎月5日、15日、25日が休診日だな。
この世界、地球と同じ様に曜日があるんだよ。
で、大概の場合は地球で言う日曜日が休み。
ハンターに曜日の感覚は無いけれど、普通の商店なんかは日曜日を休みにしてる。
日曜日にしか治療に来られない人の為に、治療所の休みは曜日に関係無い様にしておいた。
たま~に日曜日と5の付く日が重なるけど、こればかりは仕方無いだろう。
それはともかくとして、この世界で『日曜日』なんて言葉は無いんだろうけど、あらゆる言葉が日本語に聞こえる私には『○曜日』としか表現出来ないんだよね。
不思議な事に、この世界でも1日の時間は24時間。
1週間は7日だから驚きだ。
もしかしたら1日を24時間に分ける事や、1週間を7日に分ける事は宇宙の摂理なのかも。
知らんけど…
とにかく2日目からは多少なりとも患者が減るかと思ってたんだが…
あんまり変わらなかった。
結局2日目の患者は全部で200人ちょっと。
2分に1人の感じで治療を行う。
確かに儲かる。
だけど疲れる。
まず部屋の外に出て患者を呼ぶ。
一緒に中へ入ったら、病気ならどんな症状なのか、怪我なら何処を怪我したのかを聞き、治療を施す。
患者が退室するのに合わせて一緒に部屋を出て、次の患者を呼ぶ。
ひたすらこれの繰り返し。
200人からの患者を治療するから儲けは金貨にして2枚になる。
治療費は、どんな病気でも怪我でも銀貨1枚。
200人の治療費=銀貨200枚=金貨2枚。
金貨1枚の価値は日本円にして10万円。
今のペースなら毎日20万円を稼ぐ事になる。
1ヶ月が30日で、休みは3日。
実質労働27日。
今のペースなら単純計算で毎月金貨54枚、日本円にして540万円を稼ぐ事になる。
いや、忙しいけど贅沢過ぎるだろ!
毎月540万円稼ぐって、どんなセレブだよ!
年収6500万円だぞ!?
まぁ、使う暇も無い気がするけど。
そんな感じで毎日グッタリしてると、ギルドマスターがハンター達に叫んだ。
「お前らぁ! エリカちゃんに治療して欲しいからってワザと怪我してんじゃねぇだろうなぁ!」
ん?
どういう事だ?
疑問に思っていると、ハンターの1人が申し訳け無さそうに話す。
「いやぁ、エリカちゃん可愛いからなぁ。なんか治療して欲しくなっちまって、ついつい怪我を作っちまうんだよ…」
それを聞いたギルドマスターは
「バカ野郎! そんな事して致命傷でも負ったらどうする! 今後、ワザと怪我した事が判明したヤツはハンター登録抹消するからな! 覚えとけよ!」
ギルドマスターの恫喝(?)が効いたのか、翌日から患者の数は半分程に減って、私は少しだけ治療に忙殺される日々から解放されたのだった。