第77話 王都までに、新たな事実が発覚しましたか?
「王都に行く事になった」
唐突にミラーナさんが言う。
「えっ? まだ社交シーズンじゃないですよね?」
年始の社交シーズンは、ブルトニア王国への援軍に行ってたので王都へは行けなかった。
と言うより、イルモア王国の貴族は殆どが援軍として出陣していたので、社交会自体が中止となったのだ。
なので、次の社交シーズンまでは3ヶ月近くあるのだが…
「いや、国王から手紙が来てさ、今回の戦争で功績のあった者を表彰するらしいんだよ。で、5月までに王都に行かなくちゃならないんだ」
なるほど…
次の社交シーズンは7月。
あまり遅いと、領地の遠い貴族なんかは表彰されてから社交シーズンが終わるまで、領地に戻る事も出来ない可能性が高いからな。
ただ表彰されて終わりって事も無いだろう。
表彰式の後、何日かパーティーが催される可能性は高い。
いや、間違い無く催されるだろうな。
私に会いたいだけでマインバーグ伯爵を迎えに寄越し、貴族を勢揃いさせたパーティーまで開催した一家なのだ。
更には平民に過ぎない私を王宮に宿泊させ、風呂まで一緒に…
さすがに国王陛下は一緒じゃなかったけど…
それを考えると5月の表彰式は、貴族が一旦領地に戻れるギリギリの時期なんだろう。
「大変ですね。表彰式に出席してロザミアに戻り、また社交シーズンで王都に行かなくちゃいけないんですから」
「でも、ミラーナさんなら大丈夫だと思うわよ? 鍛え方が違うって言うか…」
「だよねぇ。私も体力には自信あったんだけどさ、一緒に動いててバテちゃうもん。ミラーナさんは息一つ乱れてないのにさ~」
まぁ、ミラーナさんはバ○モノだからな…
「エリカちゃん、何か変な事…」
「考えてません」
心を読むな、心を。
「…まぁ、いいや。言うの忘れてたけど、表彰式に呼ばれてるのはアタシだけじゃないよ? 呼ばれてるのはアタシ達4人だから」
「「「へっ?」」」
「だからさ、呼ばれてるのはアタシ、ミリアさん、モーリィさん、エリカちゃんの4人だから」
…………………………
マジかよ…
いや、ミリアさんとモーリィさんは解るよ?
戦場で敵兵と戦って…
敵兵を斬りまくって…
勝利に貢献したんだから。
なんで私まで?
私、活躍してないじゃん。
飽くまでも後方支援、治療してただけじゃん。
「ミリアさんとモーリィさんの活躍は勿論だけど、エリカちゃんの功績も評価されてるんだよ。死んじまった兵士は仕方無いとして、殆ど死にかけてる兵士を救ったり、確実に後遺症が残る筈の怪我を完治させたんだからね。ブルトニア王国の国王から礼状が届いたんだってさ」
そっちか…
私としては、魔法医として当然の事をしただけなのに…
「エリカさん、さすがです! 私だと死にかけてる人を救うとか、後遺症が残らない様に治すなんて、出来なかったかも知れません!」
頼むから恍惚とした表情は止めてくれ…
でもまぁ、仕方無いか…
覚悟を決めて、王都に行くしかないな…
何の覚悟かは聞かないで下さい…
────────────────
私達は今、王都に向けて移動中である。
アリアさんには悪いが、また2ヶ月程お留守番して貰う事になった。
ミラーナさんから話を聞いた3日後、毎度お馴染みマインバーグ伯爵が迎えに来たのだ。
…来るの早過ぎだろ…
途中の街で私に似合うからと、ミリアさんに新しいドレス──薄いブルー、沢山のフリル、腰に巨大なリボン、ロング・グローブ付き──を強引に買わされた。
これ、マジで私が着るんかい…
『これ、絶対エリカちゃんに似合うから!』
と言っていたミリアさんの目が血走ってたのが怖かった…
何故か息も荒かったし…
変な趣味、持ってないだろうな…
それはともかく…
「マインバーグ伯爵様も毎回大変ですね、色々と忙しいんじゃありませんか?」
「うむ。確かに大変と言えば大変なのであるが、こうしてエリカ殿と一緒に旅をする楽しみもある。一概に大変なだけというワケでもないのだ。エリカ殿がどう思っておられるかは分からぬが、私としては娘と一緒に旅をしている様で楽しくもあるのだよ」
そう言って貰えるのは嬉しいけど、確かマインバーグ伯爵って40歳前後だよなぁ…
実年齢が26歳の私としては、ちょっと歳の離れた兄貴って感じなんだよ。
言えんけど…
「失礼ですけど伯爵様、お子様は…?」
「うむ、息子が3人でな。1人くらいは娘が欲しかったのだが、こればかりは運であろう」
だよなぁ…
前世でも男女の産み分け方法は解明されてなかったし、医学の発展していない世界じゃ尚更か…
「なので長男をミラーナ様の婚約者候補にしたのだが、見事に叩きのめされおったわ。はっはっはっ!」
ちょっと待て、おっさん。
いくらなんでもミラーナさんを義理の娘にしようなんて無謀だろ。
て言うか、ミラーナさんがブッ飛ばした婚約者候補の1人がアンタの息子だったんかい。
「…クシュッ!」
「ミラーナさん、風邪ですか?」
「なら、エリカちゃんに治して貰えば良いじゃん。便利だよね~、同居人が魔法医だと♪」
こちらはミラーナ達3人が乗る馬車。
6人乗り仕様に3人なので、ゆったりとした車内である。
本来なら護衛も同乗するのだが、ミラーナの『アタシ達に護衛が要ると思うかい?』の一言に誰もが納得。
広々とした車内で会話を楽しんでいた。
「いや… 風邪じゃなくて、誰かが噂してんだろ。多分、エリカちゃんとマインバーグ伯爵がアタシを話のネタにしてんだろうな」
「「話のネタ?」」
2人の声がハモる。
「あぁ、エリカちゃんとマインバーグ伯爵の共通する話題なら、アタシかアタシの家族だろうからね。どんな話をしてるかまでは分からないけど」
そんな事を話している内に、馬車は最後の宿場町に到着したのだった。
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「いよいよ明日は王都ですね♪ 何年振りかなぁ?」
私達は宿にチェックインし、丁度良い時間という事で夕食を摂りながら会話中。
「5年… いや、6年振り? 確か、周りが『Bランクに上がれ』って煩かったから逃げて来たんだったかな?」
「そんな事もあったわねぇ。そしたら王都で臨時パーティーを組んだ若い女性剣士に『そんなにBランクに上がるのが嫌なら、ハンターを辞めて他の職に就けば良い。ハンター以外の職に就いてる人に、Bランクハンターに昇格しろなんて言うヤツは居ないだろ』ってアドバイスして貰ったんだっけ」
「あ~、思い出した! それで『それは良いかも!』って思って、ハンターを辞めてギルドに就職したんだっけ」
確かに、ハンターを辞めた人間にBランクハンターに昇格しろなんて言えないよなぁ…
中には言うヤツも居るだろうけど、そんな時は『私はハンターを辞めましたから』とでも言えば良いだけの話だ。
「ほぅ。ミラーナ様とパーティーを組んでいるからには相当の実力者だとは思っておったが、貴殿達はBランク以上の実力を持っているとの認識で宜しいのであるかな?」
さすがに武闘派のマインバーグ伯爵。
このテの話には乗って来る。
「それはアタシが保証するよ。むしろ2人の実力はAランクを軽く超えてるだろうな。アタシは面倒だからSランク昇格試験を受けないだけなんだけど… ハッキリ言うけど、アタシ達3人はSランク昇格試験を余裕でクリア出来るよ」
うんうん、バケ○ノのミラーナさんが言うなら間違い無いな。
「エリカちゃん、今…」
「何も思ってませんよ?」
人の心を読むなっつ~の!
「だけど、ミリアさんの話に出て来た若い女性剣士って… まさかと思いますけど…」
私の言葉に、全員の視線がミラーナさんに向けられる。
なんかねぇ?
5~6年前って事は、ミラーナさんは12~13歳。
ハンター登録は10歳から可能。
偽名を使ってコッソリとハンター登録していた可能性も…
「…ミリアさんとモーリィさんにアドバイスした若い女性剣士って… アタシだろうな… そんな事、言った覚えがあるよ… てか、5~6年も前に知り合ってたんだな… あの頃は身分を隠してハンター活動するのに夢中だったから…」
「ミラーナ様… 10歳になられた頃から時折行方不明になっておられたのは…」
マインバーグ伯爵が呆れた様にミラーナさんを見る。
ミリアさんとモーリィさんは、目を点にしている。
私は勿論、ミラーナさんをジト目で見ている。
「いや! 仕方無いだろ!? そもそも物心が付いた頃からアタシの夢はハンターになる事だったんだからさ! だから相談されたらアドバイスする事だってあるだろ!? 2人からすりゃ歳下だけど、臨時とは言えパーティー組んでりゃ仲間としてだな、そのぉ…」
マインバーグ伯爵は手でミラーナさんを制し…
「ミラーナ様の言いたい事は解ります。私もミラーナ様の立場で同様の夢を持っていたなら、その様に動いていたでしょうな。ただ… 私なら両親を… ミラーナ様なら国王陛下と王妃陛下ですが、説得致しますな。最初は勿論、納得して貰えますまい。しかし、根気よく何度も何度も説得していた事でしょう」
さすがのミラーナさんも、マインバーグ伯爵の言葉を黙って聞いている。
「どうしても納得して貰えないならば、命を掛けるだけですな。脅しになりますが… 『ハンターになる事を認めて貰えないなら死んでやる!』とでも言えば良いのでは? ミラーナ様なら言いそうですしな♪ はっはっはっ!」
「ちょっと待て、マインバーグ伯爵! いくらなんでもアタシはそんな事… 言わないとは言えないけど、さすがに国王に対して『死んでやる!』とは言えない… いや、言うかも知れないけど… だけど… その…」
父親を脅さない自信が無いのか、グダグダなミラーナさん。
「まぁ、ミラーナさんの事だから、強引にと言うか事後承諾でハンターになってそうですけどねぇ?」
「あぁ、確かに可能性は高いかも知れないわねぇ」
「そうそう。取り返しの付かない状態にしてから報告しそう♪」
「うむ。私も同感であるな」
私の意見に、誰もが納得していた。
「なんだよ、それぇ! 皆、ど~ゆ~目でアタシを見てんだよ! こうなったら、この辺り魔物を憂さ晴らしで全滅させてやる~っ!」
「ハンター達の稼ぎを奪うんじゃないっ!」
ずばぁああああああああんっ!!!!
ミラーナ仕様ハリセンが、ミラーナさんの顔面にクリーン・ヒット!
まさに改心の一撃!
たった一発で失神したミラーナさんを引き摺り、私は部屋へと向かう。
「いよいよ明日は王都ですから、皆さん早く寝ましょうね~♡」
「「「はぁ~い………」」」
何故かマインバーグ伯爵も一緒に返事したのだった。
…マインバーグ伯爵…
私に対して変な感情、抱いてないよね?




