第75話 戦争終結♪ ロザミアへ帰ろう♪
朝になり、私達は敵将校を入れてある牢に向かう。
敵将校を連れて行く兵達には先に食事を摂らせてある。
この後、イルモア・ブルトニア連合国将校達とハングリル軍将校達との会食を行う事になっている。
その会食の場で周囲を警戒する為だ。
敵は確かに殲滅させた。
だが、油断は禁物。
見逃した敵兵が居ないとも限らず、将校奪還を阻止する為だ。
そして牢に到着した私は眠ったままの敵将校を覚醒させる。
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私達は敵将校と共に会食の部屋へと入る。
もっとも、戦場の司令部に設けられた場なので簡素な場だ。
そこにハングリル軍将校のルーデンス伯爵が待っていた。
「ルーデンス伯爵! 無事であったか!」
「貴殿の軍が壊滅したと聞いた時は、貴殿も無事ではないと覚悟したが… 生きていたか!」
「良かった… 生きていてくれて… 本当に…」
感動の再開ってトコかな?
「ルーデンス伯爵… 殺されたと思っていた貴殿が生きていてくれて、本当に嬉しく思う。国王陛下は降伏を選択するであろうし、これからの我等がどうなるかは不明だが、生きているだけでも良しとしよう」
うんうん、死んだら終わりだからね。
生きてさえいれば、やり直しは可能だよ?
「まぁ、なんとか生きておりますな。もっとも、5回死にかけましたが…」
ちょっと待てコラ。
確かに私は5回焼死させかけたよ?
でも、その前にミラーナさんにも殺されかけてるだろが。
合計したら6回だろ。
ミラーナさんの1回はカウントしてないのか?
そう言って問い詰めたのだが…
明らかに失敗だった。
全ての敵将校の私を見る目が、まるで死神か悪魔を見る目に変わったのだった。
私達イルモア・ブルトニア連合軍将校とハングリル軍将校達は、会食の席に交互に座って食事をしつつ会話を楽しんでいる。
私の両隣に座る敵将校達の妙な緊張感が気になるが、会食自体は円満に進んで敵将校達の捕虜としての安全も保証された。
ちなみに彼等の身柄はイルモア王国の王宮が預かる事になった。
ブルトニア王国の王宮で預かる事も検討されたのだが、遥かに遠いイルモア王国の王宮で預かった方が、ハングリル王国からの捕虜奪還を阻止するのに都合が良いとの判断だった。
そして数日後、ハングリル王国から降伏の申し入れがブルトニア王国の王宮に届いたのだった。
完勝・圧勝と言って良い結果だった。
連合軍の被害は数十名の戦死。
さすがの私でも死んだ人を生き返らせる事は出来ないが、私の元に運ばれた時点で死んでさえいなければ、例え虫の息でも死なずに済む。
腕や脚が切断されていても、回収してさえいれば接合してやる。
さすがに失った部位を再生させるのは不可能… ではない。
なにしろどんな魔法でも使えるんだから。
しかし、それをやってしまっては収拾が付かなくなるのは明白なので、敢えて不可能って事にしている。
なので、斬られた腕や脚を回収出来なかった負傷兵以外は、全員完治させているのだ。
対して敵軍の被害はと言うと、30万人以上は居たであろう大軍が壊滅。
生き残ったのは18名の将校と、何とか戦場から離脱した十数名の兵士のみ。
しかも、殆どの敵兵を始末したのはミラーナさん達3人が率いる軍。
イルモア・ブルトニア連合軍の総数が25万人弱だった事を考えると、如何にミラーナさん達3人の戦闘&指揮能力が人知を超えていたかは理解して貰えるだろう。
ドラゴン百体を相手にした方がマシだとしか思えないな。
「エリカちゃん… アタシ達の事、バケモノだとか思ってないよね?」
「………思ってません」
「一瞬、間が空いた気がするんだけど…」
「気のせいです」
苦笑する敵将校達。
いや、アンタ達も思ってるよね?
ミラーナさん達の事をバケモノだって。
だって、25万人は軍と軍とのぶつかり合いで倒したんだけど、残りの5万人近くは3人だけで斬り倒してるんだぜ?
しかも、その半数以上は間違い無くミラーナさん1人だし…
バケモノ以外の何だってんだよ…
「まぁ、確かにミラーナさん達の活躍は賞賛に値しますね。それは対峙したハングリル軍将校の皆さんも実感してるでしょうし」
私の言葉に頷くハングリル軍将校達。
「今となっては遅いのだが、シュルンマック侯爵が言っていたのも頷ける。我々は貴殿達の力量を見誤っていたのだと… いや、そんな程度ではないな。明らかに間違っていたのだ。もっと彼の言葉に耳を傾けるべきであった。そうすれば、ここまでの被害を被る事も無かったであろう」
だな。
ルーデンス伯爵の軍が壊滅した時点で気付いていれば…
それで戦争が終わったとして、双方が納得するかは別問題だけど。
結果的には軍と軍との戦闘に因る決着なので、双方共に納得している様だ。
ハングリル国王が納得するかは分からんが…
まぁ、納得せざるを得ないだろうけど。
どの程度の防衛戦力を残してるのかは不明だが、今回の戦力を上回る事は無いだろう。
ならば、ハングリル国王の選択は降伏の一択しか無い。
私達と敵将校達の意見は一致し、イルモア・ブルトニア連合国からは降伏勧告、ハングリル軍将校達からは降伏を受け入れる旨の要請を行う事になった。
こうしてブルトニア王国とハングリル国王との戦争は、一応の終息となった。
「でも、これからハングリル王国は混乱するでしょうね?」
「だよなぁ… 30万もの兵士を失ったんだから、国王の責任は重大だろうし… 退位させられる可能性は否定できないかな?」
私の質問にミラーナさんが答える。
私達は後始末をマインバーグ伯爵達に任せ、ロザミアへの帰路に着いていた。
今は途中の宿場町で食事休憩である。
「退位となると、どうなるんですか? 現国王の兄弟とか親戚とかが代わりに王位に就くとかですか?」
「それで国民が納得すれば、だろうけどね~。下手したらクーデターが起きるかもよ?」
ミリアさんの言う通りになるとすれば、モーリィさんの言う様な事が起こるかも知れない。
まぁ、楽勝と思っていた戦争で盛大に負けたんだからなぁ…
盛大と言うより、完膚無きまでにと言うべきか…
戦争を決めた国王の責任は間違い無く重大。
敗戦国として、戦勝国であるブルトニアへの賠償問題もあるので、国が疲弊するのも避けられない。
その辺は両国間での話し合いなので、イルモア王国には関係無い。
ブルトニア王国からイルモア王国への礼金等の問題もあるだろうが、それはハングリル王国からの賠償金を充てれば良いので問題とは言えないかも知れないな。
そんな事を話しつつ、私達は食事休憩を終える。
さぁ、ロザミアに帰るぞ!




