第74話 殲滅戦開始、リミッター解除!
マインバーグ伯爵の軍が到着してから数日。
相変わらずミラーナさん達3人は、敵の司令部を襲う様に見せ掛ける──敵が陽動だと思って相手にしなければマジで襲う──作戦を続けていた。
そんな中、やっとイルモア王国からの援軍が揃ったのである。
「これでケリが付きますね。ミラーナさん、やっと本気で暴れられるんじゃないですか?」
「エリカちゃん、気付いてたのかい? アタシが遊んでただけって」
そりゃ気付くよ。
初日にルーデンス伯爵の軍を壊滅させたのは誰だよ。
それが現在、敵軍団は1つも壊滅していないんだから。
遊んでいるのは明らか。
「でもまぁ、やり過ぎないで下さいよ? 敵の将校… 多分爵位持ちでしょうけど、彼等まで殺さない様にして欲しいですね」
「それは心得てる。戦後の交渉相手は敵の王族や貴族だからな。交渉に使う連中を殺すワケにはいかないよ」
思ったより冷静な様で安心だな。
これなら、これから始まる作戦会議でも変な事は言い出さないだろう。
「敵の将校を捕えるのは我々の仕事ですかな? ラクな仕事になりそうですな」
笑顔で話に入って来るマインバーグ伯爵。
しかし、最終決戦に向けて緊張している様子が伺える。
「私達は気楽なモンですけどね♪ ただ暴れるだけですし♪」
うん、ミリアさんは暴れるだけで良いと思うよ?
「だよねぇ♪ それでも、今日が決戦かもって思うとねぇ。緊張するなって言う方が無理ってモンだよねぇ♪」
モーリィさん…
アンタ、緊張感の欠片も無い様な口調なんですけど?
…まぁ、緊張を隠そうとしての軽口なのかも知れないけど…
「ま、今日の戦闘でケリが着くかは皆さんの働き次第って感じですか? この数日のミラーナさん達は手加減してたみたいですから、かなりフラストレーションも溜まってるでしょうね。作戦会議での方針次第ですが、気が済むまでストレス発散して下さい。ただし… さっきも言いましたが、敵の将校だけは殺さない様に気を付けて下さいね?」
これだけは念を押さないとな。
特にミラーナさんがキレたら最後、敵だろうが味方だろうが、視界に入った人間は誰彼構わずぶった斬る可能性は否定出来ない。
「エリカちゃん… なんかアタシが物騒な事仕出かすとか考えてないか?」
「それはミラーナさんの心に抑止力が芽生えたって事じゃありませんか?」
読心術を使ってるかは定かではないが、私の心を読んでるかの様なミラーナさんに対し、軽く誤魔化しておく。
それはともかく、私達は最後かも知れない作戦会議に赴くのであった。
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今日も悪夢の様な1日が始まるのか…
ハングリル王国軍の最高司令官であるシュルンマック侯爵は、憂鬱な気分で目を覚ました。
敵は手を抜いている
シュルンマック侯爵の考えだが、他の将校には受け入れて貰えなかった。
現状は一進一退。
と言うより、敵は此方の戦力を削ぐのに懸命な様子に見える。
一部とは言え、援軍が来ても攻勢に転じる様子は無い。
全ての援軍が揃っても、戦線を維持するのがやっとなのだろう。
司令部を攻撃しようとする部隊も在ったが、此方が迎撃に向かえばサッサと逃げて行く。
日数は掛かるかも知れないが、自分達の勝利は疑い様が無い。
それがシュルンマック侯爵以外の将校達の考えだった。
(バカ共め! 楽観的に過ぎるわ! 敵は此方を壊滅させようと思えば何時でも壊滅させられるのを、敢えて先延ばしにしているのだ! そんな事も解らないのか!)
だが、シュルンマック侯爵は何も言わない。
彼は会議の冒頭で宣言していた。
「私の軍は壊滅したので撤退する。私1人が残ったとて、何の役にも立つまい。本日の会議が終わり次第、王都へと帰還する」
なので、わざわざ発言する必要も無い。
ましてや敵の実力さえも認めようとしない愚か者に対し、説得するなど無駄な行為でしかない。
自身の身を以て体験させ、教訓とするしかないのだ。
そしてそれは、間も無く実現する事になる。
シュルンマック侯爵にとって何の意味も無い作戦会議は終わり、彼は王都へと帰還するのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
殲滅戦。
そう言うしか表現出来ない戦闘が行われていた。
ミラーナの戦いは、リミッターを外しているとしか思えない。
誰も彼女の動きを捕捉できないのだ。
正面からミラーナが来るのを認識し、兵士達は迎撃体制を取る。
次の瞬間、何故か後ろから現れたミラーナが兵士達の首を斬り飛ばしている。
慌てて振り向くが、既にミラーナの姿は無い。
振り向いた後ろから兵士達の断末魔の叫びが聞こえる。
気付けば戦場に立っているのは自分1人だけである。
「あ… 悪魔め!」
ヤケクソでミラーナに斬り掛かるが、直後に意識が暗転する。
殺してはいない。
ただ、気絶させただけである。
そしてまた1つ、ハングリル軍の部隊が壊滅した。
自分は悪夢を見ているのだ。
そう思わなければ、どう思えと言うのか?
たった1人に300人近い自軍が壊滅させられそうなのである。
いや、壊滅は間違い無いのだ。
ミラーナには及ばないものの、ミリアもハングリル軍の兵士には反応不可能な早さで動いていた。
ミリアの姿を認識した時が死の瞬間だった。
モーリィは遊んでいた。
やはりミラーナには及ばないものの、ミリアと同等の早さでハングリル兵を斬りまくる。
彼女の性格なのか、楽し気に喋りながらである。
「違うでしょ~♪ そっちじゃなくてこっちだよ~♪ あら残念♪ こっちでした~♪ と、見せ掛けて~… こっちだったりして~♪」
とても戦闘中とは思えない陽気さである。
だが、その事が余計にハングリル兵士に怒りの感情を沸き上がらせ、冷静さを失わせていた。
そしてそれは混乱を招き、軍を壊滅へと導いていた。
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私はノンビリと治療している。
やって来る兵士達は軽傷の者しか居ない。
中にはロザミアから来ているハンターも居り、日常に戻った気分になる。
ミラーナさん達が暴れまくっているので、誰も無理していない様だ。
時折、ハングリル軍の将校が運ばれて来る。
こちらは抵抗力を奪う為か、それとも恐怖を与える為か、重傷者ばかり。
意識の無い将校達の口からは『悪魔』とか『死神』といった単語が譫言に出てくる。
…どんな暴れ方してんだよ…
敵将校達の怪我は治療するが、意識は戻さないで牢に入れておく。
後で一斉に覚醒させるのだ。
いちいち相手なんかしてられないからな。
夕刻になり、意気揚々と引き揚げて来るミラーナさん達。
新たに数名の気絶した将校が引き摺られていた。
「殲滅してやったよ♪ まぁ、何人かは取り逃がしたけど、その程度は想定の範囲内だね♪ 今頃、ハングリル王国の王都に向かってるだろ。逃げた連中の報告を聞いたハングリル国王の反応が見れないのは残念だけど、すぐに降伏を申し入れて来るだろうな♪」
「敵兵の困惑振り、エリカちゃんにも見せたかったわ♡」
いや、♡ぢゃないから…
「ストレス溜まってたからねぇ♪ 暴れられてスッキリしたな~♪」
楽しそうに言うなよ…
アンタ達に殺された連中が浮かばれんわ…
「とにかく、お疲れ様でした♪ そろそろ帰る頃だと思ったんで、食事を用意しておきました♪ 今夜はゆっくり休んで下さいね♪」
とりあえず敵は殲滅したみたいだし、これで出番は終わりかな?
私達は気分良く食事を済ませ、宿所で眠りにつくのだった。




