第6話 なんだかんだで開業です!
ギルドマスターの執務室へと案内され、中のソファーに座ってギルドマスターの質問に答えながらお茶を飲む。
淹れてくれたのは受付嬢のミリアさん。
地球の紅茶に似た感じで結構美味しい。
「銀貨1枚だって!?」
治療費の話になって、病気や怪我の度合いで金額を変えるのは面倒臭いからと思い、1回の治療費は銀貨1枚に固定すると答えた時のギルドマスターの反応がそれだった。
この世界での銀貨1枚の価値って、日本円で千円程度だったよな。
もしかして、この世界での治療費としては高かったのか?
そう思ってギルドマスターの横に座ったミリアさんをチラッと見る。
すると、ミリアさんも驚いた顔をしている。
「あの… もしかして… 高かったですか?」
恐る恐る聞いてみる。
ギルドマスターとミリアさんは、お互いに顔を見合せ…
「逆だよなぁ…?」
「逆ですよねぇ…?」
2人の話では、そもそも魔法医の存在自体が少ない上、治療に使う魔力も病気や怪我の度合いで大きく変わる。
ちょっとした風邪や切り傷程度なら使う魔力も少なくて済むので治せる人数も多いが、骨折あたりになると使う魔力も多くなる。
魔法医の持つ最大魔力容量にも依るが、せいぜい1日5人~10人の骨折を治せる程度なんだとか。
したがって、切り傷も骨折も同じ治療費で治すなんてのは、安過ぎて考えられないんだそうだ。
「普通なら骨折の治療費って、どの程度の金額なんですか?」
また2人は顔を見合せ…
「魔法医の実力、最大魔力容量にも依るが…」
「安くて小金貨2~3枚、高いと7~8枚くらいかしら?」
「最大魔力容量の少ない魔法医の方が治療費は高くなる傾向だな」
「そうですね。1日に治せる人数が少ない魔法医の方が、治療費は高いみたいですね」
ある意味、その事自体は仕方無いだろう。
少ない魔力で患者を治し、かつ自身の生活を安定させようと思えば…
必然的に料金は高くせざるを得ないか…
う~ん、私の場合は女神様に頼んで無制限で魔力を使える様にして貰ってるからなぁ…
極端な話、この街の人が全員骨折しても魔力枯渇無しで治せるんだよ。
「とりあえず、エリカちゃんの魔力がどの程度あるのか調べてみるか」
「そうですね。それから治療費の設定を考えましょう」
「エリカちゃん、少し待っててくれ」
そう言うとギルドマスターは奥の部屋へと入って行き、しばらくすると直径30cm程の水晶玉の様な物が乗った台を持って来た。
「これは魔力を調べられるオーブだ。これに手を触れてくれ」
「手を触れると魔力量に応じて光るのよ。その輝きの強さで大体の魔力量が判るの」
へぇ~、便利な物があるんだな。
感心しつつオーブに触れると、凄まじい光が部屋中に広がる。
光が収まると…
オーブは砂の様にサラサラに砕けていた。
「えっと、これって使い捨てなん… です… か?」
2人を見ると真っ青になって呆然としていた。
「あの~…」
しばらくするとギルドマスターがハッとした表情になる。
「あの~、これって使い捨て…」
「そんなワケ無いだろう!!」
ギルドマスターは汗をダラダラ流しながら叫ぶ。
ミリアさんはというと、まだ呆然としている。
「どうするんだよ、これ…」
ギルドマスターが困った様に言う。
私はサラサラの砂状になったオーブに手を向け意識を集中し…
「元のオーブに戻れ!」
と声を張る。
すると砂状のオーブを光が包み込む。
しばらくして光が収まると、元のオーブに戻っていた。
「これで大丈夫ですね♪」
私はニッコリと2人に微笑む。
「もう驚くのはやめた…」
何故かギルドマスターは何もかも諦めた様に呟く。
「私も驚くのはやめます…」
我に返ったミリアさんも同じ様に呟く。
やり過ぎたか?
でも、ギルドの人には実力を知っておいて貰わないと、後々困る事になりかねないからなぁ。
「とりあえずエリカちゃんの実力と言うか、魔力は判った。で、肝心の診療所と言うか治療所と言うか… 場所はあるのかい?」
「ありません」
私は即答する。
そりゃそうだろう。
この街に来たばかりだし、天涯孤独の身の上って設定だ。
そんな場所、あるワケが無い。
だから、予め考えていたプランを提案する。
「ですので治療院を開く場所が見付かるまで、泊めて貰った部屋を貸して貰えませんか? 勿論、借り賃は払います」
ギルドマスターは納得した表情で頷く。
よし、これで一応の治療所の場所は確保した。
魔法医としての生活のスタートだ!