第67話 友好国が宣戦布告を受けました
「夕飯が出来ましたよ~♪」
「「「は~い♪」」」
今日は私が夕飯の当番。
同居人が増えた事で、夕飯の仕度は当番制になったのだ。
「今夜の料理は何かな~?」
「楽しみですね♪ エリカさん、料理上手ですから♪」
お喋りしながらダイニングルームに入って来る3人。
「あれ? ミラーナさんは?」
いつもなら一番に駆け込んで来るんだけど…
「あぁ… 手紙が来てたみたいだから、部屋で読んでるんじゃないかな?」
手紙か…
だとしたら王都からかな?
他からミラーナさん宛に手紙が来た事は無いし…
「じゃ、私が呼んで来ます。皆さんは先に食べてて下さい」
言って私は3階へと上がる。
それにしても、食事の時間も忘れて手紙を読むとは…
何か重要な知らせなのかな?
コン コン コン
ノックするが返事が無い。
仕方が無いのでドアを開ける。
ミラーナさんはデスクに座り、一心不乱に手紙を読んでいる。
こんなに真剣なミラーナさん、初めて見たかも。
「ミラーナさん?」
「ん? あぁ、エリカちゃんか…」
「どうしたんですか? 夕飯、出来てますよ?」
「あぁ、分かった…」
いつもと比べて様子がおかしい様な…
いや、かなり変だ。
「王都で何かあったんですか? 様子が変ですよ?」
「ん… メシ食ったら話すよ…」
───────────────
「「「「戦争!?」」」」
ミラーナさん以外、4人の声がハモる。
そりゃ、驚くなと言う方が無理だろう。
よりによって戦争とは…
それはすなわちBランク以上のハンターが召集される事を意味する。
当然、Aランクハンターであるミラーナさんもだ。
まぁ、不老不死のミラーナさんが死ぬ事はないのだが…
「心配する事はないよ。イルモア王国が戦争するんじゃなくて、友好国の『ブルトニア王国』が戦争するって事なんだ」
話を要約すると、次の通り。
イルモア王国の友好国であり、隣国のブルトニア王国が宣戦布告を受けた。
ブルトニア王国はイルモア王国の南東に位置する小規模の国。
そのブルトニア王国の東に位置する中規模のハングリル王国が、突如として戦争を仕掛けたと言うのだ。
当然、ブルトニア王国は友好国であるイルモア王国に助けを求める。
イルモア王国が見捨てれば、小国であるブルトニア王国がハングリル王国に蹂躙されるのは目に見えている。
その次はどうなるか?
勢いに乗ってイルモア王国に攻め込む。
ブルトニア王国の北、ベルルーシ王国に攻め込む。
あるいは一旦戦線を維持する。
いずれにせよ、イルモア王国にとっては予断を許さない状態になる事は間違い無い。
「だとしたら、強制的にBランク以上のハンターが召集されるってワケじゃ無さそうですね。志願を募るってトコでしょうか?」
「そうなるだろうね。直接の被害を受けるってんなら話は別だけど、今回は友好国の危機に対して個々の判断での参加だろうからね」
難しい問題だな。
友好国であり隣国でもあるブルトニア王国が負ければ、次は自分達の国が狙われるかも知れない。
そう思う者は、イルモア王国を守る為にもブルトニア王国の防衛戦に参加するだろう。
もしかしたらBランクに満たない者…
Cランクハンターの中にも、参加を表明する者が居るかも知れない。
さすがにDランク以下の者は、参加表明しても戦力外通告されるかも知れないが…
隣国の戦争だからと言って、傍観するワケにもいかないのは事実。
次は自分達の国かも知れないのだ。
「ミラーナさんは行くんですね?」
確認するまでもないだろうが、一応聞いてみる。
「当然だろ? イルモア王国の第1王女としても、行くのが義務だよ♪ ま、王女じゃなくても行くけどね♪」
それでこそミラーナさんだよ♪
「なら、私も行かなくちゃですね♪ 少なくとも、死んでない兵士を完治させて戦線に送り出す事は出来ますから♪」
死んでさえいなければ、何百人でも何千人でも治してやるよ!
今、私の気力は満ち溢れている!
私の街、ロザミア。
私の国、イルモア。
守る為なら、限界なんて突破してやる!
「私も参加しますよ!」
ミリアさんが叫ぶ。
「人は斬りたくなかったんじゃないの? ま、それとこれとは別かもだけどね♪ …て事で、私も参加するね!」
モーリィさんも参加する様だ。
状況次第じゃ、私が敵を全滅させても良いんだけどね。
なにしろ、どんな魔法でも無制限に使えるんだから!
敵を一瞬で全滅させるなんて、朝飯前なんだから♪
とは思ったが、さすがにそれは自重しよう。
そんな事をしてしまっては、敵にも味方にも納得させられない。
私の魔法で一瞬にして勝った。
私の魔法で一瞬にして負けた。
それでは意味が無い事は明白だ。
それなりに戦ってからでないと、お互い納得出来ないだろうしな。
「よし! それならエリカちゃんの魔法で敵を一瞬で全滅させよう! 暴れられないのは面白くないけど、とりあえず味方に被害が無ければ良いだろ! てなワケでエリカちゃ…」
すぱぁああああああああんっ!!!!
ミラーナさんの提案に、私のハリセン・チョップが炸裂する。
「な… なんで…?」
「ミラーナさんの言いたい事は解ります。けど、そんな負け方して相手が納得しますか? 味方も同じです。そんな勝ち方、納得しますか? 相手の心を折らなきゃ、意味がありませんよ? 敵と味方、双方が納得出来る勝敗を演出するんです。ですので、ミラーナさんの提案は最終手段です。とりあえず、味方の怪我は全部私が治しますけどね。それだけでも相手にとっては脅威になりますから」
私の説明に、ミラーナさんは納得してくれた。
「待って下さい! それって、エリカさんも戦争に参加するって事ですよね!?」
アリアさんが慌てて聞いてくる。
「そうなりますね。イルモア王国が攻められないからって、友好国が攻められるのを黙って見ているだけってのも薄情ですし。何より、次はイルモア王国が攻められるかも知れないんですからね」
「だとしたら… 私1人で治療院を? 出来るとは思えませんが…」
まぁ、不安だろうな。
まだ1人で治療した事が無いんだから。
けど…
「大丈夫ですよ。まず、ロザミアのBランク以上のハンターは召集されて居なくなるか、志願して居なくなる可能性が高くなります。Cランクハンターでも、ミリアさんやモーリィさんみたいに志願する人は居ると思います。さすがにDランク以下の者は志願してもダメでしょうけど」
真剣な表情で聞くアリアさん。
「そうなると、ロザミアのハンターは半数以上が参戦して戦場に赴く事になります。となると、治療院に来る患者さんの数はどうなると思いますか?」
考えるアリアさん。
普段、治療院を訪れる患者の大半はハンターだ。
また、ロザミアは住人の半数以上がハンター。
そのハンターも、およそ半数がBランク。
残りのハンターも、更に半数はCランクなのだ。
さすがにCランクハンターの全員が志願するとは思えないが、仮に半数が志願するとしたら…
人口約3千人のロザミアから、700~800人は居なくなる計算になる。
まぁ、計算通りになるかは別問題だが…
それを考えると、普段100人前後の患者を治療しているのが70~80人程度に減る計算になる。
「それなりに減りますね… それに…」
「気付きました? Cランクだと、オーガみたいなヤバい魔物の討伐依頼は受けられないんです。オーガの討伐には、熟練ハンターが3人必要って言われてますから。ですので、オーガの討伐依頼を受けるには、Bランク以上のハンターが最低でも1人は居ないと受けられません。Cランクだけなら、5人以上のパーティーである必要があるんです。必然的に、治療の難しい怪我は減りますね」
「でも、中には無茶するハンターも居るんじゃ…」
…その可能性は否定できないな…
それなら…
「そこはミラーナさんの出番かも知れませんね。例えば『エリカちゃんが居ない間、身の丈に合わない討伐依頼を受けて怪我したハンターは、アタシがブチ殺す!』とでも言って貰えば、誰も無茶は…」
すぱぁああああああああんっ!!!!
ゴンッ!
「あ痛ぁっ!」
後頭部にハリセンの一撃を受け、勢い余って私は額をテーブルに打ち付ける。
「アタシは『ブチ殺す!』なんて、言わないけどねぇ?」
なんか、スイマセン…
なんとなくミラーナさんなら言いそうだったけど…
「同じ言うなら『命は無いと思え!』ってトコかな♪」
…似た様なモンだろ…
何が違うんだよ…
「あたた… とにかく、ハンターの皆さんは無茶しないでしょうし、他の人達も風邪とか簡単な治療だと思うんで大丈夫でしょ… 一応、王都には連絡して何人か熟練の魔法医を派遣して貰いますから、アリアさんが難しいと思う治療だけ任せたら良いと思いますよ? ま、これも修行の一環だと思って下さい」
「了解しました。でも、エリカさんも無茶しないで下さいね?」
確約は出来ないけど…
怪我した人は放っておけないからなぁ…
「まぁ、私は大丈夫でしょう。飽くまでも〝軍医〟として行動しますから、基本的に後方支援ってトコですかね? 問題なのはミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんですが…」
言いつつ私は3人をジト目で見る。
「アタシは多分、前線に参加だろうけど… アタシの動きに対抗できるヤツなんて居ないと思うけどねぇ?」
うん、アンタはバケ○ンだからね…
「私は… ミラーナさんのサポート? でも、サポートなんて要らないと思うから、ミラーナさんの近くで戦えば大丈夫かな?」
うん、ミリアさんはそれで良いだろうな。
「私もミリアと同じかな? 不老不死になったのは良いけど、やっぱり斬られたら痛いし、痛いのは嫌だからミラーナさんの近くで戦おうかな?」
モーリィさん…
アンタ、手を抜く事しか考えてないだろ…
アンタにゃ何も言いたくないよ…
そんな事を考えつつ、私達は参戦の準備を始めるのだった。




