第66話 誰でも失敗・後悔しますね
PVアクセス、累計40000件を超えました。
読んで下さってる方々に感謝です。
「じゃあ、折れた骨を接合してみて下さい。それと、ここの神経が傷付いてますから、それも修復です」
「ハイ、こうですか?」
私は時折、アリアさんに治療の実践をさせている。
やって見せるだけで無く、比較的簡単な怪我や病気に限って練習して貰うのだ。
なにしろアリアさんの知識は日に日に豊富になっている。
もう、知識だけなら私と遜色ない様に思える。
となれば、どう治せば良いかを教えれば魔法医として活躍可能と言っても良い。
いや、実際凄いのだ。
私が前世で10年掛けて覚えた知識を、ほんの数ヶ月で覚えたんだから!
これもエルフの能力なんだろうか?
それとも、アリアさんが特別なんだろうか?
「凄いですね♪ これだけ出来れば、ちょっとした怪我や病気なら任せても大丈夫だと思いますよ?」
「そんな… 私なんて、エリカさんに比べたらまだまだです…」
相変わらず謙虚だなぁ…
もっと自信を持って良いのに…
「まぁ、細かい話は昼食を食べながらでも♪ 今は治療に集中です♪」
「ハイ、分かりました!」
元気に返事をし、アリアさんは治療を続けた。
────────────────
朝の部の診療を終え、私とアリアさんは食堂街で昼食を食べながら会話する。
「お世辞で言ったんじゃないですよ? 実際、アリアさんの学習能力の高さには驚いてるんです。エルフ特有の能力なのかは判りませんけど…」
「そう言って頂けると嬉しいです♪ でも、やっぱりエリカさんの知識は凄いです。少しでも役に立てる様にと勉強してから来たんですけど、覚えてきた殆どの知識はエリカさんの知識に覆されましたから…」
それは仕方無いだろうな。
この世界の知識レベルは前世での中世ヨーロッパ程度。
私の知識は少なくとも500年は先を行ってる計算になる。
それだけ差があれば、常識だと思っていた事が覆るのは当然かも知れない。
なにしろ、関節に靭帯が在る事すら知らない人が殆どなのだ。
「でも、これだけの知識をどうやって…」
「あぁ、それは祖父母のお陰ですね♪ 祖父が医師で祖母が魔導師だったんです。2人から学んだんですよ」
架空の人物だけどね。
言えんけど…
実際には、10歳頃から医科大学を卒業するまで15年近く、一生懸命勉強してたからなんだけど。
これも言えんけど…
「凄い人達だったんですね。勿論、それを吸収するエリカさんも凄いです♪」
作り話だから申し訳無いが、努力したのは事実だから良いかな?
「大変でしたけど、好きで勉強してたから苦にはなりませんでしたね。嫌々だと身に付かなかったでしょう。魔法医になりたいって気持ちが強かったから、続けられたんだと思いますね」
これも事実。
なりたかったのは魔法医では無く普通の医者だったけど、結果オーライって感じかな?
「私も… 魔法医になりたいです。いえ、絶対になってみせます!」
「その意気ですよ♪ 私も、教えられる事は全部教えますから♪ 頑張って下さいね♡」
「ハイ!」
良い返事だなぁ♪
こっちも、教え甲斐があるってモンだ♪
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「モーリィさん! 左に回り込んで脚を攻撃! ミリアさんはそのまま待機!」
「「ハイ!」」
ズバッ! ドシュッ!
ミラーナの指示でモーリィがオーガの脚を切り、バランスを崩したオーガの首をミリアが切り飛ばす。
ズゥ…ン…
「やったね♪ 結構、勘が戻ってきたんじゃない?」
「まだミラーナさんの指示が無いと苦戦しますけどね」
「…だね。それでも復帰したばかりの頃に比べたら、かなり早く倒せる様になってると思うよ♪」
オーガ1体を倒すのには、熟練のハンターが3人必要。
それが定説となっている。
今回はミラーナが指示を出したとは言え、ミリアとモーリィの2人だけでオーガを倒したのだった。
「じゃあ、そろそろ休憩でも…」
[グガウッ!!]
突然、ミラーナの背後に現れる1体のオーガ。
鋭い爪が頭上から振り下ろされる。
が、そこにミラーナの姿は無かった。
「バックを取って、勝ったつもりになったか? アタシを舐めんなよ!!!!」
すぱぁああああああああんっ!!!!
ミラーナのひと振りでオーガの首が切り…
……………
…飛ばなかった。
[ガウ?]
オーガも何が起きたか理解していない様子。
そこにミリアとモーリィの声がハモる。
「「ハリセン?」」
「へっ?」
ミラーナは自分が手に持った物を見つめ…
「間違えたぁああああっ!!!!」
[グガァアアアアッ!!!!]
慌ててハリセンを放り投げ…
ドスッ! ズバァッ!
先程のミリアとモーリィの連携を1人で再現し、オーガを仕留めたのだった。
思わずへたり込むミラーナ。
「「ミラーナさん!!」」
「あ~… 大丈夫、大丈夫。ちょ~っと焦ったけどね」
ミラーナは2人がオーガと対峙している間、無意識に自身が動いてオーガを倒してしまわない様、剣の代わりにハリセンを持っていたのだが…
「持ってるのがハリセンだって事、完全に忘れてたよ。何も持たない方が良かったかな?」
「かも知れませんねw」
「意外とミラーナさんもドジなんだねぇ~w」
2人は苦笑しつつ、夕食時の笑いネタが出来たとほくそ笑んだのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あははっ♪ それ、オーガもビックリしたでしょうねぇ♪」
「何を考えてんですか… オーガの討伐にハリセンなんか持って行くなんて… 百歩譲って持って行くのは良いとしても、装備する必要なんか無いでしょうに…」
アリアさんは笑っているが、私は呆れている。
不老不死とは言え、危険な事は慎んで欲しいモンだ。
「いや~… 2人に勘を取り戻して貰うのが目的だからさ、間違ってアタシが手出ししても獲物を倒さない様にと思ってね」
「まぁ、その考え自体は間違ってませんが… 気を付けて下さいよ? 不老不死でも、ダメージは普通に受けますからね?」
そう、不老不死でもダメージは受ける。
それはハリセン・チョップを受ける事で、私やミラーナさんが昏倒してしまう事が証明している。
仮にダメージを受けて動けなくなったり失神した場合、魔物に食われる事もあり得る。
食われてしまった場合、どうなるかは予想も出来ないし試したくもない。
もう少し慎重になって欲しいモンだな。
等とミラーナさんに説明したら…
「なるほど… それは確かに予想も出来ないよな… なら、ここは代表してエリカちゃんで実験…」
「なんでやねんっ!!!!」
ずっぱぁああああああああんっ!!!!
私の全力ハリセン・チョップがミラーナさんの顔面に炸裂した。
「いつもの冗談だとは思いますが、いい加減に笑えない冗談は止めて下さい! そもそもミラーナさんの冗談は…」
ミラーナさんが失神しているのに気付かず、私は説教を続け…
しばらくしてから気付いたミラーナさんに、同じ事を言い聞かせたのだった。
二度手間だったよ…
失神しているかを確認し、叩き起こしてから説教すりゃ良かったと私は後悔したのだった。




