第62話 今後の展開次第では苦労する事になりそうです
「すっかりアリアちゃんも治療院での生活に馴染んだみたいですね♪」
「そうですね♪ 魔法医に成る為の勉強は始まったばかりで苦労してますけど」
アリアさんは、なんとか内臓を直視するのに慣れてきた。
とは言え、まだ食事はマトモに食べられない様子。
休診日の今日は、気分転換にミリアさんやモーリィさんを誘ってアリアさんに街を案内した。
一通り回り、ランチ・タイムで会話の最中。
「でも、良いなぁ~。エリカちゃんと一緒に暮らせるなんて~。独り暮らしって退屈だから、私もエリカちゃんの治療院に引っ越そうかな~」
モーリィさん、そんな事より婚活しろよ。
もう24歳なんだろ?
「何を言ってんのよ、モーリィ。そんなのズ… 迷惑でしょ?」
ミリアさん、ズルいって言おうとしたろ。
アンタもモーリィさんと同い歳なんだから婚活しろよ。
「そりゃ、部屋は余ってますけど、私と一緒に住んでどうするんですか? 2人共結婚したら、結局出て行く事になるでしょ?」
「良い相手が居ないのよ~!」
「ロザミアって野蛮なのばっかりなんだから~!」
スマン。
謝る。
だから泣くな。
「このまま一生独身だったらどうしよう…」
「言わないでよ、ミリア~… 現実になりそうな歳なんだから~…」
そう言えば以前ミリアさんから、遅くても24~25歳で結婚するって聞いたな。
2人は24歳だから、ギリギリってトコか…
「アリアさん、エルフって何歳ぐらいで結婚するんですか? 長寿だから遅いとか?」
「ハッキリしませんが、早くても300歳は超えてると思いますね。遅いと600歳ぐらいだと思いますけど」
よく分からんな…
てか、そんなに見た目に変化が無いのか?
「見た目が若いままですからね。エルフって、600歳でも人間の30歳前後に見えますから。300歳でも人間の20歳前後って感じですし」
「「羨ましいっ!!!!」」
ハモるな。
「ハッキリ老け始めるのって、800歳を超えてからですかね? これは人それぞれ… と言うか、エルフそれぞれですけど」
「「エルフに生まれたかった~!!!!」」
だからハモるな。
だいたいエルフに生まれたって、エルフにはエルフの悩みがあるだろ。
人間には人間の、エルフにはエルフの悩みがあると思うぞ?
どんな悩みかは知らんけど。
「エルフにはエルフの悩みがありますよ? そもそも人間に比べて数が少ないでしょう? だから、男女の出会い自体が少ないんです。長寿だから、夫婦間での年齢差も大きいのが普通ですし。良い人と出会えたと思って両親に紹介したら、実は血縁の近い親戚だったなんて話も多いんです。むしろ人間の方が数が多い分、男女の出会いの機会が多いから私達エルフには羨ましく思えるんですよ」
なるほどなぁ…
人間は数が多い分、男女が出会う機会は多い。
しかし、寿命が短いからその期間も短い。
逆にエルフは寿命が長い分、男女が出会う期間は長い。
しかし、数が少ないから相手を探すのに苦労する。
一長一短ってヤツだな。
…なんか違う気がするけど…
「良いじゃん、それでも~… エルフに生まれてりゃ、長い寿命を活かして人間の良い男を探せるじゃん。男の方が先に死ぬけど、そしたら次を探せば良いじゃん」
モーリィさん…
ビッチか、アンタは…
「私は… 良い男と一緒になれたら、その男と添い遂げたいかな~?」
それが普通だよ、ミリアさん…
「あ~、ミリアが良い子ぶってる~。ぶぅ~っ!」
「まあまあ。それより、ギルド職員に独身男性は居ないんですか? 食堂街とか商店街なんかにも、独身男性は居ると思いますけど?」
婚期ギリギリなのが彼女達だけとは思えないけどな。
それに、多少歳が離れてても良いと思うけど。
「「う~ん……………」」
ハモって悩むな。
私だって前世は24歳で爆死するまで女性経験皆無だったけど、何も悩まなかったぞ?
この世界と違って、前世では40歳近くまで独身ってのも珍しくなかったからだけど…
まぁ、だからこそ晩婚少子化が問題にもなってたんだけど…
「年齢の近い独身の男性職員って… 居ないわよね」
「ギルドの男性職員って、ハンター上がりが殆どだからねぇ… ギルドに入った時点で結婚して子供も居てるか、独身でも40歳を超えてるのが普通だし…」
そうなのか…
でも、マークさんは40手前だけど…
「たまには若いハンター上がりも就職するけど、大概は怪我でハンターを続けられなくなった人達よね。それも今じゃエリカちゃんが全部完全に治すから、歳を取って体力的にハンターを続けられなくなるまでギルドに就職しないのよ」
なんか、スイマセン…
それって、私が若い男性職員を減らしてるって事ですよね…
「中にはマークさんやナッシュみたいに最初からギルドに就職する男も居るんだけど、2人は根本的に違うんだよね~」
何が違うんだろ?
「マークさんって、王都のギルド本部に問い合わせしてくれてる方ですよね? ナッシュって人は知らないんですけど、どう違うんですか?」
うん、それは私も聞きたい。
以前、マークさんがハンター達を恫喝… 威圧してたのを考えると、マークさんはハンター上がりだとばかり思ってたからな。
「マークさんはハンターになる筈だったらしいの。けど、成人する頃に大怪我して、両手の握力が剣を振るのに耐えられなくなったんだって。だから仕方無くギルド職員になったって聞いたわ」
「ハンター登録は10歳から出来るんだけど、魔物なんかの討伐依頼を受けられるのは登録して3年以上経過してから。襲われた場合の反撃は別だけどさ。あ、例外として、3年が経過してなくてもDランク以上に昇格してたら受けられるんだよね。勿論、ランクに依って討伐出来る魔物や魔獣の種類に制限はあるけど…」
そりゃそうだろうな。
討伐依頼を受けられる条件を満たしてないからって、襲われた際の反撃すら認められないんじゃ…
「マークさんも10歳で登録して、薬草採取なんかしてたんだって。その最中に襲って来た魔物なんか、簡単に倒してたそうよ? まぁ、駆け出しだから西の大森林の浅い所ばかりで、ホーン・ラビットやキラー・ラビットが出る程度だけどね」
「それでも1人で倒してたってのが凄いよね~。駆け出しにはホーン・ラビットだって怖い魔物だよ? 下手したら角で刺されて死んじゃうんだから」
なるほど。
それなりの実力は持ってたのか。
「逆にナッシュは… ねぇ?」
「あれはハンターには向いてないよね~。ただ口が達者なだけで、ハンターとしての実力なんて無かったし。少し前に商店街で見たけどさ、仕事中に女の子をナンパして店の人に怒られてたよ?」
ナッシュさん…
アンタ、ギルドに戻りたいんなら真面目に働けよ…
「あの~… 私、ナッシュさんには…」
「「「会わない方が良いっ!」」」
苦笑しながら言うアリアさんに、私達3人の声がハモった。
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「ナッシュのバカは相変わらずか♪ でも、アリアちゃんには良い気分転換になったんじゃないか?」
「そうですね、楽しかったです♪ ミリアさんもモーリィさんも、良い女性ですね♡」
治療院に戻り、夕食を終えての会話中。
ミリアさんやモーリィさんの明るさは、アリアさんにとっての清涼剤になったかな?
「明日からの活力になったなら良かったです。まだまだ先は長いですからね♪」
「ところでさ、ミリアさんやモーリィさん、一緒に住んでも良いんじゃないか? 部屋だって余ってるし、賑やかになって良いじゃん♪」
簡単に言うなぁ…
まぁ、悪い人じゃないから一緒に住むのは吝かでは無いんだけど…
2人がどこまで本気で言ってるのかも判らないしな。
「私は… エリカさんさえ良かったら一緒に住みたいって思います。勿論、彼女達が本気で住みたいなら、ですけど」
「よし! なら2人に『一緒に住める』って報告しよう! 善は急げだ、今から行こう!」
ちょっと待ったらんかいっ!
すぱぁああああああああんっ!!!!
「気が早過ぎます! 2人が本気で言ったのか冗談で言ったのかも判らないでしょうが! 明日の昼にでも私が確認しますから、ミラーナさんは先走らないで下さい!」
「わ… わふぁっは…」
顔面を押さえて頷くミラーナさん。
もし、2人が本気で治療院に住みたいって言ってたのなら…
かなり騒がしくなるのは間違い無いな。
それで苦労するのって、絶対に私じゃんかよぉおおおおお…




