第60話 魔法医に成る為の試練?
アリアさんの仕事は、今の時点では受け付けのみ。
治療が終わった患者が治療室から出ると、次の患者を呼ぶだけだ。
しかし、19時頃になるとミラーナさんが戻って来るので、アリアさんと受け付けを交代する。
それから診療終了まで、アリアさんは治療室で私の診療の様子を見て勉強している。
「お大事に~♪」
よし、今日も終了♪
「エリカさん、お疲れ様でした♪」
「アリアさんも、お疲れ様です♪ 何か質問はありますか?」
診療の後、私はアリアさんの疑問や質問に答える事にしている。
「そうですね… ずっと疑問に思ってたんですけど… どうしてエリカさんは患者さんを見るだけで、何の病気だとか怪我の状態とかが判るんですか?」
「それは私の能力ですね。私は患者さんの身体の内部を見る事が出来るんです。その能力で病気や怪我の状態を調べてから、魔法で治療してるんですよ♪」
この能力のお陰でCTスキャンもレントゲンも要らないんだよねぇ♪
「そんな能力があるんですか!? 私には無い能力ですね… これではエリカさんと一緒に…」
あ、落ち込んじゃったかな?
まぁ、能力を付与してあげても良いんだけどね。
「能力、付けてあげましょうか? アリアさんが望むなら、ですけど」
「良いんですか!? あ… でも… 努力もしないで能力を付けて頂くワケには…」
う~ん、真面目だなぁ。
誰かさんも見習って欲しいな。
「エリカちゃん。今、何か変な事…」
「考えてません」
心を読むな、心を。
…やっぱり読心術使ってんじゃないのか、アンタ…
「アリアさん、どうします? 患者さんを治す為には間違い無く必要な能力です。この能力が無いと、間違った治療をしてしまうかも知れません。そうなると患者さんを治すどころか、逆に危険な目に合わせてしまいます」
真剣な表情で聞き入るアリアさん。
「逆に、この能力があれば患部がハッキリ見えるので、医学知識と技術を合わせれば治療法も決め易くなります」
ボケ~ッとした表情で聞き流してる様子のミラーナさん。
をいをい…
「どうします?」
「その能力… 私に付けて下さい!」
まぁ、そう言うだろうとは思ってたけどね。
最初は苦労すると思うけど…
私はアリアさんの眼に手を翳して念じる。
ポゥッと掌に光が現れ、アリアさんの眼に吸い込まれる。
「これで付与完了です♪ ちょっと試してみますか?」
「ハイ! 是非!」
きっと驚くだろうな♪
後悔するかも知れないが、慣れて貰わなきゃな♪
「じゃ、眼に力を込めて私とミラーナさんを見て下さい」
「ハ… ハイ!」
「えっ!? アタシも!?」
「アリアさんの為です。協力して下さい」
しぶしぶ私と並んで立つミラーナさん。
アリアさんは眼に力を込めて私達を見る。
…待つことしばし…
「あっ… み… 見えました!」
嬉しそうなアリアさん。
が、何故だか顔が赤くなる…
思ってたのと違う反応なのが気になる…
「どうでした?」
「ハ… ハイ… その… えっと… 金髪とツルツルでした…」
………………?
私とミラーナさんは顔を見合せ…
………………!?
「ど、どこ見てんだよっ!!!!」
「もっと上っ! 上っ! 胸の辺りを深く見て下さいっ!!!!」
なんで最初からそんなトコ見るんだ、この女はっ!!!!
まさかと思うけど、そのケがあるんじゃ無いだろうな!?
「ス、スイマセン!!!! む、胸の辺りですね!?」
再度、眼に力を込めて私達を見るアリアさん。
そして…
「!!!!」
血の気が引き、真っ青になるアリアさん。
「う… ぅえっ…」
アリアさんはバタバタとトイレに駆け込む。
うん、最初はこうなるだろうと思ったよ。
「アリアちゃん、どうしたんだ?」
分からんのかい。
「初めて見たんでしょうね、人間の筋肉組織とか内臓とか」
「筋肉組織? 内臓?」
生の筋肉組織や内臓を直に見れば、大概の人はアリアさんと同じ様な反応だろう。
写真でもない、標本でもない。
本物の、動いている筋肉組織や内臓を直視したのだ。
気持ち悪くなって吐くのも無理はない。
私は元の性格が性格だけに、医科大学時代──前世──の解剖実習も平気だったが…
ミラーナさんは、まだ首を傾げている。
「ミラーナさんも試してみれば解ると思いますよ? 試してみますか?」
「じゃあ、少しだけ。すぐに戻してくれよ?」
私はアリアさんと同じ魔法をミラーナさんの眼に施す。
ミラーナさんは眼に力を込め、私を深く見る。
そして…
「う… これは… さすがにキツいかも…」
「まぁ、最初は誰でも…」
「ちょっ… 待っ… アタシも…」
トイレに向かうミラーナさんと入れ替わりに、アリアさんが戻って来る。
「はぁ… あの… エリカさんは平気なんですか…?」
「慣れてますからね♪ って言うか、慣れなきゃ私と一緒に患者さんを診療出来ませんよ?」
厳しいかも知れないが、この能力は良い魔法医に成る為には必須だからな。
「他の魔法医の皆さんも、この能力を…?」
「それは判りません。ただ、この能力を持っていれば、他の魔法医に比べてかなり有利なのは間違い無いでしょうね」
そうなのだ。
この能力を持っていれば、単なる腹痛に見える症状も、それが只の腹痛なのか、何らかの病気に依る腹痛なのかどうかが一発で判るのだ。
勿論、医学知識は必要だけどね。
医学知識が無ければ病気かどうかは判らないからな。
「ですので明日から毎日、私の診療を見学する時には能力を発動して貰います。最初の内は今と同じ様にトイレに駆け込むかも知れませんが、それも慣れるまでの辛抱です。慣れてしまえば、何も感じなくなりますよ♡」
「そんな単純なモンなんでしょうか?」
実は単純だったりする。
アリアさんやミラーナさんみたいにトイレに駆け込んだクラスメイトは何人も居た。
そんな連中も、数回解剖実習を経験しただけで冗談を言いながら解剖してたんだから。
もっとも、生身と死体では別の意味で気持ち悪さが違うのだが…
まぁ、生身だろうが死体だろうが、慣れてしまえば何て事は無いってのは本当だ。
「間違い無く単純です。それは私が保証します。私なんて、最初から平気でしたからね♪ まぁ、私が特殊なのかも知れませんが、アリアさんも毎日見てれば慣れますよ♡」
うん、『♡』は要らなかったかな?
でもまぁ、私と肩を並べる魔法医に成るんなら、避けては通れない道だからねぇ。
そうこうしている内に戻って来たミラーナさんも、酷い顔色だったりする。
魔物の討伐なんかで死体は見慣れていても、まじまじと内臓なんかを見た事は無いだろうからな。
「結構、ショックだったみたいですね? じゃ、今日の夕食は全部私が作りますから、2人は休んでて下さい♡」
そう言って私が作った料理は…
ステーキをメインにし、付け合わせに内臓──主に消化器官──を使った肉中心の料理。
野菜は軽くサラダを1皿。
嫌がらせじゃないよ?
これも慣れる為の修行だからね♪
もっとも、アリアさんとミラーナさんには不評だった様で…
「あんなの見た後で、こんなの食えるかよ~(泣)」
とか
「さすがに… 食べても全部嘔吐しそうです…」
と、2人共サラダしか食べなかった。
勿論、私は全て平らげ、気分良く風呂に入って寝ました♡
ちなみに2人は私が寝た後、腹が減るからと無理して食べたは良いが、胃が受け付けなくて全部嘔吐したそうだ。
更に言えば、翌朝スッキリ目覚めた私にキレた2人から、私はハリセン・チョップを食らったのだった。
私が悪いワケじゃないのに理不尽だ~っ!!!!




