第56話 私達の平穏とナッシュの悲劇
最近は毎晩ミラーナさんと晩酌している私。
う~ん、すっかり酒の味を覚えた子供になってしまったなぁ…
いやいや、中身は26歳の成人だからね!
「アタシもだけど、案外エリカちゃんも酒癖が悪い方なのかな?」
「そうですか? 普通に酔うだけだと思いますけど…」
「いや、ナッシュのヤツに椅子を投げ付けてたろ? だから酔うと狂暴になるのかな~って…」
アンタと一緒にすんなよ…
「何を言ってんですか。あの腐れボケ、わざわざ望遠鏡を使ってまで屋上に干してある私達の下着を覗いてたんですよ? 怒って当然じゃないですか!」
「腐れボケって… まぁ、間違い無いんだけど♪」
苦笑するミラーナさん。
それにしても、まさかギルドの屋上から見えてたとはなぁ…
ギルドと治療院は円形広場のほぼ反対側の位置だし、円形広場自体も結構な広さが在るから見られてるとは思ってなかったよ…
測ったワケじゃないけど、円形広場の直径って50m以上は在ったと思うぞ?
「しかし、望遠鏡まで使うとはなぁ… ある意味、感心するよ」
「感心しないで下さいよ! 殆ど変態でしょ、そこまでするのって! ミラーナさんだって徹底的に嫌ってるじゃありませんか!」」
「まぁ、確かになぁ… なんか嫌なんだよ。俗に言うチャラ男ってヤツ? あれには虫酸が走るって言うかさ」
まぁ、ミラーナさんの性格なら嫌いなタイプなんだろうな。
私も前世が男だからチャラ男ってのは理解し難い存在だったが…
いや、誰もがチャラ男を嫌ってるとは言わないよ?
好みは人それぞれだし!
チャラ男を好きな女性も居るだろうってのも解る。
…気がする…
前世では、それを売りにしてた芸人も知ってるし、別にその芸人の事は嫌いじゃなかったし。
けど、ナッシュさんの場合は違うと言うか何と言うか…
合わないんだろうなぁ…
私の知ってる芸人は爽やかな感じで、ナッシュさんはネットリしてると言うか…
同じチャラ男でも、タイプが真逆なんだよなぁ…
「まぁ、ミラーナさんの言いたい事は解ります。私自身、全てのチャラ男が嫌いってワケじゃないですけど、ナッシュさんのチャラ男っ振りは私も嫌いなタイプですしね」
「解るかい?」
「ミラーナさんも、ナッシュさんとは違う『爽やかなチャラ男』なら、そこまで嫌わないんじゃありませんか?」
ミラーナさんは少し考え込み…
「確かにそうかも… なんかアイツのチャラ男って、妙にネットリしてると言うか、執拗? 陰湿? 変態的? とにかくムカつくんだよな…」
…言い過ぎかも知れないけど、言いたい事は充分過ぎるぐらい解るな…
私も同じ事を感じてたし…
「とにかく、エリカちゃんもアイツとは距離を置いた方が良いんじゃないかな? 調子に乗らせちゃ危険(?)なタイプだろうからね」
「それは心得てます。ナッシュさん用に、紙の厚みが通常の3倍以上のハリセンを用意してますから♪」
言って私は現物を見せる。
「それ… アタシには使わないで欲しいな…」
うん、ミラーナさんが引くんだからナッシュさんには効果覿面って事だな♪
異空間に保管して常備しておこうっと♡
ずばぁあああああああんっ!!!!
渾身の一振!
通常の3倍以上の厚みを持つハリセンがナッシュさんの顔面にめり込む。
理由は…
私に近寄って来たから…
理不尽と言うなかれ…
正直言って、こんな変態に近付かれたく無いのは理解して貰えると思う。
「下着覗きの変態に近付かれたくはありません!」
私はナッシュさんをキッパリ、ハッキリ拒絶する。
「お前はエリカちゃんの5m以内には近付くな! 近付いたら斬る! 無論、アタシにもだ!」
大振りの両手剣を左手一本で軽々と持ち、ナッシュさんの喉元に突き付けるミラーナさん。
つか、斬るなよ…
「なんでぇ????」
理解して無えのかよ…
「「自分の胸に聞けぇっ!!!!」」
ずどぱぁあああああああんっ!!!!
私とミラーナさんのセリフがハモり、再度ハリセンがナッシュさんの頭頂部に炸裂する。
私に近付いただけでドツき倒されるのは可哀想かも知れないが、今までのナッシュさんの行動を見れば誰もが納得しているようで、非難の声は聞こえない。
むしろドツき倒されて当然という空気が漂っている。
「マークさぁ~ん…」
ナッシュさんは上司でありギルドマスターのマークさんに助けを求めるが、マークさんもナッシュさんの行動には辟易していたのだろう。
「自業自得と言うか、因果応報と言うかってトコだな。もう、さすがに俺でも庇い切れん。お前はギルドをクビだ。何処かの商店にでも雇って貰って丁稚奉公でもしろ。で、ギルドに再就職したけりゃ、客の相手の仕方を学んでから来い。これ以上、エリカちゃん達に迷惑は掛けられんからな」
そう言って、ナッシュさんをギルドから放り出した。
可哀想だが、仕方無いよな…
ちょっと調子に乗り過ぎてたのは間違い無いし…
そして私達は、ナッシュさんの居なくなったギルドで楽しく飲み会を催したのだった。
…ナッシュさん、泣いてるだろうなぁ…
強く生きろよ?




