第54話 酒は飲んでも呑まれるな
「まさか、あんなに酒が弱いとは思わなかったよ♪ エリカちゃん、見た目はともかくとして、実年齢は26歳だから少しは飲めると思ってたんだけどなぁ♪」
私はミラーナさんのブランデーを間違えて飲み、酔い潰れた事をからかわれていた。
「何を言ってるんですか! あんなに強いお酒、誰でも酔い潰れますよ!」
「そんなに強かったかい? アタシは普通に飲めるけど…」
自身の異常さを理解して無えな、この女…
「アルコール度数70%ですよ!? 普通は水で薄めて飲むモンです! ストレートで飲んで平気な方が変ですよ!」
「そうなんだ… 気にした事なんて無かったなぁ…」
気にしろ、頼むから…
「私だってエール程度なら飲める筈です。見た目が8~10歳程度だから遠慮してますけどね」
前世は普通に飲んでたからな。
ビール程度のアルコール度数なら、8~10歳程度の身体でも問題無いだろう。
「じゃあさ、今夜あたり一杯どうだい? 晩酌、付き合ってくれよ♪」
「良いですよ♡ 私も少しは飲みたいですから♡」
まぁ、ミラーナさんの酒と飲み間違えなければ大丈夫だろうからな。
「じゃあ、エリカちゃんが夜の部の診療してる間にエールを買っておくよ♪ いつもアタシだけ飲んでるのも面白くなかったんだ♪」
そうして私は、ミラーナさんと初めて晩酌する事にした。
その日の夜。
私は夕食の準備をしつつ、ミラーナさんが買ってきたエールのアルコール度数を確認する。
アルコール度数10%…
前世でのビールは5~7%程度だったから少し強めだが、この程度なら大丈夫かな?
間違えて飲んだアルコール度数70%に比べれば、1瓶なら飲めるだろう。
そして夕食の準備も終わり…
「それじゃ、今日も1日お疲れ様でした♡」
「お疲れさん♡」
私達はグラスをカチンと合わせ、最初の一杯を喉に流し込む。
「ん~♡ 美味しい~♡」
「旨いよねぇ♡」
食べつつ飲みつつ、会話を楽しむ。
勿論、幻覚は見えました。
「エリカちゃん、結構イケるじゃんか♪ なんで今まで飲まなかったんだい?」
「なんでって… やっぱり見た目の問題ですかね? 私って、どう見ても成人に見えないじゃないですか」
成人してるって知らない人が見たら、間違い無く止められそうだしな。
「それもそうか。アタシとかが一緒に居たら、子供に飲酒させてるって思われるだろうしなぁ」
そ~ゆ~事。
見た目そのまま、子供の飲酒だからな。
「ま、こうやって自宅なら良いんじゃないですか? 誰にも見られませんし♪」
「だな♪ じゃ、これからも一緒に晩酌できるって事だな♡」
そうして、その日の夜は楽しく更けていった。
翌日の昼、私は久し振りにギルドの食堂で昼食を食べていた。
「エリカちゃん、ミラーナさんと晩酌したんだって?」
「今度、私達とも一緒にどう?」
ぶふぉっ
「だ… 誰にそんな事…」
思わず飲んでたジュースを吹き出したぞ!
辛うじて横を向いたんで2人には掛からなかったけど…
「誰って、ミラーナさん本人よ?」
「嬉しそうに話してたよねぇ♪」
ミリアさんやモーリィさんなら、話しても大丈夫だと思ったんだな?
確かに私の年齢を知ってる2人なら大丈夫だけど…
「この前は酔い潰れちゃってたけど、ミラーナさんの飲んでたお酒だからねぇ…」
「さすがに、あれは仕方無いよね」
そりゃ、アルコール度数70%だからな…
ミラーナさん以外、誰でも倒れるぞ…
「まぁ、あれは間違えて飲んだ私が悪いんですけど… エールなら普通に1瓶飲めましたね」
見た目が子供なだけで、中身は大人だからな♪
「じゃあさ、今夜どう?」
「ミラーナさんも誘って、皆で飲もうよ♡」
たまには、そんなのも良いかな?
私は同意し、夜の部の診療が終わり次第ギルドに顔を出す事にした。
「こんばんは~♪」
ギルドに入ると、大勢のハンター達が食堂に居た。
あれ?
普段、こんなに多かったっけ?
夕食は殆ど自宅だから滅多にギルドでは食べないけど、普段の倍は居るんじゃないか?
「いらっしゃい、エリカちゃん♡」
ミリアさんが駆けて来る。
「ちょっと口が滑っちゃって、エリカちゃんと飲むって言っちゃったのよ」
そこへモーリィさんもやって来る。
「つい、うっかりね。マズかったかな?」
それは良いけど、それで何故この大人数なんだろ?
「それを聞いたハンターの人達が…」
「『それなら俺達も一緒に飲みたい』って言い出しちゃってね…」
それで、この人数か…
…にしても、多過ぎないか?
パッと見ただけでも50人以上は居るだろ…
「これでも減らしたのよ?」
「依頼で来れないハンター以外、殆どが参加希望してたモンねぇ?」
「だから、ここに居る人達は抽選で当たった人達なの」
「抽選に漏れた人達、悔しがってたよねぇ? 『次こそは~』って、荒れてたよ♪」
抽選で選んだって…
マジかよ…
なんで皆、私と飲みたいんだ?
「だってミラーナさん以外、誰もエリカちゃんと飲んだ事が無いんですもの」
「ただでさえ人気者だからねぇ、エリカちゃんは♡ そりゃ皆一緒に飲みたがるわよ♡」
そ… そうなのか?
まぁ、人気者と言われて悪い気はしないけど…
「俺達、ギルド職員も抽選させられたんだよ」
マークさん…
アンタ、奥さん居るだろ…
「今回は俺も参加するんだぜ!」
ナッシュさん…
アンタ、まさかと思うけど、まだ私を狙ってんじゃないだろうな?
もしそうなら、酔ったフリしてテーブルで殴るぞ?
…まぁ、良いか♪
「よ~し、じゃあ皆で楽しく飲みましょう♡」
「「「おぉおおおおおおおおおっ!!!!」」」
こうして『第1回 エリカを囲む飲み会』が始まった。
…てか、エリカを囲む飲み会って…
それも『第1回』って…
これから何回も開催する気かよ…
なんだかんだ言っても、やっぱり大勢で飲む酒は旨い♡
勿論、食事も♡
飲み会なんだから、多少の事は無礼講♪
ナッシュさんが私の肩を抱いてきても、笑って付き合う♪
「もぉ~、ナッシュさん。飲み過ぎなんじゃありませんか~?」
「良いじゃん、今夜ぐらいは酔っぱらったってさぁ~♪」
「まったくぅ~♪ 変な事、考えてんじゃ無いでしょうねぇ~?」
とりあえず釘を刺しておく。
「考えてないよぉ~♪ まぁ、頬っぺにチュ~ぐらいはして欲しいかな~なんてね~♪」
言いつつ私の肩を抱いていた腕を離し、自分の頬を突き出すナッシュさん。
私はナッシュさんからサッと距離を取る。
どっか~ん!!!!
やっぱりな…
ナッシュさんに向かって手近に在った物を投げ付けるハンター達。
あ~あ…
相変わらず学習しないなぁ…
「あだだだ… やっぱ、ダメ?」
無礼講なだけに、ナッシュさんも怒らない。
「バ~カ♪ エリカちゃんにチュ~して貰おうなんて、10年早えよ♪」
「古参連中でさえ、誰もして貰って無えんだからな♪」
やはり無礼講だからか、皆が軽いノリだ♪
「そうですよ~♪ 私がキスするのは、やっぱり私が本当に好きな人じゃないとですね~♡」
そんな男、居ないけどな。
そもそも精神が男なんだから。
「ふ~ん、じゃあアタシは?」
悪戯っぽくミラーナさんが私の顔を覗き込む。
…………………
私はミラーナさんの頬を両手で挟み込み…
チュゥウウウウウウウウウウッ
思いっ切りミラーナさんにキスをする。
「むぐぐぐぐぐぐぐぐっ!!!! …ぷはぁっ! エ… エリカちゃん!?」
慌てふためくミラーナさん。
続いて…
ムチュゥウウウウウウウウウウッ
次の犠牲者(?)はミリアさん。
更に…
ンチュゥウウウウウウウウウウッ
モーリィさんも♡
私が──男の精神で──本当に好きな人は、この3人だからな♡
「私のファーストキス…」
「奪われちゃった…」
「エリカちゃんに…」
あら?
3人共、初めてだったの?
いや、私もだけど…
その後、エリカに酒を飲ませると女性は唇を奪われるという噂と、もしかしたらエリカはレズなのかも知れないという噂がロザミア中に広まったのだった。
しくしくしく…




