第53話 見た目が似た飲み物には注意が必要です
「完成したんだなぁ…」
「完成しましたねぇ…」
私とミラーナさんは、完成したホテルとテーマパークを眺めていた。
「アタシ、18歳になっちゃったよ…」
「私は26歳になりましたよ…」
ミラーナさんは遠い目をしてポツリと言う。
「オバン…」
「オバン言うなあっ!!!!」
すぱぁあああああんっ!!!!
「あだだっ! 冗談だろぉ!?」
「言って良い冗談と悪い冗談があります! 26歳でオバンなら、30代や40代だとどうなるんですかっ!」
ナッシュさんもだが、ミラーナさんも口が悪いなぁ…
「2人共、さっきから何をやってるんですか?」
あ、ミリアさんに見られてた…
「いや、まぁ… 感慨に耽ってたと言うか…」
「テーマパークの完成に感動してたと言いますか…」
「そうは見えなかったけど?」
モーリィさんが突っ込む。
「そ… そんなの、どうだって良いじゃんか! それより今夜はホテルとテーマパークの完成祝いにパーッとやろう!」
誤魔化したな…
まぁ良いや。
「じゃ、今から商店街で魚を買って、お寿司でも作りましょうか♪」
ここはノッておこう♪
「おっ、良いねぇ♪ 腹いっぱい食うぞ~♡」
「あっ♪ 羨ましいなぁ~♪」
「ね♪ ね♪ 私達も一緒に良い?」
ミリアさんやモーリィさんもノッてきた。
…食い意地が張ってるとも言う…
「勿論ですよ♡ さ、行きましょ♡」
「「「おぉ~っ♡」」」
─────────────────
治療院のキッチンで私は寿司を握る。
ミリアさんには刺身を切って貰う。
ミラーナさんは寿司に合うスープを作ると言って、鍋と格闘している。
モーリィさんは特にやる事が無いので、リビングで飲み物の用意をして貰っている。
そして全ての準備が調い…
「では、ロザミアに観光ホテルとテーマパークの完成を祝して…」
「「「かんぱ~い♡」」」
私はジュース、他の3人はワインやブランデーで乾杯する。
中身は26歳だけど、身体は8~10歳程度だからなぁ…
それより、ミリアさんとモーリィさんがミラーナさんのスープを飲んだ時の反応が楽しみだ♪
「これがミラーナさんの作ったスープかぁ♡」
「ミラーナさんの料理、初めてだね♡」
そして2人はスープを一口…
「………………」
「………………」
…幻覚が見えたな?
「えっ… と…」
「今の… 何?」
戸惑ってるみたいだから、安心させてやるか。
「あぁ、いつもの事だから気にしないで大丈夫ですよ♪ 私も毎日、幻覚を見てますから♪」
2人は顔を見合せ…
「いつもの事?」
「毎日見てる?」
意味不明って感じだな。
「ミラーナさんの料理って、何故か最初の一口目だけ幻覚が見えるんですよ♪ 二口目からは何ともありませんから安心して下さい♪」
2人は再度顔を見合せ頷き、恐る恐るスープをもう一口。
「ホントだ…」
「何とも無いね…」
2人共、安心した様だ。
「私なんて、もう慣れちゃいましたね。悲しい事に」
すぱぁあああああんっ!!!!
ゴンッ
「あだっ!」
「悲しいは余計だよねぇ?」
なんか、スイマセン…
「ま、そんな事より食べて飲もう♪ ほら、エリカちゃんもダウンしてないで♪」
ダウンするだろ、アンタの一撃を受けたんだから…
私は手近にあったジュースを飲んで気持ちを落ち着ける。
「だ~か~ら~、ミラーナしゃんは~、思った事を~、しゅぐに口に出ししゅぎなんれしゅよ~。理解~、してましゅぅ~?」
あら?
なんか呂律が回ってない様な…
「ちょっ… エリカちゃん?」
ん?
ミリアさんが慌ててる?
「ねぇ、ミラーナさん? さっきエリカちゃんが飲んだのって…」
あら?
モーリィさんまで?
「あぁ… 飲もうと思ったら無くなってたから、まさかと思ったんだけど…」
えっ?
もしかして私が飲んだのって…
「まさか、ミラーナさんのお酒… エリカちゃんが飲んじゃったんですか?」
「へ? おしゃけ?」
そう言えば、私のジュースは残ってる様な…
ちょっと考えよう…
ミラーナさんは、私の左側。
左利きのミラーナさんは左手でフォークを使う関係からか、自分の右側にグラスを置いて左手で食べて右手で飲む。
私は逆に、右手でフォークを使うから自分の左側にグラスを置いて右手で食べて左手で飲む。
つまり、2人の間に互いの飲み物が置いてあったという事。
ミラーナさんはアルコールに強いからか、かなり強めの酒を好む。
確か、今回飲んでいたのもアルコール度数が40%以上だった様な…
それを飲んじゃったのか?
私が飲んでいたのは林檎ジュースで、ミラーナさんが飲んでいたのも林檎で作られたブランデーだった様な…
うん、見た目は似てるな…
「ありゃ? もひかひへ~、ミリャーナしゃんのブリャンレー、わらひが飲んひゃいまひた~?」
いかん!
完全に呂律が回っとらん!
おかしい!
前世の私は、ここまで酒に弱くは無かったぞ!?
そりゃ、強いとは言えなかったと思うが、それなりに飲めた筈だ。
たかだかグラス一杯のブランデーで、ここまで酔うとは考えられない。
私は意識が朦朧とするのを堪えつつ、ブランデーの瓶に貼られたラベルを確認する。
そこに書かれていたのは『アルコール度数70%』の文字。
…………………
をを~い…
そりゃダメだろ…
「ミリャーナひゃん… こりぇ、ちゅよしゅぎましゅよぉ~… もうしゅこしふちゅうのおしゃけ…」
そこまで言うのがやっとだった…
私は倒れ、3人の慌てる声が徐々に小さくなっていった…
幸いな事に翌日は休診日だったが、私は1日中二日酔いに悩まされたのだった…




