第52話 これは『自業自得』? それとも『口は災いの元』ですか?
ロザミアの拡張工事とテーマパーク建設が始まってしばらくすると、夏の社交シーズンの為にミラーナさんが王都へと帰る事になった。
「あ~あ、また退屈な2ヶ月が始まるのか…」
「何を言ってんですか。久し振りに両親や妹達弟達と会うんですから、楽しんで下さいよ」
まぁ、皆ミラーナさんとは性格が違い過ぎるからなぁ…
なんでミラーナさんだけ、こんな破壊的な性格になったんだろ?
「エリカちゃん… 今、変な事を考えなかったか…?」
心が読めるんかいっ!
読心術でも習得してるんじゃ無かろうな、この女…
「別に何も考えてませんよ。それより私が書いた手紙、ちゃんと渡して下さいね?」
ミラーナさんの帰郷ついでに、私は国王一家に向けて手紙を書いていた。
内容はロザミアの拡張工事とテーマパーク建設について。
私の予想では、ミラーナさんがロザミアに戻って来る頃には殆ど完成してる筈だ。
て言うか、完成させなきゃ!
あれから何回だろう?
テーマパーク建設に関わろうとしたミラーナさんにハリセン・チョップを食らわせたのは…
ミラーナさんが関わると、何故かアトラクションに危険な要素が加わるからなぁ…
例を挙げれば巨大滑り台に切れ込みが入り、一瞬ではあるものの滑ってる人が空中に放り出されるとか…
誰がチャレンジするんだよ、そんなモン…
ミラーナさんを見送った私は、そのままテーマパークの建設現場に向かった。
何としてもミラーナさんがロザミアに帰って来る前に安全なテーマパークを完成させるべく、作業員に発破を掛けなきゃ!
「皆さん! 今が正念場です! ミラーナさんがロザミアに戻る前にテーマパークを完成させなければいけません! 気合いを入れて作業をお願いします!」
「「「「「おぉおおおおおおおっ!!!!」」」」」
作業員は全員、理解してくれている様だった。
如何にミラーナさんの監修が危険かという事を。
笑えんなぁ…
とにかく作業員達は気合いを入れて作業に励んでくれている。
私も気合いを入れて、休診日は1日中現場に入り浸って監修に当たる。
休診日以外も朝の部の診療が終わると、夜の部の診療開始に間に合うギリギリの時間まで現場に残っている。
結構キツいが、ミラーナさんがロザミアに戻るまでの辛抱だ。
そんなこんなでアッと言う間に1ヶ月半が過ぎ、テーマパークは殆ど完成したのだった。
安全に楽しめる『迷路』『ロープ&丸太渡り』『巨大滑り台』『ストラ○ク・アウト』の4つ。
今は数こそ少ないが、これならロザミアに観光客を呼べるだろう。
後は飾り付け等、見た目でも楽しめる様にするだけだ。
宿泊施設の建設も順調に進んでいる。
ホテルの部屋は1人から最大10人まで利用出来る様に、様々な広さの部屋を造っている。
ここまで完成に近付けば、もう私の監修は不要だろう。
私はグランツさんに監修の終了と残りの作業を任せる事を伝え、日常に戻る事にした。
「あぁ~、長かったなぁ~」
建設現場で監修していた期間、ミリアさんやモーリィさんとの食事も休止していた。
今日は久し振りに2人と昼食だ♪
「エリカちゃん、お疲れ様だったわね。大変だったんじゃない?」
「工事の監修なんて、初めてなんでしょ? よく出来たよねぇ?」
ミラーナさんがマトモな監修してたら、こんな苦労は無かったんだよな…
「初めてでしたし、大変でしたよ。最初、ミラーナさんがとんでもないモノを造らせたでしょ? あんなのを造られちゃ、任せられないですよ…」
「あ~… あれね…?」
「あれはヤバいよねぇ…?」
2人共、その眼で見てるからな。
「私が監修してなかったら、他にも危ないアトラクションを造ってたかも知れなかったんですから…」
2人は顔を見合せて聞いてくる。
「例えば?」
「どんなの?」
私は2人に説明した。
途中に切れ込みが入り、一瞬だが空中に放り出される巨大滑り台。
造る前に止めたから詳細は不明だが、何かしらのトラップが仕掛けられた迷路。
観光に訪れた人がチャレンジしたがらないアトラクションを造ろうとしていた事を。
2人は顔色を変えて言う。
「それは… ちょっと… ねぇ?」
「さすがにコワいよねぇ…」
2人共、納得してくれている様だ。
「ミラーナさん自身は、自分に出来るから他人にも出来ると思ってたみたいなんですよ。自身の身体能力に対して謙虚と言えば謙虚なんですけど、単に自身の身体能力の異常な高さを理解してないだけなんですよね」
2人は真剣な表情で私の話を聞いている。
「悪い事とは言いませんよ? むしろ謙虚なのは良い事です。けど、ミラーナさんに出来て他の人に出来ない事なんて、それこそ無数に在ると言っても過言ではありませんからね。なにしろ、本気で蹴ったら一撃でオーガの腕や脚の骨を粉砕する様な人ですから」
2人は微動だにせず、無言で聞いている。
「そんな人が監修して造るアトラクションなんて、怪我人が続出しますよ。下手したら死人が出る可能性が…」
すぱぁああああああああんっ!!!!
ガンッ
「あ痛ぁっ!」
後頭部への衝撃と共に、私は顔面をテーブルに打ち付ける。
「エ・リ・カ・ちゃ~ん…」
何故か私の後ろに立っているミラーナさん。
いつの間に帰って来たんだ?
「な~んか嫌な予感がしたから、予定を早めに切り上げて帰って正解だったな♪」
2人が無表情&無言だったのは、私の後ろに立つミラーナさんを見ていたからか!?
てか、気配はおろか物音すら聞こえなかったぞ!?
「あの~、ミラーナさん? そのハリセン、前回より更にサイズ・アップしてません?」
見るからにデカい。
明らかにデカくなってる。
前回は通常サイズの2倍程度だったが、ミラーナさんが持ってるハリセンは、軽く通常の3倍以上の大きさだぞ!?
片手じゃ持てないらしく、両手で持ってるぢゃないかっ!
「いや~、王都で特注したんだよ。自分で作ると、どうしても強度に問題があってね♪」
確かに…
これだけデカいと普通はヘナヘナなんだが、かなり頑丈な造りになってるな。
…それで私の後頭部を叩いたと?
「それにしても、また好き放題言ってくれてたよねぇ?」
スイマセン、その笑顔は止めて貰えますか?
怒った表情よりコワいんですけど…
「ミリアさん♪ モーリィさん♪」
何故か2人に声を掛けるミラーナさん。
「しっかり、持っててね♪」
へっ?
「「ハイッ!」」
2人は同時に返事し、私が動けない様に左右から腕を掴む。
あの~…
これってやっぱり?
「言いたい放題言われたんだから、当然の事だよねぇ♪」
そうなりますよねぇ…
ずどぱぁああああああああああんっ!!!!
ベシャァアアアアアアアアッ
大上段から振り下ろされたハリセンの一撃に、私は床に突っ伏した。
「エリカちゃん、ゴメンねぇ…」
「ミラーナさんに言われちゃ、逆らえないからねぇ…」
うん、アンタ達の言い分は解ったよ…
だけどさ、せめて後ろにミラーナさんが居る事は何かしらの合図で知らせろよ…
かなりの衝撃だぞ、巨大ハリセンの一撃は…
さすがに不老不死の私も自身を治せない程のダメージを受け、ミラーナさんに引き摺られて治療院に戻ったのだった…




