第51話 後ろへの注意を怠ってはいけませんね
テーマパークの監修をする事になった私は、朝の部の診療が終わると工事現場に行っている。
ミラーナさんにアトラクション建設を任せるのは命の危険があるからなぁ…
工事責任者のグランツさんと一緒に昼食を食べながら、短い時間だが毎日どんなアトラクションを造るかを話し合っている。
この世界には電気が無いので、さすがにジェットコースターなんかは造れない。
電気を使わないアトラクションしか造れないから、どうしても体を使ったゲーム的なモノになる。
まず思い付いたのは迷路だ。
縦横3mの壁を並べて造れば良いから簡単だ。
外壁にはエスケープ様に何ヶ所かドアを用意する。
10m程の距離に置かれた縦横3つ、合計9個の的を12個のボールを投げて打ち抜くゲームも造る。
全部打ち抜けば賞品を貰える。
横に並んだ的は、上手く行けば1度に2枚を打ち抜ける。
何かのテレビ番組でやってたな。
的の用意は人力に頼らざるを得ない。
回転率を良くする為に、的用のボードは5枚程度造っておく。
現在建設中のアトラクションは、改装中のアスレチック、迷路、スト○イク・アウトの3つ。
まだまだ少ないなぁ…
まぁ、まだ建設は始まったばかりだし、これから良いアイデアも出て来るだろう。
その日の話し合いを終え、私は夜の部の診療の為に治療院へと戻った。
夜の部の診療を終え、夕食の準備をしているとミラーナさんが愚痴る。
「はぁ~… なんでこうなったんだろ…」
「ん? 何の話ですか?」
何か拡張工事で問題でも起きたかな?
「なんでアタシがテーマパーク建設から外されるんだよ…」
当たり前だろうが。
『ロープ&丸太渡り』建設を指揮したは良いが、20mもの高さで造らせたのは誰だよ。
そんな落ちたら死ぬ様なモンを造らせるヤツ、外されて当然だろ。
「何を言ってるんですか!? ミラーナさんは危険極まりないアトラクションを造る指揮をしてたんですよ? 常識で考えて、外されない方が不思議です!」
「…アタシが楽しめたから、皆楽しめると思ったんだけどなぁ…」
まだ理解してないみたいだな。
「だから! 自分を基準に考えないで下さい! ミラーナさんの身体能力は、言っちゃ悪いとは思いませんけど異常なんですから!」
「いや! そこはせめて思ってくれよ!」
思えるワケ無かろうが。
本気を出したら蹴りだけでオーガの腕や脚の骨を粉砕可能な身体能力なんだろ。
アンタ、自分で言ってただろが。
「とにかく! 言いたくありますけど、ミラーナさんにはアトラクション建設から外れていて貰いますから!」
「それ、ありませんだと思うけど…」
私は無視して続ける。
「建設中の迷路にしたって、ミラーナさんの監修が入ったらトラップとか仕掛けられそうですし!」
「うっ…!」
『うっ…!』って…
やっぱり考えてただろ、アンタ…
「観光に来てくれた人に楽しんで貰うってのが目的なんです! 怪我するかも知れない、下手すりゃ死ぬかも知れないアトラクションを楽しめますか!?」
「あぅ…」
私に言われて意気消沈し、何も言い返せないミラーナさん。
悪いとは思わないが、観光客の安全を考えると、ミラーナさんをアトラクション建設に関わらせるのは可能な限り避けたいのが本音だ。
…………………………
…って、なんで私がこんな事で悩まにゃいかんのぢゃぁあああああいっ!!!!
私の本業は魔法医だぞ!?
なんで工事現場の現場監督みたいな事をやってんだ!?
仕方無いと言えば仕方無いのかも知れんけど!
なにしろ、この世界でテーマパークやアスレチックを知ってるのは私だけなんだからなぁ…
だからって魔法医と現場監督の掛け持ちなんか御免ぢゃいっ!
とは言え、掛け持ちせざるを得ないのが現状なんだよなぁ…
そんな事を考えながら食べた夕食で見た幻覚は、いつもより長く感じたのだった…
翌日の昼過ぎ、私は夕食後に思い付いたアイデアを図面にし、詳細をグランツさんに伝えるべく現場を訪れた。
「なるほど。急スピードでカーブする部分は外側の壁を大きくして転落を防止するのか。これも面白そうだ」
私が考えたのは、高さを3段階に分けた巨大滑り台だ。
度胸に合わせて10m、15m、20mから滑り降りる。
カーブの強さも、高くなるに連れてキツく複雑になる。
これなら子供から大人まで楽しめるだろう。
「グランツさん達も、何か良いアイデアがあったら聞かせて下さい。一緒に考えれば、まだまだ面白くなると思いますから」
「分かった。作業員達の中にも良いアイデアを出せるヤツが居るかも知れん。話しておくよ」
これで少しは私の負担が減るかな?
と、釘を刺すのを忘れちゃいけないな。
「これだけはハッキリ言っておきますけど、くれぐれもミラーナさんは絶対に関与させないで下さいね?」
「それは承知してるよ。前回の『ロープ&丸太渡り』、なんか変だとは思ってたんだ」
…思ってたんなら止めろよ…
「まぁ、ミラーナさんの事だから、強引に進めたんだとは思いますけどね。とにかく思考が極端なんですよ。本人は自身の身体能力の異常な高さも理解してませんし、自分が出来る事は誰でも出来ると思ってるのかも知れませんね」
「……………」
神妙な面持ちで黙り込むグランツさん。
「良く言えば謙虚なんでしょうけど、悪く言えば周りが見えていない… 違うな… 自分自身を知らない… かな?」
「……………」
ますます神妙な面持ちになるグランツさん。
何か言いたそうな気もするが…
「もう少し自分自身を知って欲しいですよね。結局、振り回されるのは…」
すぱぁああああああああんっ!!!!
ゴンッ
「あだっ!」
後頭部に衝撃が走ると同時に、私は額を机に打ち付けた。
なんなんだ、今のは!?
振り返ると、そこにはいつの間に来たのかミラーナさんが立っていた。
「エ・リ・カ・ちゃ~ん♪」
あの~…
笑顔ですけど眼が笑ってないし、こめかみに青筋が浮いてますよ?
「言いたい事を言ってくれてるねぇ~…?」
その手に持ったハリセン、以前のモノより2倍はデカいんですけど?
そんなモンで私の後頭部を?
「アタシだってさぁ、少しは反省してるんだからね?」
…少し… なんですね?
「なのに、そこまで言われちゃあ、憂さ晴らしのひとつもしたくなるってモンだね♪」
うん、今度は満面の笑みだな。
むしろ、そっちの方がコワいんですけど?
「じゃあ、今の一発で憂さ晴らしは…」
「うん♡ もう一発ってトコかな♡」
いや、♡ぢゃないから!
ずどぱぁあああああああああんっ!!!!
バキャァアアアアアアアッ!!!!
逃げようと立ち上がる私の後頭部に炸裂する、ミラーナさん渾身の一撃!
その衝撃は、私が顔面から突っ込んだ机を真っ二つにしたのだった。
うん、グランツさん…
アンタが神妙な面持ちで黙ってたのを理解したよ…
~追記~
ハリセンで殴られた後頭部と机に打ち付けた顔面のダメージを治す為に使った魔力は、骨折を治す魔力の10倍以上だった…




