第50話 大切な事をミラーナさんに任せるのは間違いですね
ロザミアの拡張工事とテーマパーク建設は順調に進んでいる様だ。
作業員の兄ちゃんやオジサン達が時々治療に訪れ、その際に様子を話してくれる。
アスレチックの丸太を立てたりロープを張るのが大変だとか。
…そんなに大変かな?
確かに、しっかり固定するのは大変だろうとは思うんだけど…
ちょっとミラーナさんに聞いてみるか。
「なかなかスリルがあって面白いよ♪ まだ転落防止ネットが無いから余計にね♪」
その日の夕食時、アスレチック建設の様子を聞いた答えがこれだった。
「スリル? まぁ、確かに丸太渡りは飛び移る時に失敗したら落ちるから、それなりにスリルはあるでしょうけど…」
でも、丸太渡りに転落防止ネットは要らないんじゃ…
落ちても水にドボンなだけだし…
「実際に見てみれば判るよ。次の休みにでも来てみたらどうだい?」
…気になるし、行ってみるか。
休診日、私はミリアさんとモーリィさんを誘って一緒に見に行く事にした。
2人も興味津々だったしな。
「どんなのを造ってるのかな?」
「楽しみだよねぇ♪」
2人は楽しそうだが、なんだか不安なんだよなぁ…
高い壁に囲まれた建設現場の入り口でミラーナさんが待ってくれている。
「2人も来てくれたんだね? 良い機会だから、2人も『丸太&ロープ渡り』を試してみてくれないかな?」
「良いんですか? 是非、やってみたいです♪」
「私も、私も♪」
2人は無邪気にはしゃいでるが、私は嫌な予感しかしない。
…だってミラーナさんの監修だぞ?
絶対に何か勘違いしてるに決まってるしな…
「私は遠慮しておきます」
意外そうな顔をするミリアさんとモーリィさん。
「エリカちゃん、やらないの?」
「楽しそうだと思うんだけどねぇ」
いや、ミラーナさんの監修だからな…
「まぁ、見てからですね」
そして私達はミラーナさんに案内されて壁のドアを潜り、工事現場の中へ入る。
奥にも高い壁があり、その中でテーマパークと言うかアスレチックの建設をしてる様だ。
ミラーナさんはドアの前で止まり、ニッと笑う。
「まだ『丸太&ロープ渡り』しか無いけどさ、見たら驚くと思うよ?」
言いつつドアを開け、私達は中へ入る。
うん、なるほどね…
丸太渡りに使われてる丸太自体、1人の人間が乗るのに充分な太さがあるので問題は無い。
丸太同士の距離もジャンプする必要はあるものの、無理する必要のある距離では無い。
子供でも大丈夫そうだ。
私が予め説明していた通り、下には水が張られており、深さも1mあるかどうかと深過ぎず浅過ぎず。
丸太渡りの前後で休める様に、そこそこ広い休憩スペースが設けられている。
気が効いているな。
丸太渡りに繋がる、前後のロープ渡りも良い感じだ。
最初のロープ渡りは上下2本のロープを使う。
上のロープを手で掴み、下のロープに足を乗せて渡る。
上下のロープは適度な所で縦のロープが繋いである。
大人用と子供用に分かれており、それぞれ掴み易い太さになっているのも良いだろう。
丸太渡り後のロープ渡りは、太めのロープを使ったネット状になっている。
ロープの上を歩くのは難しいが、腹這い状態なら落ちる心配も無く簡単に渡れる。
ロープ渡り→丸太渡り→ロープ渡りだから、太めのロープと簡単な内容ってトコか。
そして最後は滑り台。
何も問題は無いな。
高さ以外は…
ミラーナさんはドヤり顔。
ミリアさんとモーリィさんは…
…固まってるな。
当然だろ…
何なんだよ、この高さが20mは在るロープ渡りと丸太渡りは…
下に張った深さ1mあるかどうかの水なんて、何の役にも立たね~だろ…
落ちたら確実に死ぬぞ?
そりゃ、丸太を立てるのが大変だって作業員が言うのも当然だよ…
良かった、見てからにするって言っといて♪
ノリノリでやってみたいって言ってた2人は…
うん、顔面蒼白だな。
「さぁ! ミリアさんにモーリィさん、遠慮しないで試してくれ♪」
ミラーナさん、アンタには常識的な思考ってモンが無いんかい?
こ~ゆ~アトラクションってのは、高さは水面から1m程度で良いんだよ?
まぁ、ミラーナさんの監修で造ってる作業員が、このアトラクションに疑問を感じなかったのかって問題もあるけど…
「ミ… ミラーナさん、私達は… その~… ねぇ?」
「そうそう! さすがに… これはちょっと…」
だよなぁ…
2人共顔面蒼白を通り越して、顔色が緑色になってるぞ…
「さあさあ♪ 遠慮なんかしないで♪ さっきはノリノリだったじゃんか♪ アタシだって平気だったんだよ? 大丈夫だって♪」
ミラーナさん…
アンタを基準にするなよ…
「私達は…」
「やっぱり…」
2人は後退り…
「「遠慮しま~す!!!!」」
やっぱり逃げたか…
仕方無いなぁ…
「ミラーナさぁ~ん♪」
「へっ?」
すぱぁあああああんっ!!!!
振り返ったミラーナさんの顔面に、必殺のハリセン・チョップが炸裂する。
「自分を基準にするんじゃありません!」
「な… なんで!? 楽しいじゃんか!」
さすがに顔面への一撃は効いたのか、地面にへたり込んで涙目になってるミラーナさん。
「常識で考えて下さい! 確かにアトラクション自体は完璧と言っても良いです! けど、この高さは何なんですか! 落ちたら確実に死ぬでしょうがっ!!!!」
この女には常識が無いんかいっ!
「死なないだろぉ? 転落防止ネットだって張る予定なんだから…」
すぱぁあああああんっ!!!!
再度炸裂するハリセン・チョップ。
「その考え自体が間違ってるんです! そもそも、このアトラクションに転落防止ネットなんか必要ありません! 落ちても水に濡れる程度で充分です! 高さを水面から50cm~1m程度で造り直して下さい!」
「えぇ~っ!? それじゃスリルが無くなるじゃんか!」
まだ解らんのかいっ!
「失敗したら水に落ちるかも知れないってだけで充分スリルです! これから造る予定のアトラクション、まさかと思いますけど失敗したら死ぬ様な施設じゃないでしょうね!?」
「!!!!?」
硬直するミラーナさん。
…やっぱりかい…
「詳細を記した書類、ありますよねぇ? 全部見せて貰いましょうか? 危険な部分は全部訂正させて貰いますから♪」
「えっ? いや… それは…」
怪我人が出る、下手すりゃ死人が出る様なアトラクションは絶対に造らせないからな!
私は渋るミラーナさんからアトラクションの建造計画書を強引に奪い取り、徹底的に吟味した。
調査の結果、全てのアトラクションがミラーナさん基準になっており、普通の人がチャレンジ出来ない仕様になっていた事が判明。
その後、一応の工事が完了している『丸太&ロープ渡り』以外、全て建設中止になった。
勿論、当然の様に全てのアトラクションを私が監修する事になり、私の日常は忙しさを増す事になったのだった。




