第49話 結局、酷い目に会うのは私です…
あれから私は毎日グッタリした状態で目を覚ます。
仕方無いだろ、毎晩ミラーナさんに全身洗われてんだから…
なんかミラーナさんは私を洗う事が楽しくなったらしく、毎日夕食が終わるとソワソワし始めやがるんだよ。
で、風呂の時間になると私をバスルームへ引き摺って行き、私は抵抗虚しく全身を洗われる…
女性と風呂に入るのは男の精神では嬉しいが、身体を洗われるのは勘弁して欲しい。
え?
全身洗われるのは嬉しいだろうって?
前世は24歳──当時──で死ぬまで女性経験皆無だったんだっ!
そんな私にはハードルが高過ぎるんだよっ!
そんなワケで私は毎晩グッタリしてベッドに潜り込み、グッタリした状態で朝を迎えるんだよ…
「エリカちゃん。最近、様子が変よ?」
「何かあったの?」
休診日、いつもの様にミリアさん&モーリィさんと昼食を食べていると、元気の無い私に2人が聞いてきた。
「ここしばらく、毎晩ミラーナさんとお風呂に入ってるんです…」
隠すより正直に話そう。
「ミラーナさんと?」
「それが何か関係あんの?」
私は溜め息を吐く。
「関係大アリですよ。全身をミラーナさんに洗われまくってるんですから…」
2人は顔を見合せ…
「それは大変な気が…」
「ラクで良いじゃん♪」
こらっ、モーリィ!
アンタは女だから解らんだろうが、女性経験0の男──精神──が若い女性に全身を洗われるんだぞ!
どれだけ恥ずかしいと思ってんだよ!
言えんけど!
「大丈夫?」
「なんでテーブルに突っ伏してんだろ?」
アンタのせいやんかっ!
アンタのっ!
「疲れるんですよぉ~… 自分のペースで洗いたいのにぃ~…」
私はやっとの事で言葉を絞り出す。
1日の疲れを取る場所で更に疲れてどうするんだよ…
「そっかぁ… お風呂のペースなんて、人それぞれだしねぇ」
「他人に洗われちゃ、ペースが狂っちゃうかw」
笑い事ぢゃ無えよ…
「なんとかなりませんかねぇ…」
「無理よ」
「無理ね」
をいっ!
何も考えんで言うな!
「だって、ミラーナさんだもんねぇ?」
「だよね。ミラーナさんが飽きるまで我慢するしかないよねぇ」
それしか無いのかよぉおおおっ!!!!
アンタ等もミラーナさんと一緒に風呂入って洗われてみろ!
…いや、ダメだ…
ミラーナさんにそそのかされて、3人掛かりで私が洗われるのがオチだ…
私はなんとか言葉を呑み込んだ。
2人と別れた後、私は商店街をブラブラしながら考える。
やっぱりモーリィさんの言う通り、ミラーナさんが飽きるまで我慢するしかないのかなぁ?
いやいや!
毎日グッタリするまで洗われて、グッタリした状態で寝て、グッタリした状態で起きて、グッタリした状態で診療しちゃ、誤診や治療ミスが起きても不思議じゃないっ!
私1人の問題なら我慢すれば良いかも知れないが、患者さんに迷惑は掛けられん!
早急に対策を考えねば!
考えろ!
考えるんだ、エリカ!
なんか違う気がする…
いやいや、余計な事を考えずに考えねば!
あぁ~っ!
思考がループしてるぅうううううううううううううううううっ!!!!
へるぷみぃいいいいいいいいいいっ!!!!
…なんか覚えが…
って、違うっ!!!!
「エリカちゃん… 何を悶えてるんだ?」
あぁっ、マークさんに見られてたっ!!!!
…いや、天の助けかもっ!!!!
私は藁にも縋る思いでマークさんに相談した。
「相変わらず難儀な人だな、ミラーナさんはw」
アンタも笑うんかい…
「まぁ、エリカちゃんの悩みは解った。なんとかしてみよう。2~3時間したらミラーナさんにギルドへ来る様、言ってくれ。そんなに長くはないが、しばらくエリカちゃんを解放してやれると思う」
ををっ!
マークさん、アンタが神様に見えるよ♡
上手く行けば、マーク様と呼んでも良いかも知れん!
心の中でだけど♡
私は意気揚々と治療院へ戻り、頃合いを見計らってマークさんが呼んでいた事をミラーナさんに伝えた。
「へぇ~、わざわざマークさんがねぇ。何か良い依頼でも入ったかな?」
そう言ってミラーナさんは嬉しそうにギルドへ向かった。
頼む!
半月か、せめて10日でも良い!
私をミラーナさんから解放してくれ!
しばらくして戻って来たミラーナさんから聞いた話は、私の期待以上のモノだった。
「大きな討伐依頼が入ったよ♪ ニュールンブリンクの大森林で魔物が異常発生してるって噂が多く入ってるらしいから、調査する事になったんだって♪ 事実なら、そのまま魔物討伐だ♪ しばらく帰って来れないけど、本当なら久し振りに暴れられるな♪」
完璧だよ、マーク様♡
その夜は、当分会えなくなるかもって普段より念入りに洗われたけど、しばらく解放されるから我慢する事にした。
いつもより疲れたけど…
そしてミラーナさんがパーティーを組んで調査に行った結果、魔物の異常発生が事実だと判り、私は1ヶ月程ミラーナさんから解放されたのだった。
~追記~
魔物討伐を終えて戻って来たミラーナさんは、討伐の間私を洗えなかった欲求不満を解消するからと言って、3時間以上も私を洗いまくったのだった。
恨むぞ、マークのバカ野郎!




