第45話 戻った日常と○ケモンのミラーナ
二日酔いの兄ちゃん達を朝の部で治療し、昼食を終えた私は国王一家に手紙を書いていた。
「それにしても、なんでマインバーグ伯爵は街の外までしか来なかったんだ?」
ミラーナさんが聞く。
「さぁ… 理由は聞きませんでしたけど」
まぁ、私も気になるけど…
「せっかく久し振りに手合わせしてやろうと思ってたのになぁ」
…それだよ、原因は…
逃げたんだな、ミラーナさんから…
伯爵の事を考えると口には出せんけど…
「まぁ、また社交シーズンに会えるじゃないですか。その時を楽しみにしてたらどうですか?」
「そうだなぁ、そうするか」
ゴメン、伯爵…
頼むから耐えてくれ…
手紙を書き終えた私は、定期馬車の発着場へ出しに行く。
ミラーナさんは魔法医達の見張りで鈍ってるからと、依頼を探しにギルドへ向かった。
件の魔法医達は、逃げる様に定期馬車で王都へと帰って行った。
手紙を出した私は、久し振りにロザミアの街中を散策する。
王都へ行く前と変わらない雰囲気。
まぁ、50日しか経ってないんだから、変わってなくて当然だけどね。
それでもやっぱり落ち着くなぁ♡
15時前に腹ごしらえをし、夜の部の診療に備える。
16時から診療開始。
相変わらず怪我人は多いが、ロザミアでの日常が戻ってきた事を実感するなぁ♪
診療が終わってしばらくすると、ミラーナさんが帰って来る。
「あ~、久々に身体を動かしたよ♪ やっぱ、こうでなきゃな♪」
満足そうな笑顔だなぁ。
身体を動かしたいミラーナさんには、魔法医達の見張りは退屈だったんだろうな。
「お疲れさまです。良い依頼はありましたか?」
「あぁ、ニュールンブリンクの大森林でオーガ退治さ。大暴れしてやったよ♪」
…想像するのがコワいんですけど…
「今回は大掛かりだったな。10匹以上のオーガの群れが相手だったよ」
10匹以上って…
それじゃあ、さすがのミラーナさんでも1人じゃ無理だろうな。
「だから、さすがに今回は10人で出掛けたよ」
へ~、10人で…
って…
たったの10人!?
10匹以上のオーガ相手に!?
「9人を3人ずつに分けて、それぞれ1匹ずつ当たらせたよ。で、残りはアタシ1人で斬りまくってやった♪」
ををゐっ!!!!
オーガの群れだろ!?
正確には何匹居たのか知らんけど、3匹を任せて残りを1人で斬りまくっただぁあああっ???
「ちょっと多かったけどな。でも、良い運動になったよ♪」
ちょっとぢゃねぇだろ、おい…
まぁ、ミラーナさんだからなぁ…
この女こそバ○モンだよ…
─────────────────
「ところでさ、聞きたいんだけど…」
夕食が終わり、くつろいでいるとミラーナさんが質問してくる。
「王都はどうだった? 皆元気だったと思うけど、様子が聞きたいな♪」
やっぱり家族の事は気になるのかな?
私は国王一家の様子、王都での出来事、言いたかないけど風呂の事も話した。
「ぷははははっ♪ エリカちゃん、大変だったなぁ♪ あいつ等、はしゃぎ過ぎだろ♪」
「そうなんですよねぇ… 最終日なんて、後ろから王妃様、左右はキャサリン様とロザンヌ様から挟まれた状態で全身洗われて…」
逃げようが無かったんだよね…
「ふ~ん… で、フェルナンドは?」
うっ…
「フェルナンドは何処に居たんだい?」
ミラーナさんは、意地の悪そうな笑顔でジーッと見詰める。
判ってて聞いてんじゃないだろうな…
「…面…」
「んっ?」
「正面ですよ! フェルナンド様には正面から洗われたんです! もうっ! メチャクチャ恥ずかしかったんですからっ!!!!」
私は目を閉じ、真っ赤──多分──になってヤケクソで叫ぶ。
………………………………
しばらくして目を開けると…
あ…
ミラーナさん、全身震わせながらソファーに突っ伏してる…
そんなに笑うなよ…
「まぁ、あいつ等には歳の近い友人が王都に居ないんだ。許してやってくれよ」
ミラーナさんは、クスクス笑いながら言う。
そう言えば、マインバーグ伯爵も同じ事を言ってたな。
「一応、貴族連中の子供の中には歳の近いのも居るんだけどさ、社交シーズン以外は領地に居るから滅多に会えないんだよ」
なるほど、そういう事か。
私もミラーナさんに気になってた事を聞く。
「ところでミラーナさん。話は変わりますけど、どうやって多くのオーガを倒したんですか? 特に相手の攻撃の防ぎ方なんですけど…」
ミラーナさん、盾なんて持ってないし…
「あぁ、これだよ」
ミラーナさんは立ち上がって右掌を突き出す。
ヴンッ
掌を中心に、光の盾が出現する。
ををっ!
某アニメのA○フィールドみたいだ!
「これが結構、役に立つんだ。触ってみな♪」
平気なのか?
私は恐る恐る触ってみる。
ブニュッ
柔らかい?
いや、意外と弾力がある様な…
「これで衝撃を吸収するんだ。思いっ切り殴るか蹴るかしてみな♪」
じゃあ蹴ってみるか。
これでも医科大学時代にキックボクシングを習ってたんだ。
まぁ、運動不足解消が目的だったけど…
私は構えて蹴りを放つ。
ブギュッ
良い感じで蹴れたけど、ミラーナさんは微動だにしない。
「どうだい?」
「凄いですね。結構、自信あったんですけど…」
これって私にも使えるかな?
教えてくれると良いんだけど…
「エリカちゃんの蹴りも良かったよ。ただ…」
ただ?
何だろ?
「白…」
「はっ?」
「いや… パンツ見えたから…」
見えたんかいっ!!!!
「あのねぇ…」
「あはは、まあまあ。教えてあげるから許してよ♪」
女同士──一応──だし、教えてくれるなら良いけど…
ミラーナさんからレクチャーを受け、試してみる。
ヴンッ
出来たっ!
「さすがだなぁ♪ ちょっと教えただけで出来るなんて♪」
まぁ、どんな魔法でも使えるからな♪
「じゃあミラーナさん、蹴ってみて下さい♪」
言いつつ私は○Tフィールドを構える。
「じゃあ軽くな」
ブギュッ
ミラーナさんの蹴りを受け止める。
勿論、私は微動だにしない。
「これならエリカちゃんもオーガと戦えるかな?」
「じゃ、思いっ切り蹴っても良いですよ♪」
「へっ? 大丈夫かな…」
ミラーナさんの不穏な一言…
次の瞬間…
ドオンッ
どんがらがっしゃぁあああああああんっ
私は大きく吹き飛び、崩れた家具に埋もれていた。
「ミラーナさんの嘘吐きぃいいいいいっ!!!!」
「いや… だって、アタシの蹴りって… 本気出したら一撃でオーガの脚の骨ぐらいは粉砕するから…」
そ~ゆ~事は先に言えぇええええええっ!!!!
てか、何なんだ?
蹴りでオーガの脚の骨を粉砕する?
アンタ、マジでバケ○ンだよっ!!!!
その日、私は初めて自身の打撲や擦り傷を治療したのだった。




