第41話 やっぱり私の責任ですよね?
あれから3日間、私は必死の思いでフェルナンド様を説得し続けた。
その甲斐あってか、ようやくフェルナンド様は私を妃だか側室だかにするのは諦めてくれた様だ。
ある意味、純粋なんだろうけど…
その代わり、今度は貴族達やその家族が身体の不調を治して欲しいとやって来る。
まぁ、腰痛だの白内障だの、加齢から来る症状が大半だったが…
中には王宮で働く人達も居た。
私が侍女さんと廊下を歩いてる時ヒソヒソ話してたのは、治療を期待しての事だったのか…
治療に訪れた全員を治し、私は王妃様達と一息ついていた。
「エリカちゃん、お疲れ様♪」
「あんなに大勢、大変だったでしょう?」
「エリカお姉ちゃん、凄いね!」
初めて私の診療を見たワケだから、驚くのも無理はないな。
魔力枯渇する事も無く、簡単に全員を治療したんだから。
「本当に、いろんな面を持っているのね♪ 先日は笑… 楽しませてくれたし♡」
今、笑わせてくれたって言いかけたろ!
笑わせたくて笑わせたんじゃないわいっ!
言えんけど!
「あ… はは… は…」
もう、乾いた笑いも出んわ…
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王都滞在も予定の日数が残り半分になり、王宮ばかりでは息が詰まると言う事で街を散策する事にした。
勿論、ハッキリ『息が詰まる』とは言えない。
言えるワケ無かろうが!
気分転換って事で納得して貰った。
まぁ、護衛が付くのは仕方が無い。
さすがに5人は多い気もするが…
街の人が警戒しても楽しくないので、護衛の人達には少し離れて付いて来て貰う。
また、騎士姿だとバレバレなので、普段着に着替えて貰った。
誰にも気を使う事なく、のんびりと王都の街を歩く。
さすがにロザミアとは違って穏やかな雰囲気で人も多い。
全てとは言わないが、ロザミアはハンターが多いだけに、ここよりは殺伐とした雰囲気があるからなぁ。
商店街は更に人出が多い。
しかし、さっきから視線を感じるのは気の所為だろうか?
私の方を見る人がヒソヒソ話してる気もする。
嫌な予感…
商店に陳列されている品を見るフリをして護衛の人達を確認すると…
ご… 5人集まって護衛してやがる…
アホかい!
5人もの男達が集まって私に注目しながら付いて来てたら、下手すりゃ私を誘拐しようと画策してる連中かと思われるわっ!
私は適当な商店に入り、護衛の1人を手招きする。
「エリカ様、どう…」
私は口に人差し指を当て、静かにするよう合図する。
(どうかしましたか?)
気付いてないんかいっ!
(全員が集まってどうするんですか! 街の人に注目されてます! 私を誘拐しようとしてると思われてるかも知れません! もっとバラけて下さい!)
(な、なるほど… では!)
言って彼は戻り、他の護衛に説明すると全員がバラけて行った。
ホッ…
これなら大丈夫だろう。
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おかしい…
護衛は確かにバラけている。
なのに私を注目する視線が減っている感じがしないし、ヒソヒソ話してる様子も変わらない。
子供が1人で歩いてるからか?
…いや、私以外にも1人で歩いてる子供は多く居る。
服装か?
…これも、その辺の女の子と変わりない。
どういう事だ?
「ねぇ、ちょっと良い?」
考えていると、1人の若い女性が声を掛けて来た。
「はい… 何でしょう…?」
ん?
腕を吊ってるな。
怪我でもしてるのか?
「もしかして貴女の名前、エリカ・ホプキンス?」
おずおずと聞いてくる女性。
なんなんだ?
「はい… そうですけど…」
すると女性の表情がパァッと明るくなる。
なんだ!?
「やっぱり! 皆! この子が噂のエリカ・ホプキンス魔法医よ!!!!」
う… 噂のって…
なんだ、なんだ、なんだっ!?
私の元へ一斉に駆け寄る街の人達。
あ… 護衛の人達、踏み潰されてる…
「なんなんですか、これはっ!!!!」
「貴女がヴィランに来るって聞いて、皆待ってたのよ!」
へっ?
どゆ事?
ど~ゆ~事!?
「掛かり付けの魔法医が貴女の代わりにロザミアに行っちゃって困ってたの! お願い! 肘の骨折治して!」
「頼む! 俺は膝が曲がらなくなっちまったんだ! 治してくれないか!?」
「ワシは最近、息苦しくてたまらん。ゴホゴホッ… 診てくれんか? ゴホッ…」
…これは…
間違い無く、私が王都に来た影響だな…
さすがに放ってはおくワケにはいかない。
私は倒れたままの護衛の1人を叩き起こし、胸ぐらを掴んで指示を出す。
「今すぐ街の広場に診療所を用意して下さい! 簡易テントでも何でも構いません! 出来るだけ早く!」
「わ… 解りました! おいっ、お前等立てっ! 中央広場にテントで診療所を建てるんだ! 急げ!」
言われて残りの4人は走り出す。
「エリカ様に治療して欲しい者は中央広場に行くんだ! 知り合いに怪我人や病人が居れば、声を掛けて連れて行け!」
てきぱきと指示を出す護衛の兄ちゃん。
リーダーだったのかな?
「エリカ様、私に付いて来て下さい! 中央広場まで案内致します!」
「お願いします!」
言いつつ2人で歩き出す。
その後を付いて来る街の人達。
知り合いを呼びに行く人も居る。
よ~し、ちょっと気合いを入れるとするか!
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中央広場に着くが、まだテントは無い。
だが、テントの完成を待ってるつもりはない。
治療を希望する人を1列に並ばせ、順に治療を開始する。
20人程の治療を終えた頃、ようやくテントの資材が運ばれて来た。
私は治療を続け、その周りでテントの建設が始まる。
やがてテントが完成し、護衛の兄ちゃん達に患者の整理をして貰う。
重傷病者を優先して治療し、状況次第では軽傷病者は翌日以降に治療する事を周知する。
もう、何人治療したのか…
私の魔力は尽きる事は無いが、さすがに体力・精神力は消耗する。
どれだけの人数を治療したのか… さすがに限界が来た様だ。
「今日は… ここまでに… します… 続きは明日の… 9時から… 待ってる… 患者さんに… 伝えて… 私を… 王宮… に…」
そこまで言って、私は意識を失った。
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気が付いて目を開けると、そこには心配そうに私を見詰める国王一家の姿があった。
「おぉ、エリカ殿! 気が付いたか! まったく、無茶をしおって…」
「エリカちゃん。頑張りましたね…」
国王、王妃の両陛下が声を掛けてくる。
「エリカちゃん、大丈夫ですか?」
「私、感動しました! でも、無理してはいけませんよ?」
2人の王女様達も心配してくれている。
「エリカお姉ちゃん! やっぱり、お姉ちゃんは凄いよ!」
フェルナンド様は素直に褒めてくれる。
なんか嬉しいな♪
これなら、明日も頑張れそうだ。
「報告を聞いた時は肝を冷したぞ…」
ん?
そうなのか?
「まさか350人以上も治療するとは… 人間業では無いな…」
へっ?
そんなに治療してたのか?
無我夢中で何も考えてなかったけど…
「これではロザミアに派遣した魔法医達も立つ瀬が無いだろうな。今日の治療を受けられなかった者も、誰1人として文句を言わなかったそうだ。明日は確実に治して貰えると期待しているのであろう」
…やり過ぎたか?
でも、放ってはおけなかったし…
「明日に備えて、今夜はゆっくりね? 私達が全部、お世話してあげるから♪」
ん?
「エリカちゃん、私達に任せてね♡」
んんっ?
「何も考えなくて良いですからね?」
あの~、それってどういう…
「僕もエリカお姉ちゃんのお世話するね♡」
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私はその後、食事は王妃様やフェルナンド様、2人の王女様達に食べさせて貰い、更には風呂まで世話して貰ったのだった。
~追記~
私の精神は確かに男だ。
だから、女性陣と一緒の風呂は素直に嬉しい♡
しかぁ~し!
見た目は女の子なんだから、せめてフェルナンド様は一緒に入らせるなぁあああああああっ!!!!