第40話 王都滞在、初日は1日バタバタです ~後編~
いよいよパーティーの時間。
私は昼間のドレスで会場に入る。
「ほぅ…」
「これは中々…」
「ドレス姿も愛らしい…」
あんまり見ないで欲しいなぁ…
着慣れてないから気恥ずかしい…
精神的には男だし…
国王陛下が舞台(?)の上に立ち、私は舞台(?)の下で陛下の前に立つ。
「さぁ、皆の者。今宵のパーティーは気軽な立食形式だ」
会場内にテーブルは在るが、朝と違って丸テーブルだ。
朝のテーブルと椅子は何処かに片付けられている。
左右の壁際には様々な料理と酒類、ジュースがズラリと並んでいる。
「好きに食べ、飲み、エリカ殿との会話を楽しもうではないか!」
こうしてパーティーは始まった。
次から次へと挨拶に来る貴族達。
ズラリと並んでいるな…
これ、全員並んでんじゃないのか?
「お初にお目に掛かる。私はロザミアからは東へ馬車で…」
「いやいや、朝は凛々しい姿であったが、ドレスも良く似合っておりますな」
「私にも8歳の娘がおりましてな。エリカ殿とは歳も近いのでは…」
等々…
お偉いさんが次々と来るので気を抜く暇が無い。
挨拶を終えた貴族達は、料理を取りに離れて行く。
私は全ての貴族達が挨拶を終えるまで動けない。
腹減ったなぁ~…
パーティーが始まって1時間弱。
やっと挨拶が終わり、私は料理を取りに向かう。
「エリカちゃん、大変だったわね。さ、食べなさい♪」
王妃様が優しく言ってくれる。
「ありがとうございます。では、遠慮無く」
言って私は料理を皿に取る。
朝よりは料理の味を楽しめそうだ。
「ん~、美味しい♡」
さすが王宮の料理♪
星3つ… いやいや、星5つかも♪
貴族達は国王陛下や王妃様、王女や王太子と話したり、貴族同士で話している。
時折、私の所にも話しに来る。
先程の挨拶と違い、話し込む貴族も多い。
やっぱり気が抜けん。
私の噂を聞き、とんでもない事を言い出さないか不安で仕方が無い。
勿論、魔法医として誰かの病気や怪我を治して欲しいってんなら、いくらでも治すけど…
「エリカちゃん、どうしたの?」
私の不安を察してか、第2王女様が声を掛けてくる。
「いや~、なかなか緊張が解けなくて…」
「ふ~ん…」
少し腰を屈め、私の顔を覗き込む。
キャサリン様は少し考えたかと思うと、私の手を取り歩き出す。
「それじゃ、あっちに行きましょ♪」
言うが早いか、キャサリン様は私の手を取り引っ張っていく。
連れて行かれた先には第3王女様と王太子様が居た。
「私達と一緒なら、貴族達との会話で緊張する事も無いでしょう?」
確かに。
昼間に打ち解けたから、気楽に過ごせるかも。
「あ、お姉様。エリカちゃんを連れて来て下さったんですね?」
「エリカお姉ちゃん、来てくれたんだ…」
そう、フェルナンド様からは、昼に打ち解けてから『エリカお姉ちゃん』と呼ばれている。
王女2人と比べてシャイなのか、あまり積極的に話さないけど…
「エリカちゃん、貴族達に囲まれて緊張してたから連れて来ちゃった♪」
キャサリン様、ナイスですよ♪
「そうだったんですね? エリカちゃん、私達といれば貴族達も遠慮しますわ♪」
だろうな。
王族が話してるのに割り込む度胸は無いだろう。
「エリカお姉ちゃん、やっぱり可愛い…」
「あはは、ありがとうございます。フェルナンド殿下もステキですよ♡」
フェルナンド様はパーティー用の正装だ。
ちなみに2人の王女はパーティー用のドレスを着ている。
ステキだと言われて照れているのか、フェルナンド様の顔が少し赤くなる。
私はやっとリラックスし、3人と料理を食べながら会話を楽しむ。
やはりフェルナンド様はシャイなのか、時々ボソッと話したり独り言を言う程度。
その独り言も、声量が小さくて聞こえない。
そんなフェルナンド様に、キャサリン様とロザンヌ様が声を掛ける。
「フェルナンド? どうしたのですか?」
「そうですよ? 普段はもっと元気ですよ?」
シャイなんじゃなくて、普段と様子が違っていたのか…
なら…
「フェルナンド殿下? 伝えたい事がかあるなら、ハッキリ言わないと伝わりませんよ?」
フェルナンド様は目を見開く。
そして、意を決したかの様に私を見据え…
「エリカお姉ちゃん。お姉ちゃんは平民なんだよね?」
と、聞いてきた。
もしかして、気にしてたのか?
「えぇ。私は貴族でも何でもなく、ただの平民ですよ?」
「平民でも貴族、場合に依っては王族と結婚する事もあるって本で読んだんだけど…」
…あぁ、物語や小説のサクセス・ストーリーなんかでは定番の話だな。
「エリカお姉ちゃんは、平民が王族や貴族と結婚する事をどう思う?」
現実の自分では考えられないのかな?
「う~ん、お互いに好き同士なら良いんじゃないですか? 身分の違いを気にするなら、平民の方が貴族の養子や養女になってから結婚するって方法もありますしねぇ…」
その場合、元の身分は無かった事にするのがお約束だしな。
「ふ~ん。だったら僕も平民と結婚できるかも知れないんだね?」
お?
誰か平民に気になる娘が居るのかな?
「フェルナンド? 貴方は王太子で、将来は国王になるのですよ!?」
「そうですよ!? いくら何でも国王の妃が平民というのは…」
そうなるよなぁ…
前世では、昭和以降の皇室は平民と婚姻を結んでたけど。
さすがにここでは言えんが…
「あ、でも…」
「お姉様、何か?」
どうやらキャサリン様は気付いた様だな。
「公爵家や侯爵家、最低でも伯爵家の養女になれば…」
まぁ、王族や貴族達が認めればだけどね。
「そうしたら、僕も平民と結婚できるんですね!?」
嬉しそうだな。
やっぱり平民の中に気になる娘でも居るんだろうな。
フェルナンド様は私の方を向く。
「エリカお姉ちゃん!」
「はい♡」
私はニッコリと微笑む。
「僕が成人したら妃になって下さい!!!!」
「はい…?」
……………………………………
「「「えぇえええええええええっ!!!!」」」
会場内の全ての人が叫ぶ。
勿論、私も。
どゆ事!?
ど~ゆ~事!?
「最低でも伯爵家の養女になれば良いんだよね? なら、仲の良いマインバーグ伯爵の養女になったら大丈夫だよね!?」
「いや… あの…」
誰か助けてくれぇええええっ!!!!
こ、国王陛下は!?
ダメだ、目を丸くして固まってる。
王女様達は!?
あ、2人共固まってる。
なら、王妃様は!?
あ、顔を扇で隠して笑いを堪えてる。
ええい、仕方が無い!
「フェルナンド殿下、お気持ちは大変嬉しゅうございます」
「じゃあ♪」
私は手をフェルナンド様に向けて制する。
「ですが、お受けする事は不可能です」
「えっ? どうして!?」
私はズバリ言う。
「こう見えて私は25歳です。殿下より20歳も歳上なんです」
「…えっ? ミラーナ姉上より… 歳上?」
殿下は固まり、貴族達もざわつき始める。
「加えて私は不老不死です。殿下が成人しても、私の姿は変わりません。勿論、殿下が歳を重ねて国王と成られても、私の姿は子供のままです」
「……………」
理解してくれたかな?
「ですので… 殿下の気持ちは有り難く受け取らせて頂きますが、その気持ちに応える事だけは出来ませんので… 申し訳ありませんが、ご了承願います」
「そうなんだ… 解ったよ…」
良かった、理解してくれたか。
ちょっぴり落ち込んでるのは可哀想だが、私は誰とも結婚なんてする気は無いからな。
「でも、側室なら大丈夫だよね!?」
へっ?
側室?
「父上には側室は居ないけど、お爺様には3人も側室が居るんだ! だから僕が成人して妃を持てる様になったら側室に成ってよ! お願い!!!!」
「いや、ちょっ! それは!」
嫌じゃあぁあああああああっ!!!!
なんでそうなるんだぁあああっ!!!!
てか、側室の意味を知ってて言っとるんかいっ!!!!
私は唖然とする貴族達の中を、追い掛け回すフェルナンド様から必死で逃げ続けた。
ちなみに国王陛下や王女様達は固まったままで、王妃様はテーブルに突っ伏して笑いを必死に堪えていた。




