第39話 王都滞在、初日は1日バタバタです ~前編~
王都で向かえる初めての朝。
私は普段通り7時に目を覚ました。
歯を磨いて顔を洗い、用意しておいた服に着替える。
貴族風… とまでは言わないが、それなりに良いトコのお嬢ちゃん風の正装だ。
ボトムスは細身のパンツルックで、裾をロングブーツに入れている。
いくらなんでも、朝からパーティーとは考えられないからな。
コンコンコン
着替えて少しするとドアがノックされ、侍女さんだかメイドさんだかの声がする。
「エリカ様、朝食の用意が調いました。パーティー会場まで、ご案内致します」
…………マジか…………
私は慌ててドアを開ける。
そこには昨夜部屋まで案内してくれた侍女さんが居た。
「朝からパーティーですか!? じゃ、この格好だと…」
もしかして、ドレスに着替えにゃならんのかいっ!!!!
「あら、可愛い♡ …じゃなくて、そのままの服装でも大丈夫でございますよ? パーティーは夜に行いますが、今回はパーティー会場での朝食を兼ねたエリカ様の紹介でございます」
あ、なんだ…
私の紹介だったか…
って、誰に!?
「だ、誰に紹介するんですか!? 国王陛下になら、昨夜会いましたけど!?」
「王妃陛下ならびに子女の皆様、そして王都に滞在中の貴族の皆様でございます」
あぁ、だからパーティー会場なのか…
王族だけなら専用の食堂とかが在るだろうから、そこで構わないだろうけど…
貴族にも紹介するとなると、さすがに手狭なのかも知れないな…
私は侍女さんの先導でパーティー会場へと向かう。
その道すがら、王宮で働く人達が私を見てヒソヒソ話してるのが気になる…
会場に着くと、奥の舞台(?)の上には国王一家が並んでテーブルの前に立っている。
その手前には左右に2列ずつ、内側を向いた貴族達がテーブルに並んでいる。
「失礼致します。エリカ様をお連れ致しました」
言って侍女さんが一礼。
私もそれに倣い…
「エリカ・ホプキンスと申します。皆様、どうぞお見知り置きを」
カーテシーで挨拶する。
こんなに大勢のお偉いさん達の前、メチャクチャ緊張するんですけど…
パッと見た感じでも50人近くは居るんじゃないのか?
「うむ、大儀である。ささ、エリカ殿はこちらへ。中央を歩いても構わぬ」
国王陛下に促され、貴族達の見つめる中を舞台(?)に向かって歩く。
視線が痛い…
舞台(?)中央の小さな階段を昇り、陛下の前で一礼。
陛下が小さく手で合図するので貴族達の方へ振り返る。
「皆の者。こちらが噂の魔法医、エリカ・ホプキンスである」
う… 噂のって…
「本来なら今宵のパーティーで紹介するつもりであったが、パーティーでは紹介より彼女との会話を楽しみたいであろう」
だから朝食を兼ねた紹介か…
「エリカ殿の詳細については、侍従長の説明を聞いて貰う。食事しながら聞けば良い。座って食事を楽しんでくれ」
陛下の合図で侍従長が私の活動履歴(?)を読み始める。
いつの間に用意してたんだ、そんなモン…
「さぁ、エリカ殿はこちらに」
陛下に促され、私もテーブルに着く。
中央に国王陛下が座り、私は陛下の右側に座る。
反対側は王妃様と王太子殿下。
私の右側には王女殿下2人が座る。
まだ1歳の第2王子は別室で侍女やメイド達と居るらしい。
王族に挟まれた上、そんなに高くないけど大勢の貴族達を見下ろしながらの食事って…
…冷や汗が止まらん…
貴族達は侍従長の説明を聞きながら、時折『おお!』『ほう!』等と感嘆の声を挙げつつ食事を進める。
「陛下、想像してたより小さくて可愛らしい女の子ですわね。何だかホッとしますわ♡」
と、王妃様。
物静かそうな美人だな。
「お父様、夜のパーティーまでエリカちゃんと一緒に過ごさせて下さいませんか?」
「お姉様だけズルいですわ! 私も一緒に過ごさせて下さいませ!」
2人の王女が口々に言う。
うん、言葉遣いからしてミラーナさんとは違うのが判るな。
「姉上、僕も一緒じゃダメですか?」
さすがは王族。
王太子とは言え5歳なのに、言葉遣いはしっかりしてるな。
「おや。皆、エリカ殿を気に入った様だな。エリカ殿、貴殿さえ良ければパーティーまで子供達と一緒に過ごしてみては?」
うんうん、両陛下と過ごすよりは緊張しないで済むな♪
「あら、陛下。それなら私も参加致しますわ♡ だって、私もエリカちゃんを気に入ったんですもの♡」
アンタも参加するんかいっ!!!!
緊張するやないかっ!!!!
口に出しては言えんけど!!!!
「あ… あはははは…」
乾いた笑いしか出んわ!!!!
こうして私は食事の味を楽しむ余裕も無く、ただ黙々と食べるしかなかった…
─────────────────
一旦部屋へと戻り、ドレスに着替える。
ミラーナさんとは真逆の王女様達みたいだから、ドレスでも問題は無いだろう。
ミリアさんから強引に買わされたドレスは淡いピンクで、あちこちにレースがあしらわれている。
オマケに腰の後ろには、正面から見ても存在感抜群の巨大なリボン。
袖が無いから腕だけは動かし易い。
着替え終わって少しすると、ドアがノックされる。
「ハイ、どうぞ」
ドアが開くと、そこには王族一家が勢揃いしていた。
国王陛下、アンタもかいっ!!!!
「着替えたんだ、ドレス姿も可愛い♡」
第2王女様が目をキラキラさせながら言う。
なんか第3王女様も目がキラキラしてる様な…
王太子様はポ~ッとした表情だ。
何だか少し顔が赤い様な…
王妃様は、もうすぐ2歳になる第2王子様を抱えてニコニコしている。
「私の公務は10時からなんでな。それまで一緒に過ごさせて貰おうと思うが、良いかな?」
私はニッコリと笑い
「ハイ、是非に♪」
って言うしかないだろうが!!!!
王都滞在中、胃潰瘍になるかも知れんな…
杞憂だった。
共通の話題と言えばミラーナさんの事しかないのだが、話に花が咲いて和気藹々とした会話になった。
これなら胃潰瘍になる心配は無さそうだな♪
しかし、話を聞くと国王陛下はミラーナさんに散々振り回された様だ。
何度か胃潰瘍になり、その度に魔法医に治して貰ったんだとか。
ミラーナさんがロザミアの領主になって少しした時は、報告を聞いて10日程寝込んだとか。
…領主邸を売り払ったりハンターになったり、とんでもない事をしてたからなぁ…
10時少し前に国王陛下は公務へと向かい、残った私達は昼食を一緒に食べたりお茶したりと、楽しくパーティーまでの時間を過ごした。
そして、緊張のパーティーが始まる。