第3話 君の名は?
はぁ… やっと街に着いたよ…
街の入り口で門番の兵士(?)に止められるが、小さな女の子が1人なのだ。
むしろ心配されて、簡単に中へ入る事が許可された。
さすがに日が沈んだ後なので人通りは多くない。
パッと見たところ、この世界に電気は無いみたいだな。
街を照らしてる街灯の光は魔法の明かりだろうか?
人通りの少ない街を歩きながらギルドを探す。
見た感じ、そこそこ大きい街の様だ。
だが、大都市って感じでも無い。
中規模の街ってトコかな?
ファンタジー──魔法の存在する世界──なら、何らかのギルドが在ると思うんだがなぁ。
食事に関しては問題無しだ。
女神様から貰ったチート能力『どんな魔法でも無制限に使える能力』のお陰で、街に入る前にサンドイッチを出して食べたから腹ごしらえは充分だ。
何処から何を媒体として出たのかは考えない事にした。
考えても解らんし…
そんな事を考えながら歩いていたら、ようやくギルドを発見した。
これで今夜の寝床は大丈夫かな?
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恐る恐る扉を開ける。
中には意外に大勢の人が居た。
冒険者か何かかな?
一日の仕事を終えて一杯引っ掻けてるって感じだろうか?
そんな連中を横目に受け付けへと進む。
ジロジロ見られているが…
「こんばんは」
受付嬢のお姉さんに挨拶する。
「こんばんは… どうしたの? こんな暗くなってから」
日が沈んだ後に子供──美少女(?)──がギルドに来るのは珍しいのだろう。
受付嬢のお姉さんは目を丸くしている。
「街の外から来たんです。今夜の寝る場所もお金も無いんで、隅っこで良いから寝させて貰えませんか? さすがに野宿はちょっと…」
そう言うと受付嬢のお姉さんは…
「えっ?」
と驚いて…
「どういう事?」
と聞いてきた。
まぁ、それはそうだろう。
年端も行かない女の子が一人でギルドに来て、寝る場所も金も無いなんて言ったら驚くのも無理は無い。
そこで俺は事情と言うか設定を説明する。
いや、街を目指して歩いてる道中が暇なモンで、自身の身の上の設定を考えてたんだよ。
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両親は早くに亡くなり、年老いた祖父母と暮らしてた事。
祖父は医師、祖母は魔導師で、それぞれから英才教育を受けていた事。
そのお陰で自身は不老不死の魔導医師、通称『魔法医』である事。
身寄りが居なくなった事から山奥で一人で暮らす事に不安と限界を感じ、街に出て来た事。
折角の医学知識と魔法の能力を活かさないのは勿体無いと思った事。
等々…
まぁ、全部デタラメと言うか作り話だけど。
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そんな設定を話し終えると、受付嬢のお姉さんは何故か涙を流していた。
えっ?
そんな涙を流す様な話だったか?
周りを見ると、冒険者(?)の兄ちゃんやオジサン達も涙を流して感動していた。
えぇっ!?
なんか罪悪感を感じるぞ!
でもまぁ、疑われるよりマシかな…?
「苦労したのねぇ…」
涙を指で拭いながら受付嬢のお姉さんが呟く。
「とりあえず、今夜はそこの部屋を使いなさい。魔法医として働くならギルドに登録する必要があるけど、それは明日にしか出来ないわね」
なんでもギルドの登録にはギルドマスターの承認が必要らしく、既にギルドマスターは帰宅したので登録するのはギルドマスターが来てからしか出来ないそうだ。
が、仮登録なら出来るとの事なので、とりあえず仮登録だけでも済ませておく事にした。
「じゃあ、まずは名前を教えてくれる?」
そう言われて俺は固まった。
しまったあぁぁぁ!
肝心の名前を考えて無かったんだ!
どうしよう……
こうなったら仕方無い。
「エ… エリカです」
咄嗟に妹の名前を言う。
仕方無いよ…
今の今まで何も考えてなかったんだから…
「エリカちゃんね。じゃあ苗字は?」
それも聞くんかい!
何も考えてないよ~!
えぇい、仕方無い!
「ホ… ホプキンスです」
何かの漫画で読んだ登場人物の苗字を言う。
「エリカ・ホプキンス? 良い名前ね♡」
お姉さんは何の疑いも持たずに書類に書き込んだ。
妹の名前と漫画の登場人物の苗字をくっつけただけなんだけど、意外に語呂が良いかも。
まぁ、良いか。
たった今から俺の名前はエリカ・ホプキンスに決定だ!
ん?
女の子──美少女(?)──で一人称が『俺』はマズイかな?
よし、これから一人称は『私』にしよう。
すぐには慣れないと思うけど…
中身は男だけど、外見は美少女(?)だから良いよね?