第38話 王都に着きました。いや、途中は何も無かったし…
いよいよ王都に向けて出発の朝。
何故か治療院の前にミリアさんとモーリィさんが居る。
今日って5の付かない日、つまり2人の休日じゃないけど…
「エリカちゃん、王都に行くって本当だったの?」
「戻って来ないなんて事、無いよね?」
噂になってたのか…
まぁ、出発前にギルドへ挨拶に寄るつもりだったけど…
「大丈夫ですよ。ちょっと往復に日数が必要ですけど、ちゃんと戻って来ますから」
すると、マインバーグ伯爵が歩み出る。
「しばらくエリカ殿の不在で迷惑を掛ける事になるが、王都から魔法医を40名連れて来ている。毎日20名ずつ交代で診療させる故、なんとかエリカ殿の代わりは務まる事と思う」
それを聞いても不安そうな2人。
「やはりエリカ殿の信用は絶大な様であるな」
伯爵は私にニッコリと笑い掛ける。
「ミリアさんもモーリィさんも安心してくれよ。エリカちゃんが戻るまで、アタシが治療室の奥から目を光らせてるからさ♪」
2人は顔を見合せ…
「それなら大丈夫そうかな?」
「ギルドの掲示板に通達を貼り出しておこうか?」
それでも良いけど、やっぱり…
「私がギルドに行って、今居る人達だけにでも挨拶しておきますよ。何も言わずに出発するのも失礼ですし」
「そうだね。それが良いよ」
ミラーナさんも同意する。
「ならば、私も共に行こう」
マインバーグ伯爵も同行する。
「おい、お前達はエリカ殿の荷物を馬車に運んでおくように」
伯爵は護衛の人達に指示を出す。
「ではエリカ殿、参ろうか」
「はい、ところで馬車は何処に?」
治療院前の円形広場には見当たらない。
「ここでは通行の邪魔になると思ってな。街の門の外に待たせてあるのだよ」
気を使ってるなぁ…
そしてギルドの扉を開けると…
「エリカちゃ~ん、行かないでくれぇ~!」
「俺達はどうなるんだぁ~!」
「見捨てないでくれぇ~!」
と、ハンターの兄ちゃん達が大挙して押し寄せて来る。
私とマインバーグ伯爵は慌ててギルドから飛び出す。
「待て、お前等! 話を聞けって…!」
ミラーナさんが止めようとするも不意を突かれた上、30人を超える数に押し切られている。
私は必死で走るが、いかんせん子供の脚。
このままだと追い付かれる!
と思った時、マインバーグ伯爵がヒョイッと私を小脇に抱えて全力疾走を始めた。
ををっ!
さすが武闘派、脚も疾い!
そのまま伯爵は街の門まで走り続けた。
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馬車の中ではマインバーグ伯爵が疲労困憊で息を調えていた。
結構な距離だったからなぁ…
私は伯爵に回復魔法を掛ける。
「おぉっ、疲れが無くなった! 心臓の鼓動も落ち着いておる! 息も乱れが治まったぞ!」
そう言や、伯爵に魔法を掛けるのは初めてだな。
「なんと!」
「ただの噂かと思っていたが…」
護衛として同乗している2人の騎士も驚いている。
「お前達、その目で見るまで信じられなかったか? まぁ、無理も無い事であるが…」
2人の騎士は顔を見合せ…
「恥じ入るばかりです」
「確かに、大袈裟に伝わっている物と思っておりました」
この2人も伯爵の影響を受けてるのかな?
ちょっとカタい気がする。
「で、あろうな。王都でも似た様な状態であろう。エリカ殿の実力を目の当たりにした連中の狼狽振りが目に浮かぶ様であるわ。ハッハッハッ!」
な~んか王都でも騒ぎに巻き込まれそうな予感が…
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それから王都に着くまでマインバーグ伯爵とは親しく会話を楽しみ、寄った宿場町では貴族の親娘と間違われる程だった。
そして遂に王都に到着。
さすがに王都。
ロザミアより遥かに大きい街だなぁ…
門を潜り、夕暮れ時の街中を馬車は進んで行く。
何処まで行くんだろ?
私が来る噂が広まっているのか、なんだか馬車に注目が集まってる気がする。
そう思っている間も馬車は進んで行き、かなり進んでから街に入る時とは違う造りの門を潜る。
…嫌な予感…
更に進んで馬車が停まったのは…
「マインバーグ伯爵様? ここって、もしかしなくても…」
「うむ、ここがエリカ殿に滞在して頂く、イルモア王国の王都ヴィランの最北端。王宮である」
やっぱりかぁあああああああっ!!!!
何故っ!?
何故何故何故っ!?
何故私が王宮に滞在!?
いや、なんとなく想像できるけどっ!!!!
「陛下が仰られてな。大勢の人を治療しているエリカ殿を王都へと招待するのに、街の宿屋に宿泊させるのは道理に悖る。王宮に宿泊して貰うのが当然である。との事だ」
「…ご厚意… 痛み入ります…」
私はやっとの事で言葉を絞り出した。
さすがに慣れた様子で王宮の中を歩く伯爵の後ろを、私は単に付いて歩く。
もう、どうにでもなれって気分だよ…
しばらく歩くと、大きな扉の前に出た。
でっかいなぁ…
軽く5mはある様な…
扉の左右に控えていた2人の騎士(?)が、内側に扉を押し開ける。
重そう…
「ここが謁見の間である」
マインバーグ伯爵が私にだけ聞こえる様に言う。
いきなり謁見かぁああああいっ!!!!
私の心の準備は!?
服装だって白衣だぞ!?
だって何も言われてないからっ!!!!
ダメだ… もう心を無にしよう…
自分じゃ見えないが、きっと私の表情は遮光器土偶みたいになってるに違いない…
歩を進めるマインバーグ伯爵の後ろを、ただ付いて歩く私。
伯爵が止まるので私も止まる。
「ルドルフ・フォン・マインバーグ、ただいま参上致しました。王命に依り、エリカ・ホプキンス魔導医師と共に戻りましてございます」
「うむ、大儀であった」
私も慌てて名乗る。
「エ… エリカ・ホプキンス、お招きに与り参上致しました。国王陛下におかれましては…」
「よいよい、そんなに緊張するでない」
陛下は穏やかに言う。
「余がイルモア王国の国王、アインベルグ・フェルゼンである。マインバーグ伯爵より話は聞いておる。ミラーナと同居してくれておるそうだな?」
思っていたより温厚そうな人だな。
「そなたも苦労している事であろうな。なにしろ、あのミラーナと同居しておるのだ…」
あぁ、国王陛下も苦労したんだな…
「陛下、今宵は顔見せのみの予定にございます。故に…」
侍従長と思しき老紳士が話を遮る。
「あぁ、そうであったな。では、エリカ殿、余はこれにて。今宵はゆるりと休まれるが良い。また明日、落ち着いてから話そう」
そう言って陛下は去って行った。
王都滞在は、ミラーナさんの予想通り10日。
私は侍女に案内されて宿泊する部屋へと入る。
部屋はだだっ広い上にシャワーやトイレも完備されており、何も言う事は無い。
私はシャワーを浴びてベッドに入り、明日からの王都滞在を楽しみに…
出来るかぁあああああああいっ!!!!
絶対!
絶対、絶対、絶対!
何かしら無茶なことを言われるに決まってるだろぉおおおおおおおおっ!!!!
そりゃ出来るよ!?
魔法を使えば何でも出来るよ!?
だからって好き放題に利用されてたまるかぁあああああああっ!!!!
と思ったが、今の私に出来る事は寝る事しか無いのだった…




