第37話 王都からの迎え
時間が無い。
マインバーグ伯爵からの手紙では、手紙が着いた数日後には魔法医達がロザミアに来ると言う。
私は入れ替わりに王都へ行かなくてはならない。
勿論、治療院の診療方針を伝えてからだ。
勝手な事をされては困る。
とにかく魔法医達が来る前に準備を調えなくては。
私は毎日、治療院の仕事が終わると王都行きの準備に追われていた。
ミラーナさんも手伝ってくれている。
「王都には何日ぐらい滞在しないといけませんかねぇ?」
あまり長く治療院を空けたくないんだよなぁ…
「そうだなぁ… 初めてなんだから、そんなに長くはないと思うんだけど… だからって、すぐに帰らせてくれるとも思えないし… 10日は滞在すると思っておいた方が良いかな?」
10日か…
確かに2日や3日で帰らせてくれるとは思えないし、かと言って1ヶ月も留め置かれるとも思えない。
まぁ、10日なら許容範囲かな?
「10日だとすると、片道10日の往復20日。1ヶ月留守にするって感じですかね?」
「いや、それは無理だと思うけど?」
へっ?
だって計算上は行きに10日、滞在10日、帰りに10日で1ヶ月じゃあ…
「乗り合い馬車なら、確かに片道10日だよ。だけど王都に招聘する以上、乗り合い馬車で王都に来させるって事は無いだろうね。まず間違い無く誰かが迎えに来る筈だよ。そうなると、往復の日程は20日じゃ無理だね」
???
「乗り合い馬車なら、朝に出発して夜に宿場町に着くんだ。急ぐ連中は、そこで夜に宿場町を出発する馬車に乗り換える。馬車の中で寝て、朝に次の宿場町に着く。そこでまた朝に出発する馬車に乗り換える。これの繰り返しで王都まで10日なんだ」
…………………………………
「対して迎えの馬車だと、朝に出発して夜に宿場町に着く。そこで朝まで1泊する事になる。馬車を乗り換えるなんてしないから、乗り合い馬車の半分しか進めない。だから王都までの日程は倍になると考えた方が良いな」
え~と……………
「だから早く戻って来れても、50日間はロザミアを留守にするって感じかな?」
50日ぃいいいいいいい????
そんなに長い間、治療院を空けなきゃならんのかいっ!!!!
いや、王都からの魔法医達に診療させるけど!!!!
予想より20日も長くなるやないかぁあああああああっ!!!!
「そんなに遠いんですか…? 王都って…」
なんか、一気に力が抜けたぞ…
「エリカちゃん、あんまり世の中の事を知らないみたいだなぁ。馬車で何日って、走り続けてって意味なんだよ。貴族連中は、寝てる間も馬車を走らせる事は無いんだ。そんな事をしたら馬が潰れるし、使うかどうかも判らない代わりの馬車を各宿場町に待機させる事も無いしね」
「でも、マインバーグ伯爵は…?」
彼は20日のパーティーに参加するのに、10日にロザミアを出発してたぞ?
「彼は馬に乗って走らせたんだよ。馬車を引くより早いから、宿場町2つ分を走破出来るんだ。だから10日で移動出来たんだよ」
私は馬に乗れないから、当然馬車での移動か…
ちょっぴり疲れる旅になりそうだと思いつつ、私は全ての準備を調えた。
─────────────────
翌朝、ついに王都から魔法医達が到着した。
人数が多いから、乗り合い馬車4台に分乗してのお出ましだ。
彼等は私の迎えが来るまでは待機しているらしい。
その間、私は通常の診療を行った。
夜になって迎えに到着したのはマインバーグ伯爵。
知らない人と一緒に馬車の旅にならずにホッとしたなぁ…
伯爵には治療院に泊まって貰い、翌朝一緒に出発する。
魔法医達を治療院のリビングに上げ、診療方針を説明する事にした。
整然と並ぶ魔法医達の前に、私達3人が立つ。
私の説明に頷く伯爵。
ミラーナさんは魔法医達を見ている。
睨み付けて威嚇するの、止めた方が…
一通り説明を終えると、ミラーナさんが口を開く。
「いいか、貴様等! 今、言われた通りにやれよ!? 余計な事はするな! アタシが見張ってるからな!」
恫喝も止めた方が…
その後、魔法医達は取っていた宿に戻り、私達は夕食だ。
「うむ、実に興味深い味でしたな。お二方、ご馳走になりました」
言って深々と頭を下げる伯爵。
これ、絶対に幻覚を見たな…
伯爵にはミラーナさんの向かい側の部屋を使って貰う事にした。
私達は風呂を済ませ、少しリビングで会話する。
「じゃあ、やっぱり王都までは20日の日程ですか?」
「うむ、長く治療院を空けたくないエリカ殿には申し訳無いのだが、やはり乗り合い馬車でと言うのは憚られるのでな」
「だよなぁ。何か悪い事でもして呼び付けるなら乗り合い馬車でも構わないだろうけど、大勢の人を治療している人物に来て貰うって事だからなぁ」
伯爵はコクリと頷く。
「ミラーナ様の仰る通りです。その様な素晴らしい人物に対し、迎えも送らないのは失礼極まりない事ですからな。また、エリカ殿も知らない者との旅では気が休まりますまい。そこで私が志願致しました」
相変わらず律儀な人だなぁ…
「まぁ、マインバーグ伯爵なら、アタシも安心して任せられるな。盗賊の中には貴族の馬車を襲う物騒な連中も居るが、マインバーグ伯爵の馬車は襲われた事が無いからな」
「お言葉、恐縮にございます」
そうなんだ…
「マインバーグ伯爵は武闘派で有名だからな。マインバーグ伯爵家の紋章を見れば、盗賊は近付かないさ」
なら、安心だな♪
「それじゃあマインバーグ伯爵様。明日から王都まで、宜しくお願いしますね♡」
「うむ、こちらこそ」
私とマインバーグ伯爵は固く握手し、それぞれの部屋へと戻って眠りに着いたのだった。




