第35話 ミラーナさんのトラウマ(?)と逆襲
5の付く日を休みにしたモーリィさんがミリアさんと共に、ミラーナさんに会いたいからと治療院へやって来た。
4人でお茶を飲みながら、私は先日の魔法医達に寿司をご馳走した時の話をした。
「へぇ~。お寿司パーティーしたんだ。良いなぁ~♪」
羨ましそうに言うミリアさん。
「美味しかったモンねぇ~♡」
モーリィさんも同意する。
「パーティーって言うより、王都から来た魔法医達を慰労する意味で作ったんですけどね」
あの魔法医達、魔力を振り絞って頑張ってたからなぁ…
「ミラーナさんも一緒だったんですよね? 初めてお寿司を食べたと思いますけど、最初は躊躇しますよねぇ?」
あぁ、モーリィさんも最初は躊躇してたな…
「まぁ… 確かに最初は躊躇したけど、旨かったのは間違い無いよ…」
なんだか普段の軽快さが無いな…
「どうしたんですか? なんだか元気がありませんけど?」
まさかと思うけど…
「ミラーナさん、もしかして争奪戦の事を気にしてます?」
ズバッと聞いてみる。
「言わないでくれぇええええええっ!!!!」
ミラーナさんは、頭を抱えて仰け反った。
やっぱりか…
「争奪戦って? ン? なんか見た事がある様な…」
ミリアさんが言う。
アンタ、パーティーの時に見たろ。
「私、なんか身に覚えがある様な… ねぇ、争奪戦って?」
モーリィさんも言う。
て言うか身に覚えって、アンタはパーティーの時に寿司争奪しまくってたろうが…
「聞かないでくれぇええええええっ!!!!」
またも仰け反るミラーナさん。
トラウマになってんのか…
まぁ、とても王女様とは思えない争い方だったからなぁ…
相手の手を押さえて寿司を取ったり、足を踏んずけて痛がってる隙に寿司を奪ったり…
「まぁ、ミリアさん、モーリィさん。その話はここまでにして、何か食べに行きません?」
お昼時だしな。
話を逸らしてあげないと、ミラーナさんが可哀想に思えてきた。
適当な食堂を選んで入り、テーブルに着く。
ミラーナさんは、他の2人を制して私の隣に座る。
私が余計な事を言わない様、警戒してる気がするのは思い過ごしだろうか…?
それぞれ料理を注文し、会話を再開する。
「最近、ギルドはどうだい? 相変わらず賑わってるかい?」
真っ先に口を開くミラーナさん。
ギルドはどうだいって…
アンタ、ギルドには毎日の様に顔を出してるだろ…
話題が寿司に行かない様にしてるのが見え見えなんですけど…
「そうですね、毎日忙しくて大変ですけど」
「エリカちゃんが治してくれるからって、無茶する人も多いですからねぇ」
ミラーナさんの思惑に何故か気付かない2人。
アンタ等、天然か?
「…お寿司…」
ミラーナさんにだけ聞こえる様に、ボソッと言ってみる…
瞬間、ミラーナさんの身体がビクッと反応する。
やっぱり言われたくないか…
後が怖いし、追い込むのは止めとこう…
そうこうしている内に料理が運ばれて来た。
私は会話を──ミラーナさんにとって──無難な方向に誘導しつつ料理を食べる。
他の3人も、会話を楽しみつつ料理を食べる。
1人、ぎこちないのが居るけど…
ミラーナさん、なんか動きもギクシャクしてるよ?
やっぱりトラウマか?
それにしても、こんなミラーナさんを見るのは初めてだな。
どうにか無事(?)に昼食を終え、私達は食堂を後にする。
ミラーナさんは脱力気味だ。
話題が寿司に向こうとする度、なんとか話を逸らそうと必死だったからなぁ…
私?
私は然り気無~く寿司ネタとか寿司桶、箸の方向に話をコントロールしていたんだよ♪
ミラーナさんのあまりの必死さに、何度か吹き出しそうになったのは内緒だ。
さすがにミリアさんやモーリィさんも、ミラーナさんが何かを隠そうとしているのに気付いたかもな。
時々、顔を見合わせていたし。
私が話さない限り、バレないとは思うけど…
案外、ミラーナさんにも可愛いトコがあるんだな♪
その後もミラーナさんは話を誤魔化し続け、夕食時に解散した。
治療院に戻り、2人で夕食を作る。
ミラーナさんは珍しく無言だ。
疲れたんだろうなぁ…
ミラーナさんは時々溜め息を吐きながら、出来上がった料理を黙って食べる。
私もミラーナさんをソッとしておこうと思い、無言で食べた。
勿論、最初の一口は宇宙遊泳の幻覚が見えたよ?
…慣れてきたのか?
なんか平気になってる気が…
食事が終わり、後片付けを済ませるとミラーナさんは自室に向かう。
ん?
普段ならソファーで休憩するか、風呂に入るのに…
しばらくすると、ミラーナさんが戻って来る。
???
何かを持っている様な…
「エ・リ・カ・ちゃ~ん♡」
へっ?
あの、ミラーナさん?
笑顔だけど、目が笑ってませんが…
「何度か吹き出しそうになってたよねぇ~?」
げっ!
バレてた!?
すぱぁあああああああんっ!!!!
こ… この一撃は…!?
「こんな事もあろうかと作っておいて正解だったな♪ たいしてダメージは無いから平気だろ? あ~スッキリした♪ さ、風呂入って寝よっと♪」
私はミラーナさんの全力ハリセン・チョップを脳天に食らい、床に突っ伏した。
あ… 侮れん!
まさか以前ミラーナさんに食らわせたハリセン・チョップを逆襲用に作っていたとは!
私は少ない脳天のダメージより、多大な精神的ダメージでしばらく起き上がれなかったのだった。




