第34話 説得するより自覚させましょう
「なんなんですか、あの人達は… いきなり弟子にしてくれなんて…」
夜遅くになって、ようやく王都から来た魔法医達の弟子志願を断念させた私はミラーナさんに愚痴った。
本当に断念したかは疑問だけど…
「う~ん、衝撃的だったんだろうとは思うんだけどなぁ… まさか弟子になりたいなんて言うとは、アタシも思ってなかったよ…」
さすがのミラーナさんにも予想外だった様だ。
「あの人達って、見た感じ40歳前後ですよねぇ? 私みたいな子供の弟子になりたいなんて、抵抗は無いんですかね?」
私は素直な感想を言う。
「一応、王都の魔法医の中でも生真面目そうな連中を選んだんだよね。だから、そんな結論になったんだと思うんだけど…」
それにしても極端過ぎるだろ…
「さすがに弟子には出来ませんよ。彼等の腕は確かなんで、私が教える事は無いと思いますし… 最大魔力容量の問題だけは、どうしようもありませんからね」
そう言うと、ミラーナさんは意外そうな顔をする。
「どうしました?」
「いや… 最大魔力容量だろ? なんとかなるんじゃないかな…」
へ?
なんとかなる?
まさかと思うけど…
「エリカちゃんが魔法で… 連中の最大魔力容量を上げてやるってのはどうかな?」
やっぱりかぁあああああああっ!!!!
そんな事したら、どうなると思ってんだぁあああああああっ!!!!
「ダメですダメですダメですっ!!!!」
「どうして?」
理解してくれぇええええええっ!!!!
「そんな事したら、どうなると思います!? 絶対に噂になって、王都中の魔法医達が私に最大魔力容量を上げてくれって、押し掛けるに決まってますよ!! 下手したら、イルモア王国中の魔法医が押し掛けます!!!!」
「あ…」
理解した?
理解してくれたよね??
「そりゃマズいな… もしかしたら、アタシを不老不死にしたのもエリカちゃんだとバレるかも…」
「でしょでしょでしょ!? だから、それだけは絶対にダメです!!!!」
なんとかミラーナさんも理解したみたいだし、残る問題は魔法医達だな…
どうにか説得して『私の弟子になるのは絶対に不可能な事』だと思わせないと…
いや、違うな…
魔法医達に『私の弟子になっても最大魔力容量は増えない』とか『私の弟子になっても魔力枯渇になるのは防げない』と理解させなきゃダメか…
その考えを話すと、ミラーナさんも納得して頷いた。
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翌朝、玄関を開けると魔法医達が並んでいた。
少し疲れの残った表情だ。
無理も無い。
前日は魔力枯渇寸前だったからなぁ…
「おはようございます、エリカ殿」
「今日も診療を手伝わせて頂きたい」
「まだ少し疲れが残ってはおりますが…」
こりゃ、昨日より診療人数は少なそうだな…
予想通り、全員が5~6人を診療した時点で限界を宣言した。
私は彼等の後を引き継ぎ、昨日より少し多い90人程を診療した。
勿論、平然としていて彼等を驚愕させた。
そんな彼等だが、前日より人数が減ったとは言え頑張って診療してたし、労いの意味も込めて夕食に招待した。
無論、ある狙いも兼ねてだが…
「せっかく王都から来てくれたんだし、宿や食堂での食事ばかりじゃ楽しくないでしょう? 今夜は私の手料理を楽しんで下さいね♡」
そう言って私は準備に取り掛かる。
用意したのは赤身魚2尾と白身魚5尾の、でっかい切り身。
そして多めに炊いた白米。
そう、私の手料理は寿司だ。
白米を寿司桶に入れ、酢を振り掛けて団扇で扇ぎながらシャモジで切る様に掻き回す。
寿司を食べた事の無いミラーナさんや魔法医達は、何をしているのか解らずに呆然と見ている。
あっと言う間に寿司桶2つ分の酢飯が完成。
ちなみにだが、寿司桶は知り合いの木工業者に頼んで作って貰った物だ。
続いて寿司を握る。
が、その前に魔法で手の消毒を行う。
「まだ魔力を使えるとは…」
そう言って驚愕する魔法医を、ミラーナさんはニヤニヤして見ている。
私は作業を続ける。
魚の切り身を斜めに切り、右手で取りつつ左手で酢飯を一掴み。
ササッと握ってネタに乗せ、裏返して一握り。
それを繰り返し、みるみる内に大皿が寿司で埋め尽くされる。
最終的に、3つの大皿が5つの魚を使った握り寿司で大量かつ綺麗に彩られた。
私は全員の前に置かれた小皿に醤油を入れながら言う。
「この醤油を軽く付けて召し上がって下さい。私の得意料理の1つ、握り寿司です。合うお酒も用意してますので、一緒にどうぞ♡」
ミラーナさんを含めた4人は、初めて見る寿司に困惑している。
「こうやって食べるんです」
私は箸で寿司を摘まみ、チョンチョンと醤油を付けて食べて見せる。
「ウン、美味しいですよ♡」
4人は唖然としている。
「生の魚なんだよな…」
と、ミラーナさんが言う。
「大丈夫なんですか?」
「普通、魚は煮るとか焼くとか…」
「うむ、寄生虫等の問題が…」
魔法医達も不安そうだ。
「それなら問題ありません。寄生虫は全て、魔法で取り除いておきましたからね♡」
「「「なんですと!?」」」
揃って驚く魔法医達。
「まだ魔力は尽きぬと言うのか…」
「うぅむ…」
「………」
思惑通りかな?
「それにしても、この『箸』って言うのか? ちょっと使い難いな…」
やはり和食には箸だろうって事で木工業者に作って貰ったのだが、やっぱり難しいか…
「フォークで刺して食べても良いですよ? これって慣れるのに練習が必要だと思いますから」
勿論、4人がフォークを手にしたのは言うまでも無い。
そして4人は恐る恐る寿司を口にし…
4人の争奪戦が始まったのだった。
「貴様! それはアタシが狙っていた…」
「何を仰いますか! こんな旨い物に王族も平民も関係は…」
「いかにも! あぁっ! それは私が…」
「油断している方が悪いのだ! あっ! ミラーナ様! それは…」
「よそ見している貴様が悪いっ! あっ、待てっ!」
私はキッチンに籠り、残った切り身で寿司を握って食べながら1人で満喫していた。
以前の寿司パーティーでの出来事が良い教訓になったな♪
~後日談~
結局、魔法医3人は私に最大魔力容量で敵わない事を悟り、揃って馬車で王都に帰ったのだった。




