第240話 エリカのミリアン溺愛と、パティの出産準備
私は毎日昼食が終わると、夜の部の診療前の食事までミリアンちゃんと遊んでいる。
さすがに夜の部が終わってからは遊べない。
診療終了は20時だし、食事が終われば21時を過ぎている事も多い。
6歳のミリアンちゃんは寝る時間だ。
なので、休診日ともなれば1日中遊んでる。
だって、しょ~がないじゃんか!
ミリアンちゃん、滅茶苦茶可愛いんだよ!
相手してあげたくなるんだよ!
て言うか、相手したくなるんだよ!
「エリカちゃんって、意外と子供好きなんだなぁ… 本人の見た目が子供だから、子供同士が遊んでる様にしか見えないけどさ…」
ミラーナさんが言うと、アリアさんがポカンとして言う。
「意外でも何でもありませんよ? エリカさん、子供の患者さんから『エリカお姉ちゃん』って呼ばれてますし、優しく治療するから泣く子供も居ませんしね」
そこにミリアさん、モーリィさん、ライザさんも加わわる。
「そう言えば、他所の街から治療に来た人が言ってたわね… 魔法医の性格にも依るだろうけど、風邪を引いても魔法医に掛かるのを嫌がる子供って多いんですって。だけど、エリカちゃんに診て貰うのは平気らしいの。勿論、初めてホプキンス治療院を訪れる時は、魔法医って事で嫌がるらしいんだけど…」
「そうそう。だけど、1回でもエリカちゃんに診て貰った子供が、地元の魔法医に掛かりたがらなくなるんだって聞いた事があるよ? それって、親は地元の魔法医に掛かるけど、子供は掛からないって事だよね? 親としては面倒だし、魔法医としては面目丸潰れって感じ?」
「何が違うんだろうねぇ? ボク、いろんな街の魔法医の世話になったけど、特に違いは感じなかったよ? て言うか、ハリセンでブッ叩かれるだけ、エリカちゃんの方が厳しい気がするんだけど?」
3人は色々言ってるが…
ライザさん、それはアンタがアホな事をしたり言ったりするからなんですけど…?
ちなみにルディアさんは、私の〝プリシラさんの方言講座〟を受けてからは毎日夕方からギルドへ行き、食堂が閉まる0時までのシフトになった。
勿論、治療院の休診日に合わせて5の付く日は休日だが…
なんでもプリシラさんがギルドの食堂に来るのが22時~23時頃であり、プリシラさんの方言を理解する職員がルディアさん以外ではマークさんぐらいしか居ないからだそうだ。
そのマークさんも19時~20時には帰るので、実質的にプリシラさんの会話相手はルディアさんに固定されているらしい。
変な負担になってなきゃ良いけど…
「それはどうでしょう? ルディアさん、プリシラさんの方言を覚えてからは楽しく会話してるって言ってましたから… それに、知らない言葉が出た時は遠慮無く質問してるそうですよ? プリシラさんも、喜んで教えてくれるんだとか…」
なんだ… それなら心配する事も無いな。
それより問題なのは…
「ところでパティさん。ジャックさんは出産には立ち会うんですよね? ミリアンちゃんは、どうするんですか? 私としては、お勧めしませんけど…」
「そりゃ~止めた方が良いと思うわよ? だって、赤ちゃんが出てくるトコって、かなりエグいんでしょ? 自分じゃ見えないけどさ… 事実、ミリーちゃんを産んだ時、立ち会ってたジャックちゃんが失神しちゃったんだもん。ミリーちゃんには見せられないわよねぇ…」
前世でも同じ様な話は聞いた事があるな。
私も研修で立ち会った事は何度かあるけど、なんで失神するのか解らなかったよ…
一緒に立ち会った研修医仲間は『見てて気持ちの良い場面じゃない…』とか『思っていたよりグロテスクだった…』とか言ってたけど…
それに、私が『そうか? 生きた人間の内臓を見慣れてたら、何も感じなくなるんじゃないか?』って言ったら、『やっぱり、お前には神経が無いんだよ…』って言われたっけ…
う~ん… 私の感性って、人とは少し違うんだろうか…?
でも、医師としてグロテスクなモノを見ても動揺しないのは重要なスキルだと思うんだけどなぁ…?
それはともかく…
「私としても、ミリアンちゃんには見せない方が良いと思います。ジャックさんはミリアンちゃんの時で経験済みですから問題無いと思いますけど…」
アリアさんの意見に、パティさんはウンウンと頷く。
う~ん…
私の意見は少し違うんだけど…
「だよね~♪ ところでさ、出産についてなんだけど… ジャックちゃんや父さん母さんも交えて話せないかな?」
との事なので、次の休診日にジャックさん、ノーマン夫妻を治療院に呼ぶ事になった。
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「「「「無痛分娩!?」」」」
パティさん、ジャックさん、ノーマン夫妻が見事にハモって聞き返す。
「えぇ、そうです。まぁ、無痛分娩と言っても痛みが全く無いワケではなく、多少軽減されるって程度に思っておいた方が良いでしょうけど…」
私が言うと、ジュディさん(ジュディ・ノーマン:モーリィさん、パティさんのお母さん)が目を丸くする。
「私の時にもエリカちゃんが居てくれたらねぇ… あの痛みは思い出すだけでもお腹が痛くなるからねぇ…」
言ってジュディさんは眉を顰める。
「かなりの痛さらしいねぇ? 男じゃ想像も出来ないけど、聞いた話だと男の脳じゃ堪えられないんだとか…」
ドナルドさん(ドナルド・ノーマン:モーリィさん、パティさんのお父さん)が、蒼い顔をして言う。
私も聞いた事があるな。
男と女じゃ脳の構造が違い、出産の痛みを男の脳では堪えられず、気が変になるとか何とか…
ま、要するに出産はそれだけ激しい痛みを伴うって事だな。
「ミリーちゃんを産む時にエリカちゃんが居てくれたらなぁ… 多少とは言え、あの痛みが抑えられたらって思うわぁ…」
パティさんが言うと、ジャックさんがパティさんの肩に手を回して抱き寄せ…
「その痛みに堪えてミリーを産んでくれたんだよねぇ… パティには感謝してもし切れないよ…」
「うん… 私もミリーちゃんを産んで良かったって思ってるよ? だって、私とジャックちゃんの愛の結晶だもんね…♡」
と、見ているこちらが恥ずかしくなるぐらいにベタベタする。
それだけ愛されてるって事かな?
私がコホンッと咳払いすると、2人は顔を赤くして離れる。
私は説明を続ける。
「出産時、私が痛みを軽減する魔法を掛けます。何故、痛みを完全に無くさないのかって疑問もあると思いますけど──」
「思うっ! なんで完全に無くさないの? 完全に痛みが無い方がラクじゃん!」
食い気味にパティさんが聞いてくる。
「完全に痛みを無くすと、自分が産んだって気が薄れる可能性が高いんです。そうなると、母親は〝自分が産んだ子供〟だと思う意識が薄くなる分、子供を虐待したり放置したりと、問題行動に奔るかも知れないんですよねぇ…」
私が言うと、パティさんは…
「そうかぁ… 痛い思いをして産んだからこそ、自分の子供は大切にしたいって思うわよねぇ… その思いが薄くなるのって、なんか嫌だなぁ…」
そんな思いをして産んだ子供を虐待する親も居るけどな…
まぁ、前世の世界での話だけど…
前世で独身で男だった私には、出産の苦しみも育児の苦労も解らない。
だから、痛い思いをして産んだ子供を平気で虐待したり捨てたりする親の気持ちも解らなかった。
未だに解らないし、解りたいとも思わないが…
とにかくパティさんの出産時期も近付いているし、私は私でしっかりと準備を整えておくか。
そう思った私は、治療院に産婦人科を併設する為に工事しているグランツさんの元を訪れたのだった。




