第236話 パティさんの娘自慢
「ちなみにですけど、ミラーナさんとルディアさんに結婚願望は無いんですか?」
パティさんが聞くと、2人は疲れた様な表情になり…
「それは無いなぁ… 少なくともアタシより強いか、良い勝負が出来る実力を持った相手じゃないとなぁ…」
あんたに勝ったり良い勝負が出来る様な猛者、居ると思ってるんかい…
「私は… まだイルモア王国に慣れていないから… 結婚願望は一応あるけど、まずはロザミアの皆さんとの親睦を深めていきたいかな?」
いや、そんな悠長な事を言ってたら、婚期を逃すぞ?
あんた、自分が既に平均的な結婚年齢(17~25歳)をオーバーしてるって理解してるか?
もうすぐ27歳なんだろ?
「それ、言わないで欲しかったな…」
肩を落とすルディアさん。
だが…
「でもまぁ、私より1つ歳上で独身まっしぐらのミリアさんとモーリィさんが居るから、多少は気がラクなんだけどね♪」
「「それは言わないでぇえええええっ! 言っちゃやだぁあああああっ!!!!」」
ルディアさんが言ってはいけない事…
特にミリアさんとモーリィさんに対してのタブーを言ってしまう。
その言葉にハモって悶絶する2人。
不老不死になってから結婚願望が無くなったって言ってたんじゃなかったんかい…
「うぅ~っ… 自分ではそう思ってたんだけどぉ… 実際に言われちゃうとショックって言うかぁ…」
「ミリアは一人っ子だからマシだよぉ… 私はパティが先に結婚して子供を産んで、更に今は2人目の出産を控えてるんだよぉ…? 不老不死になって結婚願望が消えたと思ってたけど、目の前で幸せそうなパティを見てたらさぁ…」
うん、悔しいんだな?
悔しいんだよな?
だったら婚活しろよ。
いや、それは難しいのかな?
難しいよな?
不老不死なんだから難しいか…
仮に結婚出来たとしても、相手は歳を取って老けていくけど自分は不老不死だから若いままだしな。
「ん~… それなら不老不死の魔法を解除して──」
「「それはダメっ!!!!」」
私の素敵(?)な提案を、ハモって断るミリアさんとモーリィさん。
「ミラーナさんが不老不死になって永遠にハンター生活を楽しみたいって気持ち、なんとなく解っちゃったから!」
「そうそうっ! 今さら普通に歳取って普通に生活するなんて、考えられなくなっちゃってるんだから!」
ミリアさんもモーリィさんも、すっかり不老不死とハンター生活に馴染んでしまってる様だな…
まぁ、良いけど…
「話を聞いた結果、ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんの3人は、不老不死って事もあって永遠に結婚出来そうにありませんけど、ルディアさんはどうします? どうしても結婚したいって言うなら無理強いはしませんけど、不老不死になりたいなら私が魔法で不老不死にしますよ? まぁ、不老不死になっても結婚出来ないって事はありませんけど、旦那さんとか子供は普通に歳を取るし老けるし、最終的には死んじゃいます。ルディアさん自身は死にませんけどね」
私の説明にルディアさんはあっさりと首を振る。
不老不死に興味無いのかな?
「興味が無いとは言わないけど、自分が不老不死になって永遠に生きるってのがイメージ出来ないのよねぇ。だから、私は普通に歳を取って普通に生きる事を選ぶわ。エリカちゃんが居るから、天寿は全う出来そうだしね♪」
なるほど…
てか、私頼りかいっ!
「いやまぁ、医師──魔法医として出来る限りルディアさんが天寿を全う出来る様に尽力しますけどね…? だからって何でもかんでも私に頼らず、自身でも健康には気を付けて下さいよ?」
私がジト目になって言うと、ルディアさんは…
「そ… それぐらいは当然よね! でも、万が一不老不死になりたくなったら… その時はヨロシクね♡」
ヨロシクね♡
ぢゃ無ぇだろ…
いざとなったら私に頼る気満々ぢゃねぇか…
別に良いけど…
「はぁ~… まぁ、その気になったら言って下さい… 何だかんだで治療院のメンバーは、ルディアさん以外の全員が不老不死ですから…」
そして私はパティさんに向き直り…
「…と、まぁ、意図せず聞いてしまったかも知れませんが、私が治療院のメンバーを不老不死にした事は他言無用ですからね? 万が一にも他人に喋っちゃった場合… 冗談抜きで殺しま──」
すぱぱぱぱぱぁああああああんっ!!!!
ばきょおおおおおっ!!!!
めきぐしゃぁあああああ!!!!
「魔法医が殺すなんて言うんじゃないっ!」
「右に同じっ!」
「私も同意見っ!」
「魔法医が言ってはいけない言葉ですっ!」
「よく解んないけど、話の流れで一発♪」
ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさん、アリアさん、ライザさんからの全力ハリセン・チョップを脳天に食らった私は凄まじい勢いで顔面をテーブルにぶつけて破壊し、そのままの勢いで床にめり込んだ。
てかライザさん…
話の流れで一発って何なんだよ…
とりあえず、後でブッ飛ばしてやろう。
そう決意した私だったが、あまりのダメージに気を失ってしまったのだった…
────────────────
数時間後に気が付いた私は、とりあえず夕食と風呂を済ませてリラックスしていたライザさんをハリセンでブッ飛ばしておいた。
ブー垂れてたけど知らんわい。
そして翌朝になり、私は朝食を摂りながらパティさんに気になっていた事を聞く。
「パティさんは里帰り出産って事でロザミアに帰郷してますけど、ジャックさんはロザミアに来ないんですか?」
私が聞くと、パティさんは口いっぱいに頬張っていた回鍋肉を一気に飲み込み(をいをい)…
って、そんな事をしたら…
「んぐぐぐ~~~~っ!」
案の定、喉に詰まらせてやんの…
「何やってんですか、もう…」
私はパティさんの首に手を当て、喉に詰まった回鍋肉を魔法で胃に落とし込む。
「ふはぁあああああっ! 死ぬかと思ったぁあああああっ! …で、ジャックちゃんの事だっけ? 出産には立ち会うって言ってたから、予定日の1週間ぐらい前にはロザミアに来るんじゃないかな? 1人目の時も休みを取ってロザミアに来たからね♪」
「そうなんですね? じゃあ、予定日がハッキリしたら知らせないとですね。前に言いましたが、現時点では7月25日から8月8日って感じとしか判りません。もう10週ぐらいしたら、おおよその予定日が絞り込めると思いますよ?」
私が言うと、パティさんは相好を崩し…
「にゃはは~♡ またジャックちゃんのデレデレ笑顔が見れるのね~♡ ミリーちゃんが生まれた時も、デレちゃってさ~♡ ジャックちゃんのデレた笑顔って可愛いのよねぇ♡ あ、ミリーちゃんって言うのはジャックちゃんと私の子供でね。正式な名前はミリアンって言うんだけど、凄く可愛いの♡ 父さんも母さんも溺愛しちゃって、今回も『ミリーは一緒じゃないのか?』『ジャック君と後から来るのよね?』って煩いぐらい──」
「とりあえずパティさんは出産まで20週前後なんですから、身体に負担を掛けずに適度な運動を心掛けて下さい。簡単なのは散歩ですかね? それと、食べ過ぎには注意して下さいね? まぁ、それに関しては治療院に居る限りは私が管理するんで大丈夫ですけどね」
「エリカちゃんが私の自慢を聞いてくれない~~~っ(泣)」
そんなモン、聞いてられるか。
とにかく今はパティさんの身体と赤ちゃんの状況が一番大事だろ。
「うぅ~~~っ、それはそうなんだけどぉ~~~… 少しぐらいミリーちゃん自慢を聞いてくれても──」
「それは本人がロザミアに来てからで良いです」
と、塩対応に徹していた私だったが…
後にミリーちゃんと会った時、180度違う対応をする事になるのだった。




