第235話 パティさんの旦那さん自慢?
「ただいま~♪ …って、誰?」
帰宅したルディアさんは、見知らぬ人物──パティさんを見て1歩退く。
「お帰りなさい、ルディアさん。こちら、モーリィさんの2歳下の妹さんで、パトリシア・ローレンさんです。この度、出産の為にロザミアに里帰りされてまして。診療や、もしもの時の為に治療院に入院して貰ってるんです」
私が紹介すると、ルディアさんはパティさんの手を取り…
「モーリィさんの2歳下? って事は、26歳? 私、もう少ししたら27歳になるから、1つ下なのかな? 治療院に来て、初めて妹が出来たみたい♪」
…と、嬉しそうにしている。
しかし…
「ルディアさん… ミラーナさんの事、忘れてません? 治療院のメンバーの中では、ミラーナさんが最年少なんですけど…」
私が指摘すると、ルディアさんは…
「あぁ… そうだったわね… 誰もが敬語で話すから、ミラーナさんが歳下だって事、すっかり忘れてたわ…」
と、苦笑していた。
まぁ、あんな人でもイルモア王国の王女様だからなぁ…
私より8歳も下なんだけど、誰もが敬語で話すから仕方無いと言えば仕方無いか…
「治療院のメンバーを姉妹って事で言えば、最年長はライザさんで、次がアリアさんなんですよね。まぁ、お二人はドラゴンとエルフなんで微妙っちゃ~微妙ですけど… で、人間って括りで言えば、私が最年長でミラーナさんが最年少なんです。ミリアさんとモーリィさんは、私より2歳若いんですよね。ミリアさんと幼馴染みで、モーリィさんの妹であるパティさんは充分ご存知の事と思いますが…」
私が言うと、パティさんは宙を仰ぎながら喋り始める。
「あ… うん… て言うか、エリカちゃんって何歳なの…? 人間って括りで言えば最年長って…? どう見ても10歳ぐらいにしか見えないんだけど…? って、不老不死って事だから見た目の年齢なんか関係無いんだろうけど… まさかと思うけど、その見た目でオバサンって事なの?」
「ンなワケあるかぁあああああっ!」
すぱぁああああああんっ!!!!
ばごんっ!
「あ痛だだだっ! 鼻打った! 鼻!」
私が放ったハリセンの一撃を後頭部に受け、パティさんはテーブルに顔面を打ち付ける。
その様子に、モーリィさんが呆れた様に肩を竦めて聞く。
「はぁ~… 相変わらずパティって、余計な一言を言うよねぇ… 旦那さん、何も言わないの?」
「ん~…? 何も言わないわよ? てか、旦那は私にゾッコンだからさ、むしろ楽しんでるって感じ? 私も、そんな旦那が可愛くて、ついつい甘やかしちゃうんだよねぇ~♡」
ジャックちゃん?
もしかしてパティさん、歳上女房ってか?
「あの~… ちなみにですけど、旦那さんのジャックさんの年齢って…?」
恐る恐る聞く私に、パティさんは軽い感じで答える。
「ジャックちゃんの年齢? 私の4つ下だから22歳ね♪ 若い旦那って良いわよぉ~♪ 元気だし可愛いし♡ 何より女性経験が少ないから、セクシーな下着を着けてあげたら夜の性活なんて…」
ちょっと待てコラ。
あんた、1人目の子供を生んだのって、確か7年前だったよな?
て事は、あんたは19歳だろ?
まぁ、それは問題無い。
だけど、旦那のジャックさんは何歳だったんだ?
単純計算でも15歳だろ?
下手したら、当時14歳で未成年のジャックさんと子作りしたって事か?
それはそれでマズいんじゃないか?
「あぁ~、それなら大丈夫よ♪」
私の訝しげな視線に気付いたのか、パティさんはパタパタと手を振りながら…
「ジャックちゃんの15歳の誕生日に私をプレゼントしたんだから、何も問題無いわよ♡ イルモア王国… だけじゃないけど、殆どの国では15歳で成人、結婚が認められてるからね~♪」
それは知ってる。
ロザミアに来た時に、ミリアから聞いたからな。
てか、私をプレゼントって何だ!?
なんか、すっげ~生々しい表現なんですけど!?
「あの~… パティさんとジャックさんの出会いと言うか、馴れ初めと言うか… いったい、どんな感じで付き合い始めて結婚に至ったんですか…?」
私は空恐ろしいモノを感じながらも聞いてみる事にした。
が、当のパティさんは…
「ん~… 何て言うか、ジャックちゃんには私の方からアプローチしたのよねぇ♪ 実は、私が成人した頃から『ウチの息子と結婚してくれないか?』とか『ウチに嫁に来てくれないか?』とか、縁談の話が来てたんだけどさ… いまいちピンと来る男が居なかったから、ず~っと断り続けてたのよ」
モーリィさんとミリアさんの表情が強張った気がするが、とりあえず無視しておこう。
「で、いい加減辟易してた時に、ジャックちゃんと出会ってね♪ その時のジャックちゃんは11歳で可愛い男の子って感じだったんだけど… これは絶対、将来は女を泣かせる超絶イケメンになるって思ってさ~♪ 逃すワケにはいかないって、アプローチしまくったのよ~♡」
アプローチしまくったのよ~♡
ぢゃねぇっ!
てか、15歳が11歳にアプローチ!?
ショタコンか!?
ショタコンなのか!?
いや、この世界にショタコンなんて言葉は無いだろうけど!
ちなみに〝ショタコン〟とは、少年の男子への恋愛感情。
また、その恋愛感情を持つ者である。
語源は、ある雑誌のインタビューで
「少女を好きな男性はロリコンと呼ばれるが、では少年を好きな女性は何と呼ぶべきか?」
という内容の問いに対し、半ズボンの似合う少年の代表として『○人28号』の主人公・△田正太郎の名を挙げ、そこから名を取って『ショタコン』と回答したのが始まりらしい。
…って誰に説明してんだ、私は…
それはともかく、15歳で成人してるパティさんが11歳の少年にアプローチしまくったのは、倫理的に問題にならなかったのだろうか?
「特に問題は無いわよ? 成人した男性が成人前の女の子と婚約するなんて、どこの国でも普通の事だし。ねぇ、モーリィ?」
「そうそう。エリカちゃんだって、ナッシュにアプローチされてたじゃん? まぁ、ナッシュはエリカちゃんの実年齢を知らなかっただけだったけどね♪」
そう言えば、そんな事もあったっけな…
で、マークさんが私の実年齢をバラしたんだっけ。
そしたらあの腐れボケ、私の事をロリババアなんて言いやがったんだっけな。
あ… 思い出したら腹が立ってきた…
いやいや、そうぢゃない!
今は私の事は関係無い。
「だから、成人した女性が成人前の男の子にアプローチする事は珍しいけど、全く無いワケじゃないわよ? まぁ、成人男性が女の子にアプローチするのに比べたら、成人女性が男の子にアプローチするのは少ないけどね」
「だよねぇ… 成人男性が女の子にアプローチするのを10としたら、成人女性が男の子にアプローチするのは1ってトコかな?」
そうなんだ…
確かに多くはないけど、珍しいっちゃ~珍しいのかな?
その珍しい事例がパティさんって事か…
「へぇえ~… イルモア王国って、女性から男性にアプローチするのは珍しいけど全く無いってワケじゃないのね? ムルディア公国じゃ、女性は男性からのアプローチを待ってる… って言うと語弊があるかもだけど、女性から男性にアプローチする事は無いわねぇ… 私が知らないだけかも知れないけど…」
おや?
ムルディア公国は女性から男性にアプローチする事は無いのかな?
「て事は、ルディアさんからもアプローチしなかったんですね? 気になる男性は居なかったんですか?」
「居なかったわよ?」
秒で否定すなっ!
「だってさぁ… 私の周りに居た男って、ムサ苦しいオッサンか既婚者しか居なかったのよ? 同年代の男性なんて居ないんだから、年齢の近い壮年の男性を探すとか、若い男の子を引っ掛けるとかなんて、少なくとも私には無理な話だったのよ… 毎日の仕事って言うか、ルーティンかな? それを熟すだけで精一杯だったものねぇ… それを考えると、イルモア王国に流れ着いたのは僥倖だったと言えなくもないわねぇ…」
引っ掛けたかったんたい…
いや、本心で言ってるとは思えないな。
なんだかんだ言ってるが、ルディアさんの表情は全くの素だからな。
結婚願望を完全には捨て切れていないミリアさんやモーリィさんとは明らかに違う。
いや、2人共ハンターに復帰してからは、一度も結婚願望を口にしてはいない。
してはいないが…
滲み出てんだよ…
結婚願望じゃなくて、悔しさってヤツが…
今だって結婚して子供を産み、更に2人目を妊娠しているパティさんを2人して睨み付けてるしな。
対照的なのがミラーナさんとルディアさん。
2人共に結婚願望が無いのか、殆ど会話に加わる様子が無い。
「ちなみにですけど、ミラーナさんとルディアさんに結婚願望は無いんですか?」
パティさんが聞くと、2人は疲れた様な表情になり…




