第234話 無遠慮なパティさん
私はパティさんに、ルディアさんの事を簡単に説明した。
ムルディア公国のレナルと言う漁村出身で人種は黒人。
漁村出身なので、魚を使った料理が得意な事。
海で遊んでいて海流に流され、イルモア王国の漁村ノルンに漂着。
なんだかんだでロザミアに辿り着き、現在はギルドの食堂で調理スタッフとして働いている。
だが、当初は酷暑の国であるムルディア公国から来た事もあり、作る料理は汗で失われる塩分を補う為に大量の塩を使っていた事も話した。
話を聞いたパティさんは半ば呆れ、半ば感心した様な表情。
まぁ、気持ちは解るよ?
治療院のメンバーも、似た様な反応だったしね。
「何て言うか… しっかり者なのかドジなの判らない人ね…」
うん、その認識で間違い無いと思うよ?
「まぁ、料理の腕は、ミリアさんも似た様なモンだけどね。普通に作ってるのに、食べたらブッ倒れたってオルデンのオジさん、オバさんから聞いたわ♪ あはは~♪」
「あ、それなんですけど、今では普通に作ってますよ? 治療院での料理当番にも、ローテーションで入って貰ってますから」
私が言うと、パティさんは目を丸くして驚く。
「えっ!? マジ!? 私は食べた事は無いんだけどさ、オバさんから聞いた話だと、食べた途端に何とも表現し難い不快感が全身に広まって、そのまま意識を失ったって聞いたわよ!? 何かに呪われてるんじゃないかって、不安そうにしてたんだけど… どうやって克服したの?」
呪いかぁ…
考えた事も無かったけど、あれだけ挑戦しても全くダメだった事を考えると…
先祖の誰かが食べ物を粗末にしまくって、それが呪いに繋がったと考えるのが自然か…?
いやいや、そんな非科学的な…
って、この世界は魔法って非科学的なモノが普通に存在する世界なんだから、呪いって非科学的なモノも普通に存在するのかも…
いや、それこそどうでも良いわっ!
「私が魔法でミリアさんの料理下手を改善したんですよ。当然、それだけじゃなくて、ミリアさん自身にも努力して貰いましたけどね。そのお陰で、ミリアさんの料理は治療院のメンバー全員が美味しく食べれてますよ♪」
私が説明すると、パティさんは納得した様に頷く。
「なるほど… エリカちゃんの魔法でねぇ… てか、そうでもしなけりゃミリアさんの料理下手は治らなかったワケか… つまり、ミリアさんの料理下手は、それだけ壊滅的─」
すぱぁああああああんっ!!!!
がごんっ!
「あ痛ぁあああああっ!」
突然パティさんの後頭部をブッ叩くハリセン。
パティさんは勢い余って顔面をテーブルな打ち付ける。
「あたたたた…… だ、誰よっ! いきなり人の後ろ頭を叩くなんて! テーブルに顔打った… って、ミリアさん!? いつの間に!?」
「そんなの、どうでも良いわよっ! 私の料理下手が壊滅的!? 悪かったわねっ! これでも努力したんだからねっ! エリカちゃんの休みの日に協力して貰って、それ以外の日は毎晩自分の料理で意識を飛ばして… それでも改善しなかったから、仕方無くエリカちゃんの魔法で治して貰って… 何の苦労も無く、普通に料理が出来るパティには解らないわよぉ~っ! うわぁああああああんっ!!!!」
ミリアさんは思いの丈をブチ撒け、最後は私に縋り付いて泣き出した。
まぁ、あの半年間、苦労したからなぁ…
私は泣きじゃくるミリアさんの頭を撫でる。
「あ~ぁ… ミリア泣いちゃったじゃん。パティ、あんたさぁ… ミリアが料理で悩んでた事、知ってたんでしょ? 本人が居ないと思って言ったんだろうけどさ… ハンター稼業なんて自由業なんだから、いつ帰ってくるか判らないんだよ? 不用意な発言には気を付けなきゃダメじゃん」
私と同じ様にミリアさんの頭を撫でながら、モーリィさんがパティさんに説教する。
「へっ? ハンター? お姉ちゃんもミリアさんも、ハンター辞めたんじゃなかったの? Bランクに上がったら国家の義務が生じるし、そうなったら戦争なんかで人を殺さなきゃいけないんでしょ? それが嫌でハンターを辞めたんじゃ…?」
パティさんに問い詰められ、モーリィさんは困った様に私を見る。
すると、パティさんの正面にミラーナさんが座り、苦笑しながら話し始める。
「少し落ち着きなよ、パティさん。ミリアさんやモーリィさんがハンターを辞めたのはアタシの所為だと思うし、ハンターに戻ったのもアタシの所為だと思うよ?」
「へっ? それってど~ゆ~…?」
意味が解らない様子のパティさん。
ミラーナさんは続ける。
「今から6年… いや、そろそろ7年になるのかな? ミリアさんもモーリィさんも、ロザミアで凄腕のハンターとして名を馳せててさ、周りから『早くBランクに上がれ』って責付かれてたらしいんだよね。…って、これは知ってたかな?」
「それは、まぁ… 父さんと母さんが手紙で教えてくれてましたから…」
言って頷くパティさん。
ミラーナさんは話を続ける。
「で、それが鬱陶しくなって、ロザミアを離れて王都まで逃げてきたんだよね。そこでアタシと臨時パーティーを組んでさ、何日かニュールンブリンクの大森林で魔獣や魔物を狩って遊んでたんだよ」
魔獣や魔物を狩ってたって…
しかも、それが遊びだって…
ちょっとスケールが違い過ぎませんか!?
そんな私の思いはど~でも良いとばかりに、ミラーナさんの話は続く。
「2人とは良い感じで連携が取れててさ♪ アタシとしては、このまま正式にパーティーを組んで、一緒に王都で暴れていたいな~って思ってたんだけど… って、話が逸れちまったな。とにかく、そんな風に楽しく過ごしてた時に、2人から相談を持ち掛けられたんだよ。さっきも話した『周りからBランクに上がれって責付かれてる』って事のね」
パティさんは、黙ってミラーナさんの話を聞く。
「さっきパティさんが言ってた様に、ミリアさんもモーリィさんも、戦争とは言え人を殺すのに抵抗があったみたいだね。だからアタシが進言したんだよ。『それならハンターを辞めちまえば良いじゃん』ってさ。ハンターでもない人に、Bランクハンターに成れって言うヤツは居ないだろ? 言ってくるヤツも居るかも知れないけど、そんなヤツには『私はハンターを辞めましたから』って言えば良いじゃないか』ってね」
「それで、お姉ちゃんもミリアさんもハンターを辞めちゃったんだ… じゃあ、ハンターに復帰したのって…?」
「それはアタシの所為でもあるし、エリカちゃんの所為でもあるかな? この治療院のメンバーってさ、ルディアさん以外の全員が不老不死なんだよね。それはエリカちゃんの魔法のお陰なんだけど、エリカちゃんの負担を考えて秘密─」
「秘密だって解ってるならバラすなぁあああああっ!」
すぱぁああああああんっ!!!!
ずどべちゃぁあああああっ!
私がフルスイングしたハリセンはミラーナさんの顔面に炸裂。
ミラーナさんは数回縦回転した後、リビングの壁にめり込んだ。
「はぁ… ミラーナさんが言っちゃったんで言いますけど… ルディアさん以外の全員が、私の魔法で不老不死になってます。勿論、全員それぞれ理由があるからですが… 私は永遠に傷病人を治したい、ミラーナさんは永遠にハンターとして活動したいから。ミリアさんやモーリィさんも、似た様な理由ですかね? アリアさんはエルフで不老不死に成るまでもなく長寿の種族ですが、私と一緒に傷病人を治したいそうなので… ライザさんはドラゴンで、エルフのアリアさんと同じく長寿の種族なんですが、とにかく酷い方向音痴でして… 放っておいたら、不老はともかく不死にしておかないと餓死してしまうんじゃないかって思ったんですよねぇ…」
私の話を聞き、ライザさんを凝視するパティさん。
「ラ… ライザちゃん… と言って良いのかな…?」
「うん、良いよ~♪ ボク、見た目が15~16歳だからさ、パティさんより10歳ぐらいは歳下に見えるからね~♪」
軽く応じるライザさん。
パティさんはマジマジとライザさんを見詰め…
「ブフッ! 方向音痴って、ドラゴンなのにマジ? どれほど酷いのか知らないけど、ウケる~♪ あははははははっ♪」
笑うんかい…
まぁ、ライザさん自身、方向音痴を自覚してんだかしてないんだか分からないから良いけど…
なんて思ってたら…
「パティさんがボクの方向音痴をバカにしたぁあああああっ! うわぁああああああんっ!」
と、私に抱き付こうとする。
が…
すぱぁああああああんっ!!!!
どべちゃぁあああああっ!
私のハリセンが大上段から振り下ろされ、ライザさんはリビングの床にめり込んだ。
「ウソ泣きするんぢゃないっ! 今まで方向音痴を責められてもケロッとしてたでしょうがっ!」
「あ… バレてた…?」
ライザさんは床にめり込んだまま、力無く呟く。
そこへ、ギルドでの仕事を終えたルディアさんが帰宅する。
「ただいま~♪ …って、誰?」




