第229話 モーリィさんの妹が里帰り出産だそうですが…
「ねぇねぇ。エリカちゃんってさ、お産を手伝った事ってある?」
「へっ? お産ですか?」
いきなり何の脈絡も無しに聞いてくるモーリィさんに、私は目を丸くして聞き返す。
「そう、お産。実はさ~、私の妹に2人目の子供が出来てさ。里帰り出産するって手紙が来たんだよね~」
そう言えばモーリィさん、妹が居たんだっけな。
何歳離れてるのか知らないけど、妹が先に結婚して子供も産んでるから、実家で肩身が狭いとか何とか…
「妹とは2歳違いなんだけどさ、ハンターになる様な私と違って器量良しだから、嫁に来てくれって話が成人前から結構あってさ~… 引く手数多っての? 姉として誇らしい反面、羨ましいとか悔しいって気持ちも無かったとは言えないよねぇ…」
まぁ、モーリィさんの妹がどんな見た目や性格なのかは知らないけど…
そもそもモーリィさん自身、見た目や性格は決して悪くない。
料理の腕前だって、異世界の基準で言えば何の問題もない。
では、何が問題なのか?
まずは男に対する希望が高過ぎる。
と言うか、贅沢。
3高──高身長・高学歴・高収入──は勿論、顔が良いとか性格が良いとかデブは嫌だとか…
言い出したらキリがない。
まぁ、それはミリアさんにも言える事だが…
そんな事ばかり言って選り好みしてるから婚期を逃しちゃうんだよ…
言えんけど…
「まぁ、モーリィさんが妹さんに対して羨ましいとか悔しいとか思ってるかどうかはどうでも良いとして、産婦人科学は学びましたし、お産にも何度か立ち会ったから大丈夫ですよ?」
「どうでも良いって…」
モーリィさんの抗議はとりあえず無視。
「ただ、ここは怪我や病気を治療する為の場所ですからねぇ… 出産に対応する設備なんかは何も無いんですよねぇ…」
「そっかぁ… なら、今回も自宅で出産って事になるかなぁ…?」
「今回も? て事は、1人目も自宅で出産したって事ですか?」
「うん、エリカちゃんがロザミアに来る半年ぐらい前にね。ロザミアにはお産を手伝う専門の人が居ないから、旦那さんのお母さんが手伝いに来てくれたんだけどさ」
お産を手伝う専門の人…
助産師さんとか、日本の古い言い方だと産婆さんかな?
まぁ、私とアリアさん以外に医師──魔法医──の居ないロザミアじゃ、助産師が居ないのも無理はない。
「なぁに? パティ、2人目やっと出来たの? 1人目を産んだ時、最低でも3人は欲しいって言ってたのに、随分と遅かったわねぇ…?」
私達の話が聞こえたのか、ミリアさんがリビングに入ってくるなり会話に加わる。
てか、モーリィさんの妹さん、パティって名前か。
略してる可能性もあるけど…
「1人目を私がロザミアに来る半年前に産んだって事は、7年ぐらい間が空いた事になりますね。確かに遅いと言えば遅いんでしょうけど、1人目が初の子育てでてんやわんや。落ち着くまで2人目を見合せていたって考えれば、特に問題は無いんじゃありませんかね? それに、モーリィさんの2歳下って事は25~26歳ですよね? なら、年齢的にも3人目は産めますから、最低でも3人は欲しいって希望は叶えられますよ♪」
私はニッコリ笑って2人に説明(?)する。
「てか、私がロザミアに来て6年になりますけど、お産に訪れる患者さんはおろか、お産に関する質問すら無かったんですよねぇ…? そう言った事があれば、私も設備を調えるなり何なりしたんですけどねぇ…」
私が言うと、今度はミラーナさんが…
「それならさ、治療院の裏に空き家が何軒か在るから、纏めて買ったらどうだい? で、そこを第2の治療院にしちまうんだよ。もしくは、そこを自宅にしちまうかだな。で、この建物は怪我や病気の治療を含めた総合医療施設にするんだよ。怪我や病気なんかはエリカちゃんやアリアちゃんが一発で治すから大丈夫だけど、お産みたいな日数を必要とする事態には入院する必要があるだろ? 2階のリビング、ダイニング、キッチン、風呂なんかは入院患者にそのまま使って貰っても良いだろうしさ」
と、提案してくる。
ふむ…
それはそれでアリかも知れない…
が、問題なのは…
「ちなみにですが、モーリィさん。妹さんって、妊娠何週目ぐらいか判りますか?」
「へっ…?」
私の問いにモーリィさんはすぐに答えられず、指折り計算し始める。
「えぇっとぉ… だいたい4ヶ月か5ヶ月ってトコかな? 最後の生理が来たのが5ヶ月前って手紙に書いてあったから…」
「なるほど… て~事は、17週~21週ってトコですね… で、いつぐらいにロザミアに来る予定ですか? 私としては早産の可能性を考慮して、そろそろ診察に来て欲しい時期なんですが…」
「そこまで読んでなかったな… ちょっと待ってて」
言ってモーリィさんは懐から手紙を取り出す。
持ってたんかい…
モーリィさんは手紙に目を走らせ…
「来週には来るみたいだね、ここに書いてたよ」
言って私に渡してくる。
私は手紙を受け取り、サッと目を通す。
「…みたいですね。それなら早産には対応する事が出来ます。けど、それだと裏の空き家を買う事は出来ても自宅… もしくは分娩を含めた施設を造る時間はありませんね… まぁ、入院も分娩も、治療院の空き部屋を使えば良いだけですしね」
私が言うと、モーリィさんはホッとした様子でソファーに座る。
なので私達もソファーに座り、今後の方針について話し合う。
「エリカさんって、お産にも対応出来るんですね? で、さっきミラーナさんが言ってた裏の空き家、本当に買うんですか?」
先程の話には不参加だったアリアさんが聞いてくる。
眼がキラキラ輝いて見えるのは気の所為だろうか?
「まぁ、モーリィさんの妹さんが治療院で出産したって事が… って、これからですけど… とにかく治療院で出産も請け負うって事が広まれば、これから妊婦さんが頼りにする事は充分に考えられる事ですからね。そうなれば、安心して出産出来る施設を建設するのは私の使命と言っても過言ではありませんからね」
私が言うと、アリアさんは…
「はぁ~… 怪我人や病人だけじゃなく、妊婦さんにも使命感を… やっぱりエリカさんは凄いです…」
と、相変わらず恍惚とした表情で語るのだった。
はいはい…
もう慣れたなぁ、アリアさんのこの反応…
「…で、どうするんだい? 裏の空き家を買うなら、今からでも不動産屋のランディさんのトコに行くかい? 建設業者も呼べば早く話が纏まるだろうし、設備はプリシラとグランツのオッサンに頼めば良んじゃないかな?」
ミラーナさんも的確な意見を述べてくる。
普段のミラーナさんとは180度、真逆だな…
「エリカちゃん、もしかして今…?」
「何も考えてませんよ?」
久し振りだな、この遣り取り…
それはともかく、私はミラーナさんの意見を採用。
早速ランディさんの不動産屋へと向かい、ミラーナさんはプリシラさんを、ミリアさんとモーリィさんには木工業者のグランツさんを呼びに行って貰った。
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「なるほど、それは良い考えですねぇ♪ それならば、この3軒を買えば、ここの土地も付いてきますから治療院と繋げる事も出来ますよ?」
ランディさんが地図を広げ、嬉々として説明すれば…
「とりあえず、この区画いっぱいに隙間無く建物を建設しちまえば、後から壁を壊せば治療院と繋げるのは容易だな」
「あぁ、部屋は特に弄らなくても、普通に入院患者に使って貰えそうだな」
治療院を建ててくれた建設業者さんとグランツさんは、治療院の改装についてを話し合う。
そして…
「う~ん… このエリカちゃん考案の分娩台? なかなか複雑じゃのぅ… 特に、この調整機能として背凭れの角度を調整、仰臥位(あお向け)、半座位、側臥位等様々な姿勢に対応できる。足元の部分が開閉可能で、医療スタッフが介助し易い構造になっている。可能であれば分娩後に産後ケア用のベッドへ変形… 固定用具として、妊婦が安定した姿勢を保てるように、足台やグリップが付いている。必要に応じて、分娩時の圧迫を軽減するクッションやサポートを追加… こりゃあ1台造るのに、最低でも3ヶ月は掛か─」
ばちこぉおおおおおおんっ!!!!
サミュエルさんが考えつつ言うと、プリシラさんが全力のハリセン・チョップをサミュエルさんの顔面に叩き込む。
「こんクソったれボケが! こがいに詳しゅうエリカちゃんが設計図を描いてくれとるんに、な~にが複雑なんじゃ!? こんだけ詳しゅう描かれた設計図がありゃ~、こさえるだけならせや~ないわ! たちまちこさえてから、エリカちゃんに見てもろうて調整すりゃ~ええだけじゃろうが!」
と、相変わらずのプリシラさんとサミュエルさんだった。




