第224話 ミラーナの回顧録
「アタシの話ったってなぁ… そんなに面白い話は無いと思うんだけど…?」
「いやいや、何かあるでしょ? それに、ミラーナさんは面白くないと思っていても、私達には面白いかも知れないじゃないですか♪」
私がロザミアに来てからの話がある程度終わり、今度はミラーナさんの過去を聞く事になった。
が、なかなか自分から話そうとはしない。
なので、私達からの質問に答えて貰う形で話を進める事にしたのだった。
まずは私が質問する。
「ミラーナさんがハンターに憧れてたってのはミリアさんから聞きましたけど、それって何歳ぐらいからの事なんですか?」
「う~ん… 3歳か4歳頃からかな? よく母上が絵本を読み聞かせてくれててさ。それで『ハンターって職業は格好良いなぁ』とか『自由で良いなぁ』とか思ってたんだよね」
小さな男の子がヒーロー物のテレビ番組を見て抱く感想みたいだな…
続いてミリアさんが質問する。
「それで将来の職業としてハンターを目指したんですよね? お父様やお母様には、どう説得しようと思ったんですか? 普通に考えて、王女様… それも第1王女がハンターになりたいって言っても反対されますよね?」
「説得しようなんて考えなかったよ。説得したって無駄だろうなってのは、子供ながらに解ってたからね。自分が王族だってのも理解してたし… だからハンターとしての実績を積んでいく事ばかり考えてたな」
今度はモーリィさんが質問する。
「じゃ、何歳ぐらいからハンターとしての活動を? ミラーナさんって剣の腕は相当なモンだから、わりと早い段階から魔物の討伐とかしてそうなんだけど…?」
「10歳でハンターギルドに登録したんだけど、討伐依頼を受けられる様になったのは半年ぐらい経ってからだね。剣の腕には自信があったんだけどさ、薬草の知識がちょっとね…」
頬を指で掻き、苦笑するミラーナさん。
「剣の実力さえあれば、すぐにでも魔物と戦えると思ってたんだよね… 事実、普通ならFランクからのスタートなのに、剣の腕が認められてEランクからのスタートだったしさ… でも、薬草の知識が不足してるって事で、魔物の討伐依頼を受けさせてくれなかったんだよな。薬草の事を知らなきゃ、怪我した時の治療に支障が出るって事で…」
すかさず私は突っ込みを入れる。
「…で、納得出来ずにギルドで暴れて建物を全壊させちゃったとか?」
「エリカちゃん、アタシを何だと思ってんだよ… いくらアタシでもハンターギルドの建物を全壊させられるワケないだろ… まぁ、確かにちょっと暴れたけどさ…」
暴れたんかい…
「そもそも王都のギルドは、ハンターギルドに限らず全てが本部だからな。石造りで、かなり頑丈に造られてるんだ。さすがのアタシでも、半壊させるのが… あっ…!」
語るに落ちたな…
「ミラーナさん… ハンターギルド本部を半壊させちゃったんですか?」
「ミラーナさんって、期待を裏切らないよねぇ♪」
「そんな事をして… よくハンターの資格を剥奪されませんでしたね…」
「普通だったら資格を剥奪の上、出禁だよねぇ…」
「本当よねぇ… ミラーナさん、その理由を聞いても…?」
ミリアさん、モーリィさん、アリアさん、ライザさん、ルディアさんが口々に言うと、ミラーナさんはバツが悪そうに答える。
「アタシも自分の短気は自覚してたからね… 予めハンターギルドのギルドマスターには、アタシが第1王女のミラーナ・フェルゼンだってのは伝えておいたんだよ。何か問題を起こしても、ハンター資格だけは剥奪されない様にね。当然、登録名は偽名だよ… 勿論、それらの事は誰にも漏らさない事を厳命した上でだけど…」
それを聞いた私はズバッと言う。
「それって… ちょっと言葉は違うかもですけど、職権乱用って言っても差し支えありませんよねぇ…?」
「まぁ、王女としての権威を悪用… とまでは行かないとは思うけど、それに近い事をしたかな~って反省してるよ… でも、それだけハンターになりたいって思いが強かったって事で、納得してくれないかな…?」
確かに反省してるみたいだな。
そうで無けりゃミラーナさんの事だから、開き直った様な台詞…
いや、逆ギレした様な台詞を発していたに違いない。
その場合ハリセン・チョップを一発、お見舞いしてたトコだ。
「だとすると、私達がミラーナさんと出会って臨時パーティーを組んだ時って…」
「アタシが12歳の時かな? だから、ミリアさんとモーリィさんは18歳?」
2人は頷き、しんみりと話し始める。
「と言う事は、あれから10年になるのねぇ…」
「だよねぇ… だけど、ミラーナさんがロザミアの領主に就任したのって、それから僅か3年後でしょ? 名前も見た目も違ったから、同一人物とは思わなかったよねぇ?」
名前も見た目もねぇ…
「偽名に関しちゃ、多少は考えたんだよね。名前を呼ばれた時、すぐに反応出来なかったら不審に思われるだろ? だから本名の『ミラーナ・フェルゼン』を少し変えて『ミラーシャ・フィルシン』ってさ」
微妙な名前だけど、似てる様で全く違う名前ってのは有効かな?
王都の街中で名前を呼ばれた場合、近くに王族の名前を知ってる人がが居ないとも限らない。
王都なら、遠目にでも王族の姿を見る事はあるだろうし、平民でも名前を知る機会は地方に比べて多いだろうしな。
それを考えると、本名と微妙に違う偽名ってのは有効だろう。
しかし…
「それでも見た目… 顔は変えられませんよね? どうやって誤魔化してたんですか?」
私が聞くとミラーナさんは、あっさり答える。
「カツラだよ。アタシ、小さい頃から『長い髪は鬱陶しい』って言って、今と同じぐらいの長さにしてたんだ。で、ハンター登録の際は前髪が長めの茶髪ロングのカツラを被ったんだよ。そうすれば、特徴的な紫の瞳も隠せるだろ?」
結構、考えてたんだな…
ですまぁ、紫の瞳って言っても、遠目からはハッキリ判らないんだけどな。
パッと見は『深い青』にしか見えないし…
それでも万が一を考えれば、前髪の長いカツラで隠すのは間違いではないだろう。
「でも、紫の瞳ってミラーナさんだけですよね? 他の王族の皆さんは青なのに… 何か理由でも…?」
聞いちゃいけない事かも知れないと思いつつも、私は思い切ってズバッと聞いてみる。
が、ミラーナさんの答えは…
「偶然じゃないかな…? イルモア王国の王族の血を引く者には何代かに1人、紫の瞳を持つ者が生まれるらしいんだよね。それがたまたま、アタシだったって事だと思うんだけどさ」
と、淡々としたモノだった。
深い青の目を持つ人は、照明やメイクなどによっては紫に見えることもある。
本当の紫の瞳は先天性白皮症によってのみ起こるんだけど…
ミラーナさんの肌は普通の白人って感じだから、どう見ても先天性白皮症って感じじゃない。
まぁ、紫の瞳が先天性白皮症にしか発現しないってのは前世での話だし、ここは異世界だから普通の人が紫の瞳を持っていても不思議じゃないか…
納得した私は全員に聞く。
「これでミラーナさんの過去は、だいたい解りましたね。ミリアさんとモーリィさんに関しては、特に聞かなくても良いと思いますけど… どう思いますか?」
「そりゃまぁ… 私とモーリィは、これと言って話す事はないけど…」
「聞かなくても良いって言われると、ちょっと… そりゃ、何か話す事があるかって言われると、何も無いんだけどさ…」
不満そうにしつつも、しぶしぶ納得する2人。
まぁ、ミラーナさんみたいな特殊な環境で育ったワケじゃないからな。
面白い話は期待薄だろう。
てなワケで、次のターゲット(?)は…
「じゃ、次はアリアさんですかね? やっぱり長生きしてますし、エルフの生活には皆さん興味あるでしょう?」
「わ… 私ですか!?」
私が言うと、アリアさんは大慌て。
さてさて、どんな話が聞けるかな?




